※アルフォンスがホムンクルスで大総統です
思いっきりパラレルですので、それでも大丈夫な方だけお進み下さい
兄さん、貴方はどうしていつまでも変わらないの
僕はこんなに変わってしまったのに
裏切り
目の前で自分を見下ろしながら睨み付けているのは、確かに自分の兄だった
いや、正確には「嘗ての自分の兄」とでも言えば良いのだろうか?
だってこの体はすでに人では無いのだから
「そんなに怒る事でもないでしょう?今度の作戦に貴方は関わりが無いのだし」
表情も変えずにそう言うと、兄の目が一層険しくなった
「それとも貴方が指揮をしたかったのですか?武功を立てたいというのなら、考えないでも無いですよ」
その言葉に我慢が出来なかったのだろう。エドワードはギリッと拳を握りしめ、歯を食いしばった
「そんな事を望んじゃいない。それよりも何故あんな無茶な作戦を決行するんだ」
怒鳴りたいのを必死に我慢しながら、絞り出すような低い声で問いかけてくる。そんな兄に笑みが零れる
今更判りきった事を聞いてくる、相変わらず甘くて優しい愚かな兄さん。馬鹿で愛しくって困るよ
「確かに多少無茶な作戦ではありますけどね。それでもさっさと事を片づけるのに、あれ程有効な手立ても他に無い。
市中の死傷者はこれまでよりも多くなるでしょうが、大した問題でもないでしょう。時間の無駄は省いた方がいい」
僕はにっこりと兄に微笑みかけた。すると兄は僕から目を逸らす
分かってるよ兄さん。昔と同じ顔で同じ笑顔で、こんな事を平然と言う僕を見るのが辛いんでしょう?
見たくないならさっさとどこかに行ってしまえば良いのに。僕の姿の見えない所へ
それでも兄は国家錬金術師を辞める事はない。例え戦争に駆り出されても
あれ程嫌がっていた人殺しに手を染めてから、もうどれくらいの時間が流れたのだろう
それなのに貴方は変わらないんだね。その手を血で染めても尚
苦しんで自分を嘖んで、それでも貴方は綺麗なままだ
その綺麗な純粋な心のまま、まだ僕を諦めきれずにいる。見捨てられずにいる
どんなに酷い事を言ってもさせても、時には憎悪の目を向けながら、その目の奥には微かな光がちらついていた
その眼の奥に潜む小さな希望という名の灯りを、消してしまうにはどうすればいい?
「貴方もあちこちの戦地で名を上げた国家錬金術師ならば、今度の作戦の有効性は解るでしょう。
多少死傷者が増えそうだからと言って、今更怖じ気づくのはどうかと思いますよ。
貴方が手に掛けた人間の数と、これから増える死人と、どう違いがあると言うんです?
ただ数の桁がひとつ増えるだけ。それだけの事です」
”手に掛けた人間”それは兄の最大の負い目だった。そこに触れられれば、もう反論は出来ない
そう、例えたった一人でも命に手を掛けた事は変わらない。一人だろうが百人だろうが、命の重さに代わりはないのだから
「話はそれだけですか?僕は暇では無いんですよ。貴方の甘い考えを聞く時間はもうない」
部屋の隅に控える憲兵に目配せすると、靴の音を掻き鳴らしながら兄に近寄ってくる
その動きにハッと身構えすると、兄は目の前の机をドンと叩き、僕に向かって叫んだ
「アル・・・、お前どうして・・・っ!?」
それ以上は言葉にならず、俯いてしまった兄の体を両脇から兵士が支えると引きずるように連れ去って行く
その姿を横目でチラリ見ながら、ドアが閉まるまで見送った
そしてその姿が見えなくなって、視線を窓の外に移す。もう下界は冬の気配が漂い始めている
冬になれば戦況は厳しくなる。雪の積もった戦地に無理矢理行かされても、慣れない寒さに志気は下がり苦戦は間逃れない
そうなる前に一気に片をつけるべく作戦は立てられた。許可を出したのはもちろん自分だ
相手が攻め込まれるとは思っていない、争いとは何の関係も無い街からの攻撃。その為にひとつの街を手中に収める
恐らく今までにない数の死傷者が出るだろう
そしてその事を一番悩み傷つくのは間違いなくあの兄だ
何しろそれを認め許可したのは、彼にとって掛け替えのないはずの、たった一人の家族であり弟なのだから
今度こそ、そろそろ諦めると良いと思うよ
貴方の弟は、もうこの世にはいないのだと
ねえ、大切で綺麗で愛しい兄さん?
部屋の中で囁く甘い声を聞く者は誰もいなかった
こちらの設定は「Rapunzel」美紀さん宅のお話のひとつ「MILITARY DOG」の設定をお借りしてます。
というかアルフォンス同盟に一軍で参加すると特典が頂けると聞いて、ご褒美欲しさに書いた作品。
一軍参加条件はお話か絵を捧げる事だったので、この話とシーネ様のイラストを捧げました。
以前、読んでみたいとのお言葉を頂いたのでアップしてみます。
この設定でまた話書いてみたいなぁ。甘さのない兄弟話も書くの大好きです。
未だに大総統設定は萌えます。