「ずっと一緒にいよう」 それは遠い日の僕らの約束 永久の誓い〜プロローグ〜 「…っ!」 いきなり背中に走った鋭い痛みに、僕は小さく声を上げた 「アル?どうかしたか?」 ソファでくつろぎながら本を読んでいた兄が、それを聞きつけて声を掛けてくる 「…ううん、何でもないよ。急に姿勢を変えたせいかな?背中がちょっと攣ったみたい」 僕は苦笑いしながら兄に答えた。本当はまだ痛む事など気付かれないように 「何だそれ。姿勢を変えたくらいで攣るもんか?」 そう言えば、この所あんま組み手してないしな。運動不足か 笑いながら話す兄に、僕もそうだねと笑みを返す 悪い予感はしていた 僕らがそれぞれの体を取り戻してから5年の月日が流れていた 取り戻した僕の体は、失った当時のまま10歳の体だった それでも生身の僕の体だ。それで充分だった 5年の歳月を経て、見た目は15歳になった僕は、飛び級をしてもうすぐ大学院の博士課程を修了する 生身の手足を取り戻した兄は、遅いながらも成長期が来たらしく順調に背も伸びていた 今は国家錬金術師を辞め、軍の研究室に所属している 僕も大学を出たら、兄と同じ研究室に入る事が決まっていた 大学院にそのまま残る事も魅力的だったが、兄と一緒にいたかった 兄の手助けをしながら、同じ研究に携われる事がとても嬉しかった 僕らの日々は一見順調に、幸せな毎日を過ごしているーはずだったのだ 全ての検査の結果が出揃った時、僕は恐怖し絶望した それは迫り来る死への恐怖ではなく、残された兄のその後への恐怖だった 今の兄に、僕の死が受け止められるのだろうか。受け入れられるのだろうか 幼かったあの頃の僕達とは違う。それでも 僕はもう充分だった。生きていたいとは思うし、まだ兄の傍にいたいとも思う だけど僕は本来あの時に死んでいたはずの人間だ。それが兄のおかげで生き長らえた 鎧の体で5年。こうして生身の体で5年。10年もの時間を兄と共に過ごす事が出来た それだけでも充分に幸せだったのだ だけどその幸せの分、それをなまじ知ってしまっただけに、再び訪れる別れを兄は受け止められるのか どうして僕達はこうなんだろう こんな事になるのなら、兄の想いに答えなければ良かったのだろうか 体を取り戻した後、躊躇いがちに伸ばされた手を取らなければ 拒んで別離の道を選んでいれば そうしていたら、兄にとって自分はいずれ普通の弟になって その死を悲しみながらも受け入れられる存在になっていたのだろうか そんな仮定の話は無駄だと分かっていても、考えは止まらない だって恐くて仕方なかったから 兄にとって自分は、たった一人の家族で弟であると同時に、恋人だった それが病でそう長くは生きられないと知ったら?そうして死んでしまったら? 後を追うか、もしくはまたー そこまで考えて、ぶるりと震えが走る それだけは駄目だ。魂にしろ何にしろ、もう二度と兄に禁忌を犯して欲しくない それくらいなら、いっそのこと …僕はどうしたら良いのだろう。どうすれば兄の為になるの 考える時間はあまり残されていない 裏倉庫 Next |