※こちらの設定は「Rapunzel」美紀さん宅のお話のひとつ「MILITARY DOG」の設定をお借りしてます
アルフォンスがホムンクルスで大総統です
思いっきりパラレルですので、それでも大丈夫な方だけお進み下さい
何故取り戻そうとしないのかと貴方が問う
今からでも遅くはないはずだと貴方が言う
貴方はいったい、ボクにどんな答えを期待していたのか
期待通りの答えが得られるなんて、本当に思っていたのだろうか
そんな夢を抱き続ける貴方は、本当に愚か者だ
血の絆
「ああ、『アルフォンス・エルリック』。あの出来損ないの体の事ですか。」
わざわざ部屋に押し掛けて何を言い出すかと思えば。諦めが悪いにも程がある。
「まあそれなりに役にはたってくれましたけどね。嘗てのボクの魂の入れ物として。」
嘲るように言うと、兄の顔が一気に朱に染まる。
「いくらお前でも、お前自身の事をそんな風に言うのは許さない。」
怒りを辛うじて堪えているのだろう。鋭い眼差しでボクを見ている。
「失ってしまったあの体がどれ程大切なものだったかなんて、お前が一番よく知ってるはずじゃないか!!」
怒りと悔しさ、そして悲しみがが入り交じったような表情の兄。その人に向けるアルフォンスの視線は冷たい。
「大切…?あの脆くて壊れやすい体が?貴方と同じ短い命を削りながら生きていくだけの体がですか。」
表情の無い顔でアルフォンスは腰のベルトから短刀を手にした。
そして驚愕に目を見張るエドワードが止める間もなく、自分の胸にそれを突き立てた。
「アルフォンス!!」
近づこうとする兄を手で制し、短刀をゆっくりと引き抜く。すると一瞬血が溢れたが見る見るうちに傷口が塞がっていった。
「解りましたか。貴方が大切だと思っていた体と、ボクの体はまったく違う。取り戻す必要などどこにあるんです?
今のボクにとって、人間だった時の体なんて何の意味もない。あの時の愚かな子供はもうどこにもいないのだから。」
ふと気付いたように、血に染まる手をアルフォンスはぺろりと舐めた。
まだ幼く見える少年が、真っ赤な血に濡れた手を口にする姿。それは背徳的な何かを感じさせた。
エドワードの背筋にぞくりと怖気が走る。それは嫌悪だったのか、それとも別のものからだったのか。
「見て下さい、この美しい赤い色。…これはね、全て人の命です。ボクの体の全ては賢者の石から作られたものですから。」
それを聞いたエドワードの表情が見る見る強張っていく。そんな兄に微笑むアルフォンス。
「何を今更驚いているんです?自分の手足を無理矢理取り戻させられた時から、貴方は知っていたはずですよ。」
己のその手足とて、その力の恩恵を受けたのだという事を。
何だかんだ言った所で、ボクらは人の命を代償にした、その事実は消えはしない。
例え何も知らない間に勝手に与えられた体でも。望んだ結果ではなくとも。罪は消えないのだから。
「考えるんです。この一滴の血を作る為に何人の命が必要だったのだろうか。この傷を塞ぐ為に、何人分の命が使われたのか。
血の一滴に何人なら、先程みたいに一回死ぬ度に何百人の命を使ったんだろう。それとも何千人なんでしょうかね?」
クスクスと笑う少年を、エドワードは呆然と見ていた。
「失った体は、確かに貴方の弟だった。それは永久に手の届かない世界で、ただ朽ち果てていくだけの存在に成り果てた。
今のボクは貴方とは何の繋がりもない。この体に流れるのは貴方と同じ血ではなく、賢者の石の力。」
苦しげに目を閉じ、眉を顰めて俯いて。声もなくエドワードは立ち尽くしていた。
やがてキッと顔を上げて、その鋭い眼差しを一度弟に向けてから背を向ける。
毛足の長い絨毯の敷き詰められた床は、木底のブーツでも足音はあまりしない。
エドワードは乱暴な足取りで扉へと向かった。
そして部屋を出る直前、アルフォンスへは背を向けたままで真実の思いを告げる。
「それでも。それでもお前の魂はアルフォンス・エルリックだ。…オレの弟だ。」
閉められた扉の音が、やけに大きく室内に響いた。
兄の出ていった部屋、ただ広いだけの空間は妙に空々しい。
アルフォンスは微かに震える手をギュッと握り締めた。
どうして。どうしてなんだ。こんなに酷い事を、傷つける事を言っているのに。
何故貴方はいつまでもボクを弟だと言い張る。
目の前で胸に短剣を突き刺して、その傷口の塞がるのを見せて。
今度こそ実感したはずだ。ボクが人ではなくなったという事を。
今までこの姿に惑わされて認めていなかったとしても、今日は思い知ったはずなんだ。もう元には戻れない事を。
それなのに、こんな化け物になってしまったボクを。まだ貴方は弟だと思うの?
もう良いじゃないか。全てを忘れても許されるはずだ。
ねえ、早くお逃げよ兄さん。あの故郷は、あの幼馴染みは貴方を温かく迎えてくれる。
傷ついた貴方を優しく守ってくれるはずだから。
傷つけるだけのボクの元から。早く離れて帰るといい。
貴方になら殺されてあげる。そして貴方にならボクを忘れる権利をあげる。
何もかも忘れて自由になりたいというなら、貴方にだけそれを許そう。
だから早くここからいなくなって欲しい。この硝煙の臭いと血の臭いの世界から。
緑と土と、澄んだ空気の温かな世界に帰るといい。
本当は、貴方と同じようにただの人として
短い命を削りながら生きていきたかったのだと
伝える術はもうないのだから