大迷惑 V












目が覚めてまず見えたのは、覚えのない天井だった。

ボ〜っとしながら瞬きを繰り返し、霞む目を擦る。するとその手を掴まれた。


「そんなに擦るなって。赤くなっちまうぞ。」

「兄さん…?」

手をどけてみると、兄がボクの顔を覗き込んできた。


「大丈夫か?気持ち悪かったりしないか?」

心配そうな兄に、何故そんな事を聞かれるのだろうと不思議に思う。


「別に何ともないけど…。ねぇ兄さん、ここってもしかして士官用の仮眠室?」

利用した事はないけど部屋の存在は知っていた。通常の仮眠室とは違う立派なベッド。研究棟の仮眠室とも明らかに違う部屋。


「確かボク中将の執務室に行ったはずなんだけど、何でこんな所に寝てるの?」

ボクの問いかけに、兄は一瞬目を見開いた。大きく瞬きをする。


「アル、覚えてないのか?」

「え、何を?」

覚えているのは中将の部屋に報告に行った事くらいだ。その後どうしたっけ。部屋を出たという記憶がない。


「中将にお茶を誘われて…、それからどうしたんだっけ。」

思い出せない事が不思議で身を起こしながら必死に考えるボクにの耳に、兄の小さな溜息が聞こえた。


「多分思い出そうとしても無理だ。お前、倒れたんだよ。」

「倒れた?嘘っ!!」

「こんな嘘言っても仕方ないだろ。現にここで寝てるんだし。」

確かにこの部屋に自分で来た覚えはない。自力で来たわけではない以上、誰かに運んでもらったという事だ。


「もしかして、兄さんが運んでくれたの。」

訊ねると兄は小さく頷いた。


「一人で?重かったでしょ、ごめんね。」

「…アルは悪くないから謝んなくていい。お前一人くらいオレだって運べるし。それよりも具合はどうだ?」

ポンと頭を軽く叩きながら苦笑する兄の表情は少し気になったが、まずは心配かけた兄を安心させなくては。

今の所具合が悪いということはない。結構眠ったのか、かえって気分がすっきりしている。

自分の体を見下ろしたアルフォンスは、腕に脱脂綿があてられてるのに気付いた。


「ああそれ、解熱剤を点滴したんだ。熱が出てたけど薬も飲ませられなかったから。」

「そうなんだ。熱で倒れたなら、風邪でもひいてたのかなぁ。」

いまいち納得出来ない様子のアルフォンス。それはそうだろう、倒れる程の熱があったなら、もっと早くに自分で気付いたはずだ。

アルフォンスに点滴したのは本当は生理食塩水にブドウ糖を足しただけの物だった。

血液中の薬成分を少しでも薄める為だったのだが、多少は効果があったようでアルフォンスは2時間で目が覚めた。

でもまだ心配だし、もっと水分取らせて出すもの出させよう。


「兄さん、本当にごめんね。ありがとう。」

申し訳なさそうに謝るアルフォンスの頬に軽くキスをして、お茶を煎れる為にエドワードは立ち上がる。

忘れていた方が幸せな事だってあるよな、という兄の呟きは、弟の耳には届かなかった。






















140001のニアピンリク。ご申告は茉莉花さん。

リク内容は
「シムピープルの実験セットネタ」で、
「正反対の性格になってしまう」
「分裂して悪のクローンが出来てしまう」
…の、どちらか一つ、書きやすい方をギャグで、とのことでした。

本当は最初別のリクを頂いていたのですが、以前書いた作品と少しかぶったので
変更をお願いしてのリクエスト。
まさかこんなに外すとは、当初思いもしませんでした。
一応ギャグというのは大丈夫だけど…。これは正反対と言えるのか。
「軍部を巻き込んだドタバタ話」というのもリクにあったので、それは書けましたけど…。
どうしてこんな話になったんだろう。ロイさんが出張りすぎたせいか。
それとアルロイ風味までは書けたけど、アルハボもどきは書けなかった。
私の中でロイ氏は受けでよくても、ハボさんは駄目らしいです(笑)
色々と突っ込み所の多い話と設定ですが、軽く流して頂けると嬉しいです。
というか茉莉花さん、こんな話になってしまってごめんなさいー!

でも軍部絡みのバカ話やコメディは、書いてる分には楽しかったです。

T U Novel