一気に駆け上がった熱は徐々に冷め、荒い呼吸もおさまっていく

やっと静まった鼓動を確認して、アルフォンスは組み敷いたエドワードの額に口付けをした





「ねえ、姉さん」

「ん、何だ?」

少々気怠げだったが、それでもしっかりと返事を返す姉に微笑む





「僕ね、今度の使節団に参加を希望したのは、自分を見つめ直す為だったんだ」

「見つめ直す?」

「うん。…姉さんの事を好きなんだって気付いて、諦められそうになくて。
 
 そのまま姉さんの傍にいたら、自分が何をするか解らなかったから。

 もしかしたら無理矢理にでも姉さんを抱いていたかも知れない。それが恐かった」



思いがけないアルフォンスの言葉に、エドワードは驚いて思わず弟の顔を凝視した

そんな姉に苦笑いを返して、アルフォンスは続ける





「だから少し姉さんから離れようと思ったんだ。それで冷静にならなきゃって思った。

 でも駄目だったよ。却って離れちゃうと姉さんの事ばかり考えちゃって、想いが募っていって。

 結局どうしようもないんだって、そう思ったら開き直れた」


キョトンとした表情で自分を見る姉の額に小さなキスを贈る





「姉さんを誰かにとられるのは我慢出来そうになかったし、諦めるつもりもなかった。

 だから苦しくても絶対離れないって、ずっと傍にいようって決めたんだ。

 そうしていつか姉さんを捕まえてみせるって、そう思ったんだよ」

「アルフォンス…」





知らなかった。アルフォンスがそんな想いを抱えて旅立っただなんて

自分が気付かない所で、そんな風に苦しんでたなんて





「アル…、ごめんな。俺、全然知らなくって…」

悲しそうに小さな声で謝る姉に、アルフォンスは笑って見せた

それは本当に幸せそうな、心からの笑みだった





「知られないようにしていたのは僕なんだから。それを姉さんが気に病む事はないよ。

 それよりも今回僕達が離れた事で、姉さんがこうして僕を好きだって気付いてくれた。

 まさか姉さんも僕を好きだったなんて思いもしなかったから、凄く嬉しい」


アルフォンスは、自分に伸ばされた姉の手を取り、頬に当てた





かつて自分の魂を錬成する為に失われたその手。今は生身の温かくて柔らかな手

そしてそれを感じる事の出来る今の自分





「ねえ、わかる?今僕は本当に幸せなんだ。言葉に出来ないくらいに幸せなんだよ。

 この幸せをくれたのは姉さんなんだ。貴女だけが僕を幸せにしてくれる。

 だから僕も同じだけの…、ううん、それ以上の物を姉さんに返したい。

 姉さんが誰よりも幸せになれるように、僕の全てできっと幸せにしてみせるから」



だから姉さんの一生を僕に下さい



誓いの言葉は耳元で。囁くように、それでもしっかりとエドワードの耳に届いた





エドワードの瞳から涙が溢れる。嬉しくて、これ以上ないくらいに幸せすぎて

嬉しくて涙を流したのは、お互いの体を取り戻して以来だった

あの時よりも、満ち足りた想いが胸に溢れてくる

エドワードは何度も頷きながら答えた





「俺も、お前を幸せにするから。だからお前の一生も俺にくれ、、アルフォンス」

微笑みながら、温かな涙を流し続けるエドワードを、アルフォンスは優しく抱き締めた

その背にそっと腕をまわし、エドワードもアルフォンスを抱き留める





神に誓う必要はない。結婚という形を取れなくても良い

二人で願った奇跡は、いつだって二人の力で叶えてきた

これからも、そうして歩いていけば良いのだから


















そうしてひときしり泣いた後、エドワードは気になっていた事を弟に聞いてみた





「…それよりもアルフォンス。いつまでこうしてるつもりだ」

「いつまでって?」

アルフォンスは微笑しながら、わざと大きく身動きをしてみる





「ぁ…っ!ばっか、アル…!動くなって!そろそろ抜けよ!」

「んー?だって姉さんの中って温かくて気持ち良いんだよ」

「馬鹿言ってないで…、あっ、ん…っ!…ってアル!?」

「ねえ、解るだろ?今の僕の状態。姉さんが悪いんだからね」

「ど…して、あっ、ひぁん!…っ、俺が悪いんだよ…!」

「そんな可愛い表情で僕を誘う姉さんが悪い。…堪んない」





耳元でそんな台詞を囁かれて、エドワードの体に得体のしれない痺れが走る

その瞬間弟自身を強く締め付けてしまい、アルフォンスの眉が寄った

何とかその瞬間をやり過ごして、アルフォンスは意地悪く微笑みながらエドワードの耳に舌を差し入れる





「ほら、そんな風に僕を挑発するんだから。覚悟してよね…?」



どんな覚悟だよ!と怒鳴り返そうとした唇を塞いで、アルフォンスは律動を開始した











二人の初めての甘い夜は、まだ始まったばかり





















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