特別な人
心地よい日差しが差し込むリビング。部屋の中は真冬だというのに、煌々と燃える暖炉のおかげで温かい
アルフォンスは上機嫌で、借りてきたばかりの本を読んでいた
そんなアルフォンスをじーっと見詰める人物一人。言うまでもなく彼のたった一人の兄で家族で
…まあ、恋人でもあるエドワードだった
彼、エドワード・エルリックにとって、弟は特別な存在だ
とにかく大好きで愛しくて、可愛くって仕方ない
実際のアルフォンスは10歳の時のまま体を取り戻した当時と違い、すでに立派な青年に育っていて
端から見れば可愛いという表現は似つかわしくないのだが、そんな事はこの兄には関係ない
街で擦れ違った女共が黄色い歓声をあげる凛々しい顔立ちも、スラリと伸びた長身も
真面目なのに根性据わってる性格も、全てがアルであるなら可愛いのだ。盲目的に
それに何と言っても、服の上からでは分からない、鍛えている為見た目よりも引き締まった体も魅力的
まさに「私脱いでも凄いんです」状態。それを知ってるのは自分だけというのがまた堪らない
無言で弟を見詰めていた兄だったが、ふと思い立って弟の横に据わるとその手を伸ばしてみた
自分よりも少しだけ堅めの、真っ直ぐな硬質の清潔に切り揃えられた髪
ちろりとこちらを見た金色の目に、にっこりと笑ってみせる
いつもの事だと言わんばかりに、弟の目はすぐに本に戻っていった
こうやって素っ気ないように見えて、実はそうじゃない。兄の好きにさせて、まったく身を委ねているのだ
こんな事許してもらえるのだって、自分一人だと思うと誇らしくって嬉しい
好きすぎて堪らない。色々と
だからただ優しく髪を撫でていた手に、違う意図を込めてみた
それまでと違う耳のラインを辿る手の動きに、アルフォンスの眉がピクリと動く
「兄さん、僕、本を読みたいんだけど」
「読めばいいよ。こっちはこっちで勝手にするし」
「そんな事言ったって…」
勝手にするなんて言われて、自分よりも自分の体を知り尽くした手に撫で回されて
心穏やかに本を読める人間がいたらぜひお目にかかりたいものだ。どんな達観した人物なんだ
何とか本を読みながら、片手で兄を押しのけようとしてみても、それは無駄な事で
手際よくシャツのボタンを外しながら、スルリと胸元に入ってきた手の感触に意識が集中する
「ん…っ」
胸の飾りを指で弾かれ、思わず洩れた吐息のような声。子供の頃の甘く可愛らしい声とは違うけど、魅惑的に耳に響く
それに気を良くして、エドワードはそのままそれを口に含んだ
「に…さん。今真っ昼間なんだけど」
ほんの少しだけ上がった息をこらえながら、アルフォンスが最後の足掻きをしている
言っても無駄な事なんて、本人が一番知ってるだろうに
「昼間だろうと関係ない。今おれがアルにこうしたいの」
「あっ、ちょっと待ってよ…!」
舌先で突起を転がすと、途端に兄を押し返そうとしていたアルフォンスの腕から力が抜けた。そして小さな溜め息
せめて借りてきた本を傷めないように、そっと閉じるとサイドテーブルに置く。兄がニヤリと笑った
「その気になってきた?」
「無理矢理させといて何言ってるの、このスケベ」
僕、割とノーマルな質なんで、真っ昼間とか居間でとか好きじゃないんだけど。なんて弟はブツブツ言っている
確かに弟はこういう所も真っ直ぐで、夜普通にベッドで抱き合うのが好きだ
だけど俺はそれじゃ足りない。いつもアルが欲しくて堪らないのに
「何を言ってるんだアルフォンス君。男なんていつだってスケベなものだろう」
お前だって男なんだから解れよな
大体、結構潔癖な部分もあるけど、アルだってこういう事好きだろ基本的に
じゃなきゃ、最中にあんなとろけそうな顔しない、絶対
そう言うと、うっすらと顔を染めながら睨み付けてきたけれど
兄さんが相手だからね。なんてぽつりと可愛い台詞
そうやって、結局は全てを許してくれる。そんなアルフォンスがとても愛しい
だからこそ、我が儘を言ってみたくもなるってものだ。どこまで許されるのか、試してみたくなる
俺はとてつもなく嬉しい気分で、大好きなアルフォンスの大好きな匂いに包まれながら
その引き締まった脇腹につつっと舌を這わせていった