ひらりと目の前に突き出された、女子高生には大きすぎるように見えるセーラー服。 害は無いはずであるそれに、どうしようもなく動揺したのは、後の悲劇を予想したからだったのだろうか。 ───と、今更どうしようもなく、アルフォンスは思った。 鎧のセーラー服。 ことの始まりはやはり兄であったとしか言いようがない。 東方司令部まで赴き、愚痴を言いながら宿まで帰る途中で見かけた、楽しそうにおしゃべりをする女子高生たち。きゃらきゃらと笑いプリーツのスカートを翻して歩いていく。それを兄さんがじっと見ていたときに、もう止めるべきだったとアルフォンスは後悔した。 だって、その時は兄さんがやっと女の子に興味を持ったと思ったんだ。深い、ふかあい溜息をアルフォンスはついた。(ついた、と言っても鎧なので息は出ませんが。) その後、寄る所があるといってエドワードが姿を消し、アルフォンスは一人で宿へ帰った。あの女の子たちに声でもかけるのかしらん。右の髪の長い可愛い子かな。それとも二つにみつあみにしてた左の綺麗な子かな。そんなことを思いながら荷物を直した。一人きりの宿は何だか寂しいような気もしたが、兄が幸せなんだったらいいかな、とちょっと思った そんな仏心、持たなきゃ良かった。 エドワードは大分時間がたった後、帰って来た。どうしたの、こんな時間まで。そうアルフォンスが問うと、照れくさそうに笑ってちょっとな、と言葉を濁した。そして少し顔を赤らめたのだ。だからこれは決定的だと思った。兄さんはあの女の子のうちの一人に一目惚れをして、その子とお話をしてきたんだ。まさか兄さんに先を越されるとは思わなかったが、とてもめでたいと思った。だけれど兄さんが話すまでは待とうと思って、ふうん、と気の無い返事を返した。 それは大きな誤りだと発覚したのはそれから3日後である。 いつもは東方司令部によっても一日二日で他の場所へ行こうとする兄が珍しく3日も留まるからよっぽど本気なんだと思ったら、3日目の夜に兄は本気で嬉しそうな顔をして、大きい箱を脇に抱えて帰ってきた。そうしてどうしたのそれ!と言うと、いいもの!と笑った。本当にすごーく嬉しそうに笑うもんだから、よっぽどいいものなのかと思ってアルフォンスはその箱を覗き込んだ。エドワードはその弟の反応に気を良くして、いそいそと箱を開けた。 途端、アルフォンスは絶句した。 中に入っていたのは、セーラー服だった。紺色の、しかも特大の。 「な?いーだろー」 にこにこ笑ってエドワードが言う。アルフォンスは絶句したまま何も言えなかった。え、何。これはなに。セーラー服?あの女の子達が着てたのと同じ、デザイン。プリーツスカートも付いている。総じて気になるのは、その大きさだった。 どう見たって普通の女の子が着れる物じゃない。エドワードだって無理だ。マスタング大佐でも無理だと思う。着れるのは・・・・・・ 「・・・・・・アームストロング少佐にでも、あげるの?」 「なんでだよっ!!」 おそるおそるアルフォンスが聞くと、鳥肌を立ててエドワードが否定した。そ、そうだよね。ほっとした。ちょっと想像したくない。だとしたら、誰に? 本気でアルフォンスが悩みだした頃、エドワードはアルフォンスの前にセーラー服を引き出した。そして、にんまりと笑った。 「お前のために作らせたんだ。可愛いだろ?」 正気かなこの人、とアルフォンスはフリーズした。 とりあえず聞いてみた。 「・・・・・正気?兄さん、風邪引いてるんじゃない?それで頭がおかしくなってるんじゃ」 「失礼だな、オレは正常だ」 「じゃあどうしたの?頭打った?」 「打ってねえ。正気も正気だ。」 自信満々に答える兄に、アルフォンスはぐるぐると混乱する。え、何?この引き出されたセーラー服は何?着ろって事? ま さ か 。 いやいや、いくら兄さんが変態だって言ってもそこまではしないはず。と、思っていると、頬を赤らめてエドワードが床に視線をやった。 「いや、錬成しても良かったんだけどさ、ここは頼んだ方が良かったかなーって。プリーツとか綺麗に出るし。いくらオレでもセーラー服の作り方はわかんねえしさ。紺を選んだのはお前の鋼の色に映えるかなって思ってさー」 ヤバい、この人、大マジだ。 頬を染め、乙女然として照れながら変態発言を次々と繰り出す兄に、アルフォンスは兄が遠くへ行ってしまったかのような錯覚を受けた。ああ母さんごめんなさい、たった一人の兄さんは変態になってしまいました。 「てことでほらアル、着てみろって」 「・・・・・・は?」 あまりに突然のことで、アルフォンスは声が震えのたがわかった。あまつさえこの人は今なんと言った。「着てみろ」?何言ってるんだろこのひと。 「・・・・・・イヤ」 「なんでだよ!!こんなに可愛いんだぞー!!」 「だからだよこのバカ兄ー!!」 こうして、口論の末。 ・・・・・・・勝ったのは、何の因果か執念か、エドワードであった。 「どうだーアル、着心地はっ♪」 「・・・・・」 妙にご機嫌なエドワードはいつもは過敏なほどに気が付くアルフォンスの心の機微に気付いていなかった。アルフォンスの胸は今絶望でいっぱいだった。 ────兄さんが、ようやく女の子を好きになったと思ったのに。 はあ、と出るはずも無い溜息をつこうとして、アルフォンスはぎょっとした。 「・・・!!ちょっ兄さん!?何してんの!!?」 「・・・・・い、いや、制服のスカートの定番のスカートめくりを」 「・・・・・・・・・・っ!!!!こ・・の、変態助平馬鹿兄ーーーーーー!!!」 ちょっと泣きたくなった、アルフォンスだった。 fin む、無理矢理締めて見る(笑) こんな「セーラー鎧アル」でもよろしいでしょうか、皆様(笑) ・・・・兄貴が変態すぎて逆に笑えました。 女子高生のセーラー服を見てアルにも着せたいと夢見る兄、そのまま洋服屋に直行。 ちなみに、妹ではないです。(笑) 「Rapunzel」の美紀さんより強奪しました! チャットでお会いした時、みんなで書け書けと催促した鎧セーラー話です(笑) 兄さんが素敵に変態で大変トキメキますvv 鎧が健気で可愛くてさらに惚れ込みますvv よろしいでしょうか、って美紀さん!もちろんよろしいに決まってますよ!! この場合、鎧が妹で無い方が可哀想度アップして良いですねv(酷) とっても楽しく面白いセーラー話をありがとうございました〜!! |