それなりにシンデレラ W
















「だから、俺は国家錬金術師になりたいんだってば!」

「駄目よ、貴女を軍属なんかにはさせないわ。

 大体今までそんなに乗り気じゃなかったのに、どうして今頃そんな事を言うの。」

義母に理由を問われてエドワードは黙り込んだ。城に行った事も内緒なのに、アルフォンスの事を言うわけにはいかない。

だけどまさかここまで反対されるとは思っていなかった。家族の意志は強固で揺らぎそうにない。

だがそれはエドワードの方も同じだった。



「どうしても分かってくれないなら、俺にだって考えがあるからな!」

「エドワード君!!」

家族が自分を呼ぶ声は聞こえたけど、今のエドワードを引き留める事は出来ない。

そのまま勢いよく玄関に向かう。



「うわっ!」

壁に跳ね返る勢いで開いたドアの傍で、慌てたような声が聞こえる。

エドワードが顔を上げると、そこにいたのは彼女が会いたくて仕方なかったあの青年。アルフォンスだった。

一方アルフォンスの方は、今まさに開けようとしたドアがいきなり乱暴に開いたのを間一髪で避けて。

どうにも激しくなる動悸を整えてる所だった。



「はあ、びっくりした。急に開くんだもん。こんにちは、でももしかして出掛ける所かな?」

「あー、えーとまあそのつもりだったんだけど…。ってか何でアルフォンスがここにいるんだ?」

ポカンといった様子でこちらを見上げてくる少女。そのあどけなさが好ましく感じる。



「もちろん貴女と話がしたくて来たんだけど…。用事があるなら出直してくるよ。」

出来れば今日話したいんだけど。どこかで時間を潰していようかな。

「いや、用事というか出掛けるというか。用事の方からやってきたというか。」

「用事の方からって。…もしかして、ボクに会いに行こうとしてくれてたとか?」

「その為の前準備だな。城勤めのアルフォンスにまた会うには、国家錬金術師になった方が早いと思って。」

だから試験受けに行こうとしてた。あっさりと言われてアルフォンスは驚いた。

国家錬金術師試験は難関中の難関。それをボクと会うために受けようとしてくれたのか。



「ところでアルフォンスはどうしてこの家が分かったんだ?俺、名前しか言ってなかったよな。」

あの時、ホークアイと偽名を使ったのに。エドワードという名前だけでよく探せたものだ。

「ああ、招待客の中にホークアイという名はなかったけど、貴女がエルリック家の長女というのはすぐ分かったよ。

 結構有名だから。国家試験を受けたら合格間違いなしの金髪金眼の錬金術師だって。」

噂の錬金術師がエドワードという名なのは知らなかったが、その風貌と彼女を結びつける事は簡単だった。

評判になってるの知らなかった?と聞かれて、エドワードは首を振る。そんな事で有名になってるなんて、知るはずがない。

「それで会いに来てくれたのか。」

エドワードが嬉しそうに笑う。その笑顔を見て、アルフォンスの胸が熱くなった。



やっぱり違う、彼女は他の誰とも違う。

今まで女性は守らなくてはいけないという存在だった。ただ可愛いとしか思えなかった。

だけどエドワードはそれだけじゃない。

その笑顔を見ているだけで、苦しい程に幸せだと思うなんて。

こんな風に思うことがあるなんて、自分の中にこんな感情がある事すら知らなかった。

会えば自分がどうしたいのか分かる。そう言った王子の言葉が今本当の意味で理解できた気がする。



「…会いたかった。会って、話がしたかったんだ。」

「話?」

「うん。…びっくりさせちゃうと思うけど、聞いてね?」

そう言うと、アルフォンスはエドワードの目の前で片膝をついて跪づいた。



「エドワード・エルリック嬢。どうかボクと結婚を前提にお付き合いして下さい。」

「…ア、ル…?」

言われた言葉が衝撃すぎて、その名を呼ぶ事すら出来ない。

驚きに口をパクパクさせているエドワードをアルフォンスが見つめる。



「いきなりでごめん。でもどうしても伝えたかったんだ。…貴女が好きです。」

アルフォンスの名を呼ぼうとしたエドワードの口が、そのままの形で止まる。

これ以上はないくらいに大きく見開いた目が瞬きを繰り返していたがー。



「どうして泣いているの?」

「え…?」

言われて顔に手を当ててみると、確かに頬が濡れていた。

どうして、だなんて自分にも分からない。



「泣くほど嫌だったかな。」

困ったように、寂しそうに苦笑するアルフォンスに、エドワードは慌てて首を振った。

「ちが、違う!何で涙が出たのか分からないけど、嫌だなんて思ってない!」

エドワードの言葉に、アルフォンスがホッとしたような表情を浮かべた。



「じゃあ、やっぱりびっくりさせちゃったんだね。返事はまた今度でも良いから。だから考えておいて。」

「返事…。」

返事って、さっきのあれだよな。結婚を前提にって。



「俺たち、この間会ったばっかりだぞ?」

「うん、だからボクも驚いてる。」

「何だよそれ。」

アルフォンスの言葉に思わずエドワードが吹き出した。クスクスと笑う少女に、アルフォンスも笑いながら返す。



「時間なんて関係ないよ。ボクは貴女にまた会いたいと思ったし、ずっと一緒にいたいと思った。

 その気持ちだけで充分じゃないかと思うんだ。」

その言葉を聞いてエドワードも考えた。

会いたいと思った、その気持ちは一緒だ。だからこそ家族に反対されても国家錬金術師になろうと決めたのだ。

大切な家族の反対を押し切ってまでそう思った気持ちは。こうして会えて嬉しいと思う気持ちは。

そしてプロポーズされて涙が出た訳は。



嫌だなんて微塵も感じなかった。驚いたのは確かだけど、それだけで泣いたりなんかしない。

あの時湧き上がった感情の正体、その源は。



きっと、アルフォンスと同じものだから。






「返事、今するよ。」

気を抜くとまた零れそうになる涙を堪えながら、エドワードはアルフォンスに告げる。



「嬉しかったんだ、俺。さっきのアルフォンスの言葉。…凄く嬉しかった。」

そう言うと、エドワードは未だ跪いたままのアルフォンスに手を差し伸べた。



「…謹んでお受け致します。」

頬を染めながら受諾の言葉を口にしたエドワードを、一瞬驚きの表情で見詰めて。

それからアルフォンスは差し出された手を恭しく取り、そっと口付けた。

そして愛しい少女を見上げて、優しく微笑む。





「絶対に幸せにするから。ずっと傍にいてね。」

「ああ、これからはずっと一緒にいような。」











その後ー。結局エドワードは国家錬金術師の資格を取り、夫となったアルフォンスと共に城仕えの身となりました。

二人の息はまさしくピッタリで、錬金術の腕前・知識は他に並ぶものなしと噂されるほどでした。

国の歴史史上初の夫婦国家錬金術師となった二人は、日々切磋琢磨して腕を磨き競い合い。

互いに誓い合った言葉の通り、生涯離れず幸せに暮らしたということです。





















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