「おい、アルフォンス。兄貴が女生徒に囲まれてたぜ」
ウィンリィに数学のレクチャーをしていたアルフォンスは、教室に入ってくるなり声を掛けてきたクラスメイトをキョトンと見た
「兄さんが女生徒に?何それ」
「まさか団体でエドに告白ってのもないでしょうしね」
いや、それは無いだろうとクラスメイト
入学時、見た目は格好いいエドワードに告白してくる女生徒は結構いた
だがその実体が極度のブラコンであると判ると、その数は激減。今ではまったくない
「メンバーの内の一人がな、どうもアルの周りを彷徨いてたヤツっぽいんだよなー。何か雰囲気も悪かったし」
その言葉を聞きアルフォンスはガタッっと椅子を鳴らして立ち上がる
ウィンリィにごめん、と謝ると、兄達がいた場所を聞き出し、素早い動きで教室を出ていった
嫌な予感がしていた
学園天国U
「エドワードさんのアルフォンス君への執着は変です!このままじゃアルフォンス君は彼女も作れません!」
金切り声を上げながら集団で文句を言ってくる相手に、エドワードは少々、いや大分ウンザリしていた
これが男だったら容赦はしない所なんだが、如何せん女生徒5人。どうにも調子が狂う
ハーッと大仰に溜め息を吐くと、エドワードは目の前の女生徒達を小馬鹿にしたように見た
「あのなー。あいつは本当に好きな女がいれば、俺に遠慮なんてしないでさっさと告白して彼女にしてるよ」
「だって今まで誰の告白も受けてないじゃないですか?!」
「それは告白してきたやつらが好みじゃなかったからだろ。自分達が振られたからって、何でも俺のせいにするんじゃねえ」
その台詞にカッとなった女生徒が、更に声を荒げて食い掛かる
「それでもあなたがアルフォンス君にいつも着いて回っているから、アルフォンス君に告白出来ない女の子も多いんですよ?
エドワードさんの存在がアルフォンス君の迷惑になってるのが解らないんですか?!」
「アルフォンス君は優しいから、お兄さんのあなたに酷い事は言えないでしょうけど。
でも絶対迷惑がっているに決まってます!!」
ーその言葉にギクリとした。それはずっと心の奥底で考えていた事だったから
アルが自分を大切に思ってくれている事は分かっていても、それは兄としてで、たった一人の家族としてで
こんな浅ましい想いは、アルを欲しいと望む気持ちは…、アルにとって重荷なのではないかと
隠すつもりも恥じるつもりもない。でもこの想いがアルフォンスの負担になるのなら、自分はー
「君達に何が解る」
冷たい怒気を含んだ声がその場に響く。自分の思考に気を取られていたエドワードがハッと後ろを向く
そこに立っていたのはアルフォンスだった
「アル・・・」
小声で呟く兄には答えず、アルフォンスは無言でエドワードと女生徒達の間に立ち塞がった
その顔は、いつも柔和なアルフォンスとは思えない程に無表情で強張っていた
「あ、あの、私達・・・」
突然のアルフォンスの登場に戸惑う女生徒達。助けを求める様にお互いの顔を見合っている
「君達に何が解るんだ」
先程と同じ台詞を繰り返し、エドワードに詰め寄っていたその面々をさっと見回す
「君達が僕らの何を知っている?兄さんの、僕の何を知っているというの。
勝手に僕の気持ちを代弁しているかのように言わないでくれ」
静かな声だった。決して声を荒げている訳ではない。却ってそれが恐い
「僕らの間の事は、僕らが決める事だ。君達に指図される謂われはない。何より」
一度言葉を切ると、スッと目を細める。一瞬その目がギラリと光った気がして、女生徒達は身を竦ませた
「兄を侮辱する事は、この僕が許さない」
常に無いアルフォンスの怒りを間の当たりにして、凍ったように固まる面々を冷たく一瞥し、アルフォンスは兄を促してその場を後にした
「アル・・・」
表情を強張らせたまま、一言も発しない弟の様子に不安を抱いて声を掛ける
すると足早に歩いていたアルフォンスの歩みがピタリと止まると、キッと兄を振り返った
「こ…の馬鹿兄!!何であんなに好き勝手に言わせてるんだよ!!反論くらいしろよ!」
その声は怒ってはいるけれど、先程の様子とは違い、いつものアルフォンスだった。その事に少しだけ安堵する
「だけどな、あいつらの言ってる事も一理あるしさ。…俺の気持ちや存在は、アルの負担になりかねないだろ」
その言葉を聞いた瞬間、アルフォンスの表情が少しだけ変わった
「いつ、僕が兄さんの存在を負担に思ってるなんて言ったのさ」
「解ってるよ、お前がそんな風に思うやつじゃないって事ぐらい。客観的事実ってやつだ」
「じゃあ、僕が兄さんの気持ちは迷惑だって言ったら、兄さんは僕を諦めるの」
「いや、それは無理」
それだけは曲げられない事実だったから、俺はきっぱりと答えた
「いくらアルの負担になろうと、気持ちは変えられない。変えるつもりもないしな。
ただそれを隠そうともせずに表に出す事は、アルの為にはならないかもって考えただけだ」
そう言うと、アルフォンスは悲しそうに顔を歪めた
「アル…?」
「馬鹿だよ、兄さんは」
「うん、ごめんな。馬鹿な兄貴で」
「・・・・・・本当に馬鹿」
小さくアルフォンスが呟く。同時に腕を伸ばし兄の首筋にしがみついた
「ア、アル?!」
突然のアルフォンスの行動に戸惑うエドワード
兄の焦ったように自分を呼ぶ声を聞き、アルフォンスはキュッとしがみつく腕に力を込めた
「ごめん。馬鹿なのは僕だ」
首筋に顔を埋めて呟く小さな声としがみつく腕が、少しだけ震えている
それを感じ取り、エドワードはアルフォンスの体にそっと腕を廻した
「今までの関係が変わってしまう事に怯えて、兄さんに甘えてた。本当は気持ちなんてとっくに決まってたのに」
その言葉に、思わずアルフォンスの背に廻した手がギュッと制服を掴んだ
「兄さんの気持ちが負担になるはずなんてないんだ。ずっと嬉しかった。もっと僕を見て、僕だけを欲しがってっていつも思ってた」
「アルフォンス…」
呆然としたように自分を呼ぶ兄の声に、アルフォンスは顔を上げその目を真っ直ぐに見詰めた
「僕は兄さんが好きだよ。家族とか兄弟とか、そういう気持ちとは別の意味でも」
もう、何も考えられなかった。目の前の存在で全てが埋め尽くされる
自分を見詰めるアルフォンスの頬に手を添えると、切なげに目を細めるから
そのまま今までの想いをぶつけるかのように、初めてその唇に自分のそれで触れる
合間に唇が少し離れるのも惜しいくらいに、貪るように口付けた
「兄さ…ん、んんっ」
艶を含んだ声に、背筋に這い上がる何かを感じる。それに煽られてさらに口付けを深くした
一通りその甘い唇を蹂躙した後そっと離れると、アルフォンスはふぅっと溜め息ともつかない吐息をはいた
力が抜けたように兄の肩に額を乗せて、抱き締める腕に体重を預ける
その様子を見ながら、エドワードはアルフォンスの耳元で囁いた
「もう、戻れないぞ」
「うん」
「アルが泣いて嫌がったって、離してやれねーからな」
「うん」
「ずっとお前だけが好きだから」
「うん、知ってる。僕もずっと好きだよ」
ーだが、甘い雰囲気になっていたのはそこまでだった
「さあて、これから大騒ぎになるなー」
もう一度キスしようとする兄の懐からするりと抜け出して、何やら考えながら呟くアルフォンス
「アル?騒ぎって何だよ」
「んー、すぐに分かるよ。それより教室に戻ろうか」
アルフォンスは兄の腕を引っ張ると、ずんずんと歩き出す
訳も分からないまま、エドワードはアルフォンスに引っ張られるように教室への道を戻った
辿り着いたガヤガヤと賑やかな教室。アルフォンスは教卓近くに来ると、クラスメイト達に声をかけた
当たり前のように教室中の視線がアルフォンスと、その横で不思議そうにしているエドワードに向く
教室中の視線が自分達に向いている事を見渡して確認するとー
アルフォンスは、何と
兄の胸ぐらを掴むと
勢いをつけて、エドワードにキスをした
シーーーーーーーンと静まりかえる教室
兄の胸ぐらを掴んでいた手をパッと離すと、アルフォンスはクラスメイト達を振り返る。そしてにっこり笑って更なる爆弾投下
「こういう事だから」
それだけ言うと、今起こった事を把握出来ずに口元を押さえて真っ赤になる兄を置いて、自分の席へと戻っていった
その途端、教室内が阿鼻叫喚の渦へと変貌する
「嘘だろ、出来ちまったのかよ!」
「マジかよ!それだけは無いと思ってたのにっ!!」
「どーしてくれるんだ、俺の2千円!!!」
「おい、二人がくっつくに賭けてたヤツっているのか?!大穴だぜ!」
・・・驚きの方向性が違うような気がする
ってか、2千円って何だ。大穴ってなんだ
「・・・・・・お前ら、俺達で賭けしてやがったのかーーーー!!」
ようやっと自体が飲み込めたエドワードがぶち切れる。そこへウィンリィのスパナが炸裂した
「落ち着きなさいよね、この馬鹿」
「こっの、何しやがるウィンリィ!」
「いーからこっち来なさい!」
物凄い形相になっているエドワードを、事も無げに引っ張るとアルフォンスの隣の兄の席へと座らせる
怒りのエドワードをウィンリィとアルフォンスが引き受けたのを見て、クラスメイト達は賭けの元締めの元へと殺到して行った
その様子を横目で見送り、アルフォンスとウィンリィは顔を見合わせる
「でも、エドったら賭けの事ほんとに知らなかったのね」
「まあ、兄さんだし」
「おい待て。って事はお前ら知ってたのか?!」
「知らなかったのはエドくらいじゃない?生徒どころか先生だって賭けてるのに」
「何だそれ!教師が賭け事して良いのかよ?!」
「何固い事言ってるのよ。別に良いじゃないの。それよりかでかしたわ、エド、アル」
「あ、もしかしてウィンリィ、大穴に賭けてた?」
「うっふっふー♪ご慧眼!大穴はたった二人だったのよー。凄い配当よぉ」
「お前な。幼馴染みをそんな賭けの対象にして良いと思ってるのか」
「なによ。幼馴染みだからこそ、二人がくっついて幸せになるに賭けてあげたんでしょ。
ちなみに大穴に賭けてたもう一人はロイ先生よ」
「・・・・・あの野郎。マジでぶっ殺す!」
プルプルと拳を振るわせる兄。そっかー、やっぱりロイ先生にはばれてたんだね、と冷静な弟
それから学園内は暫くの間、有り得ないと思われていたカップルの誕生の話でもちきりになった
騒ぎがやっと収まったのは1ヶ月も後の事だったという
続きが書けたらなー、と思っていた学園の2作目を
大好きな夜羽さんのサイトの2万打記念に捧げます♪
何しろ夜羽さんのリクから生まれた学園物だったのでv
受けでも男前なアルだと嬉しいな、という願望が入りまくりの作品
宜しければお受け取り下さいませv
そしてめっちゃ短いおまけ