想望


















「…一体いつから軍はこんなに暇になったんだ?」

目の前にいる面々をジロッと見ながら不満そうにこぼすエドワード

まあ、それも無理は無いのかも知れない



何しろ今目の前にいるのは、大総統ロイ・マスタングとハボック少将

国のトップである大総統が、共一人だけでこんな田舎にフラリとやって来ては、そう思いたくもなるだろう



「失礼だな、鋼の。別に我々は暇な訳では無いぞ」

口の端をニヤケさせながら、頬杖ついて答えるのはロイ大総統



「そうだぞ。せっかく俺達がお前らがうまくいってんのかなーって心配して来てやってるのに」

「まあ、人生の先輩として夫婦円満のコツなんかを教授してやろうかと思ってな」

「何余勝手な事言ってんだよ。うまくいってるに決まってるだろ!
 大体単にからかいに来ただけのくせして、尤もらしい事言ってんじゃねえ!」

余計なお世話だ、と本気で不機嫌になるエドワード。そこにその場に不釣り合いな程可愛らしい声がかかる



「お待たせしてすみません。お二人共お茶でもどうぞ」

ティーセットの乗ったトレーを抱えながら、にこやかに微笑むアルフィーネに野郎共の目がやに下がる



「本当にアルフォンス君は礼儀正しいな。鋼のの兄弟とは思えん」

ほっとけ、と怒鳴った兄の台詞は綺麗に無視された



「つーか、大総統。今は兄弟じゃないでしょう。それにアルフォンスって呼ぶのもどうなんっすか?」

そもそも君呼びもまずいような。そう言うと大総統は困ったような顔になった



「それはそうだな。失礼した。では何と呼べば良いのかな?」

ミズ・アルフィーネとかか。何かしっくりこないな



「別に今まで通り、アルフォンスで構いませんよ。僕がアルフォンスである事も間違いないんですし。
 他に人がいる所ではちょっとおかしいかも知れませんけど」

ついでに君付けでも構いません、とあっさり言うアルフィーネ



「君はそれで良いのか?」

「はい。お二人が気にされるのなら、アルでも良いですよ。どちらにも通じる愛称ですし」

言いながらカップに紅茶を注ぎ二人に差し出し、ふて腐れ気味の兄の前にも紅茶を出す

それをサンキュ、と受取ながらもエドワードの顔は不機嫌そのものだった



「兄さんったら。せっかくお二人が来て下さったのに、いつまでもそんな顔しないでよ」

「来てくれなんて言ってねーし。むしろ来るなと俺は言った」

「兄さん、そんな事言ったの!?」

「こいつらにはな。大体リザさんはどうしたんだよ。先月はキャロルと来てくれたのに」

キャロルはロイとリザの一人娘で今年13歳になる

それを聞いたハボックが、おい、忘れたのかと声をかけた



「大総統が休暇を取る時に、その側近まで休んだら業務に支障が出るだろう。
 前から二人の休みが重なる事なんて滅多になかったじゃないか」

だから先月はリザが遊びに来て、今月はロイが来たという訳だった



「そーいやそうだったな。何だ何が夫婦円満だよ。休日すら一緒に過ごせないなんて、最初から亀裂入りまくりじゃねーか」

そこは一番の泣き所だったらしく、言い返す事も出来ずに固まる大総統



「兄さん。いい加減にしないと、僕怒るよ?」

流石にロイが気の毒になったのか、兄を諫めるアルフィーネ。笑顔な所が恐い

やばい怒らせた、と内心焦るエドワード。そこに一本の電話がかかってきて、アルフィーネは席を立った


助かったと思う間もなく襟首を掴まれると、何やら顔を近づけてくる中年男二人





「なあ鋼の。新婚生活はどんな感じだ?」

こんな時だけ立ち直りの早いのもどうかと思われる大総統。しかも聞いてる事は下らないし

「どんな感じって何がだ」

「とぼけんなって!あんな可愛くなったアルと結婚したんだからよ、毎日お熱いんだろ?」

「何セクハラ発言してんだよ。いい年こいたおっさん二人が」

「おっさん言うなよ、傷つくだろ」

「これぐらいで傷つくような繊細な神経してないだろ、あんたらは」

「いやだからだな、どうなんだ幼妻との新婚ウハウハ生活は」

「幼妻に拘るなよ、変態大総統」

ハーッと溜め息をつきながら、こいつらどうしたものかと頭を抱えるエドワード



「あのな、分かってるだろうけど、アルは16歳なんだぜ?」

「分かっているさ、立派な幼妻だ」

「だから幼妻に拘るなっての。…まだ16歳なんだよ、アルは。だから無理はさせたくないんだ」

思い掛けず真剣な表情のエドワードに、からかい半分変態半分だったおっさん二人も表情を引き締めた



「生まれ変わって、現在の両親を亡くして、アルフォンスとしての前世を思い出して…俺と会ってさ。
 お互い気持ちを確かめ合って結婚して。あいつにとって目まぐるしい1年だったと思うんだよ。
 そんな風に大変だった上に、まだ16歳のアルにそんな事でまで無理をさせたくないんだ。
 あいつのペースに合わせていきたいんだよ」

少しずつ今の状況に慣れていけば良い。受け入れてくれるだけでも充分なのだから

穏やかな目で話す兄の様子に、二人は少し呑まれたようだった



「…真剣だな」

「当たり前だろ。半端な気持ちで元弟と結婚出来るか」

「いや、鋼のだったら弟だろうが鎧だろうがしかねないと思っていたが」

ブラコンをとっくに通り越していたのは周知の事実だったし



「昔っから、俺にはアルだけだったからな」

大切にするのは当たり前だろ、と言われて納得の二人

そこに電話が終わったアルフィーネが戻ってきた



「すみませんでした、長電話しちゃって。そろそろ僕夕飯の準備しますね」

腕によりを掛けて作りますから、とにっこり笑うアルフィーネにまたも表情の崩れる中年男二人

それを見て不機嫌に、あんま見るんじゃねぇ!と怒鳴るエドワード

良いじゃねーか見るぐらいだの、減るものでもなかろうだのとブツクサ言う二人に

いーや減る、そのイヤらしい目で見られたら確実にアルが減る、と訳の解らない応戦をする兄





その様子を横目で見て苦笑しながら、アルフィーネはキッチンへと向かった


あれも彼らなりのスキンシップなのだろうと、微笑ましく思いながら






















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