悠久の流れ 永遠の孤独W
「荷物、これで大丈夫?」
「ああ。これ以上増やしたら邪魔になるだけだ。」
二人が手にしているのは、かつて旅をしていた頃使っていた物より一回り大きめのトランク。
お互いにひとつずつ、自分の身の回りの物を一通り。たったそれだけの荷物。それを見てアルフォンスがクスリと笑う。
「旅慣れしすぎだよね。これだけで済んじゃうなんて。」
「まあな〜。でも必要な物は現地調達も出来るし作ったっていいし、こんなもんだろ。」
玄関を出てトランクを足下に置くと、二人は言葉もなく家を見上げる。
短い時間だったが、そこは兄弟が束の間手に入れた「帰る家」だった。
「手紙は置いてきたけど。ボク達がいきなりいなくなって、この家も消えたら。きっとウィンリィ泣いちゃうだろうね。」
ボクらは彼女を泣かしてばかりだ。いつだって大切にしたいと思っているのに。
「この家が残ったままの方が辛いはず…だろ?」
エドワードの言葉にアルフォンスは無言で頷いた。
人が住まなくなった家はすぐに荒んでしまう。
誰もいなくなった家が荒れていくのを、大切な家族に見続けさせるわけにはいかなかった。
そして、老いることのなくなった二人の姿を見せるわけにも。
遠く離れても、もう会う事がなくても。元気でいるのだと時々伝えて。
変わらなくなってしまったこれからの姿としてではなく。かつての懐かしい二人を思い出してもらえるように。
この地から全ての痕跡を消していくことを選んだ。
二人は一瞬見つめ合うと、もう一度家に視線を移しその場に跪く。
綺麗に重なる軽い音と共に眩いばかりの光が家を包み込む。
そして残されたのは、全ての物が炭化した跡。それもすぐに崩れて風に乗り消えていった。
ーボクらの一番の罪は、幼い日に犯した罪ではなくて。お互いを手放せなかったこと。
他の何よりもお互いを望み、そしてその手が離れるのを許せなかったことだ。
それでも。この身に起きた事、それが罪の証、ボクらにくだされた罰だとしても。
あなたと共にいられるのなら、その罪にすら感謝しよう。
あなたと共に進む道を、後悔することだけはないように。
他の誰とも触れ合えず、親しい人達を見送ることしかできない身になっても。
悠久の時の流れに取り残されて、やがてボクらを知る人がいなくなっても。
あなたと共に生きていけるなら耐えられる。永遠すら孤独ではない。
さよなら。この地も、ボク達の大好きだったあなた達も。今までありがとう。
そうして二人は新たに旅立った。あてもなく、終わることのない旅路へと。