目隠しの森 序章






嘘だろ、と少年は呟いた。
ありえない事が今現実になっている。

その土地の力を封じる事は少年の悲願だった。その為なら何でもできると思っていた。
誰にも言ったことはなかったが、もし、封じる為に自らの命が必要でも差し出すつもりでいた。
もうこの土地で誰かが傷つかないのなら、自己満足と言われようとそれで良いと思っていたのだ。

でもそれはあくまで自分の命ならの話で。
自分以外の誰かの命が失われるなんてあってはならない話だった。
ましてやそれがー、兄の命だなんて。

嘘だ、ともう一度少年は呟く。だが目の前にはただ当たり前の学校があるだけだった。力を失った、かつての烏森が。

気配を探っても、遠くに横たわって気を失っている少女の姿しかなく。
確かに先程まで傍にいたはずの兄の気配は欠片もない。
その認められない事実に少年の全身がドクリと波打った。頭から波が引くようにザァッと音を立てて血の気が引いていく。



嘘だ、と少年は叫んだ。
嘘だそんなの違う。こんなはずじゃ。だって何で兄貴が。
何故兄が自分を庇って消えなくちゃいけない?

「やめろよ…。こんなのってないだろ?なあ烏森。兄貴を返してくれよ。返せ、返せ返せ返せ、返せよ頼むから…っ!!」

拳で地面を叩きながら少年は叫ぶ。何度も打ち付けた拳は皮膚が裂け血が飛び散ったが、痛みに気付くことなく少年は絶叫していた。
だがそんな悲痛な叫びは誰の耳にも届くことなく、暗い夜の闇の中に消えていった。








2008.5.25


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