終幕














「ねえ、兄さんは男の子と女の子、どっちが良い?」

アルの質問に少しだけ考えた後、エドワードは答えた



「そうだなぁ。…月並みだけど、元気に生まれて来てくれればどっちでも良いな。アルはどうなんだ?」

「僕も同じだよ。こうして順調に育ってくれてる事だけでも嬉しくって仕方ないし」

二人の顔には自然と笑みが浮かぶ。日々の全てが穏やかで幸福に満ちていて、本当に幸せだった



「だけどさ、一人っ子じゃ可哀想だから、早く兄弟を作ってやらないとな」

ふと嬉しそうにそんな事を言う兄に、アルは思わず吹き出してしまった

「まだ一人目も生まれてないのに?兄さん気が早すぎるよ」

クスクスと笑いながら話すアルフィーネの大きなお腹をそっと撫で、エドワードは愛おしそうに話す

「こいつにも兄弟はいた方が絶対良いだろ。だって俺はアルと兄弟で本当に幸せだったから」

そんな兄の言葉に、アルはパチクリと目を瞬かせて、その後嬉しそうに微笑んだ

「…そうだね。僕も兄さんと兄弟として生まれて、本当に良かったと思うよ」

色々な事があったけど、辛い目にもたくさんあったけど

それでもあの頃、ずっと大好きな人と一緒にいられた奇跡は、二人が兄弟として生まれたから始まった

そして今、こんなに幸せになれたのも



「ねえ、君はどう思う?妹か弟、どっちが良いかな…?」

そっとお腹をさすりながら囁きかける。するとトン、という衝撃が伝わった


「あ、今お腹を蹴ったみたい。返事だったのかな?」

「え、動いたのか?俺も俺も!」

慌ててアルのお腹に手を当てるエドワード。だが、振動は伝わって来ない

エドワードは手を当てたまま、アルの大きなお腹に顔を寄せた


「なあ、お前だって一人っ子は寂しいよな?兄弟欲しいだろ?」

すると、少しの間を置いてまたトン、という衝撃


「動いた!アル、動いたぞ!」

「兄さんったら。前にも動いてる時に触った事あるじゃないか」

「あれはあれ。これはこれ。何度でも感動するもんなの」

なにしろ男には絶対出来ない事なんだから。新しい命を体内で育むという事は



「…聞こえてるんだな、俺達の声」

「本当だね。何か人間って凄いね」

命の不思議と尊さとを、今本当に実感する

それと同時に、過去に犯した過ちの大きさにも改めて気付く

錬金術で亡くした命を取り戻そうなんて、僕達はなんて傲慢だったんだろう



あの時償いきれない過ちを犯した僕達だけど

罪は一生背負って生きていかなければならないけれど



それでも、傍に貴方がいれば。傍にいられるのなら、それだけでもう不幸ではない





楽しかった幼い頃、禁忌を犯し旅をしていた数年間

アルフォンスが失われていたエドワードの15年

新しく生まれてアルフィーネとして生きてきたアルフォンスの15年

そして二人が再び出会えた2年以上の歳月。その長い年月



犯した罪は消えなくても、例え償いきれるものではないとしても



それでも幸せになる権利は二人にもあるのだから





「兄さん。僕達二人できっとこの子を守っていこうね」

柔らかく微笑みながらそんな事を言うアルフィーネに頷いて返事をして、エドワードはその体を抱き寄せる

そしてその大きなお腹をさすりながら、愛おしむようにまだ見ぬ我が子に声をかけた





「待ってるぞ。だから元気に生まれて来いよ」








近い未来。リゼンブールに温かい風が吹く季節

二人に新しい家族が増える
















『 こうして二人はー

 幼い頃に失った家族を、今度は自分達で生み出し、大切に育て
 
 誰よりも、誰よりも幸福に暮らしました





やがて互いにその死が穏やかに訪れるその瞬間まで 』




















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