大・迷・惑 T
外出先から戻ってきた上官が、無言で小さな硝子瓶を机に置くのをハボックは見た。
「何ですか、その怪しげな瓶。」
それは透明な液体の入った瓶だった。
飲み物や栄養ドリンクの類の瓶ではない。ましてや化粧品といった風でもない。
仕舞うでもなく机の上に置きジッと眺めている上司の様子もいつもと違う。
「これか。これはな、性格が正反対になるという薬だ。」
「ハァ!?性格が正反対?嘘でしょう!」
上司の言葉に思わず声がひっくり返る。からかってるのかと見た上司の顔は割と普通だった。
これは人をおちょくって面白がってる顔じゃない。長い付き合いゆえに分かってしまう我が身が悲しい。
「お前にこんな嘘言ってもな。」
ふうっと小さく息を吐いて、ロイは硝子瓶を手に取って中の液体を揺らした。
「無味無臭で人体への副作用・悪影響無し。効果は2〜3時間ほどしかないらしい。」
「…マジなんですね?どこからそんなの手に入れたんですか。」
「医療研究室の知人からだよ。偶然の産物だが、自白剤として応用出来ないかと考えてるようだが。」
なるほど、確かに口をなかなか割らないような頑固な犯人が、正反対に素直になってくれたりすれば楽そうだ。
「でも上手くいきますかね?正反対っても妙に女っぽくなったり、泣き虫になったりしたら最悪っすよ。」
顔に傷があるような強面な連中が、乙女チックに啜り泣く姿。それだけは見たくない。
「ところで、それどうするつもりです。」
今関わってる中で自白剤擬きが必要な事件などない。何に使うつもりなんだ。
ハボックの素朴な疑問に、ロイが口の端を上げた。うわ、絶対なにか企んでる。間違いない。
「どうするって、誰かに飲ませるに決まってるだろう。」
「いや、そんなの決まってませんから。…言っときますが、俺は飲みませんよ!」
「お前に飲ませても面白くない。」
一刀両断、スッパリと言われて安心すれば良いのかどうか。では一体誰に飲ませるつもりだ。
「大尉にはなぁ、流石になぁ。ちょっと見てみたいんだが…。」
残念そうに言いながらも、ホークアイ女史には飲ませられない様子のロイ中将。
その気持ちはハボックにもよく分かった。正反対の性格になったホークアイ。見てみたいけど、後が恐すぎる。
「鋼のなんてどうだ。あの小生意気なのが別人みたいに大人しくなったりしたら、面白そうじゃないか?」
「面白いかもしれませんが、どうやって飲ませるんです。茶に混ぜるにしても、大将ここじゃ大尉の煎れたのしか飲まないですよ。」
以前まだ彼らが旅をしていた頃。司令部を訊ねてきた兄に気紛れに野郎供が茶を煎れてやった事があった。
しかしその紅茶があまりに不味く、それ以来彼はホークアイが煎れたものしか飲まない。
「そうだな。大尉がいない時を狙わないといけないのに、飲ませるのは難しいかもしれん。」
お前食堂かどっかで一服盛ってこいと言われて慌てて首を振る。
「なんで俺がそんな命知らずの事をっ!あんたが自分でやって下さいよ!」
「私だと警戒されるだろうが!上官の為に命捨ててこい!」
「戦場ならともかく、こんなアホな事で命捨てる気はありません!断固拒否します!」
キッパリと拒否されてロイが思いっきり顔を顰める。少々丸っこい顎をさすりながら、彼がポツリと言った。
「ターゲット変更だな。」
リク内容から激しく逸脱したバカ話のくせに続きます…。
色んな方にゴメンナサイ(平伏)