それぞれの幸せ



















「ねえアル。どうしてあんた、エドの気持ちに答えてあげないの?」


そんな事を急に話す幼馴染みの顔をマジマジと見てみる

透き通ったブルーの瞳で真っ直ぐこちらを見上げる彼女の表情は、至極真剣そのものだった



他の誰が言ったとしても、僕は巧くはぐらかしてしまったかも知れない

だけど、彼女だけは特別だった。大体僕の嘘に誤魔化されてはくれないだろうし



「相変わらず単刀直入というか、容赦なく直球だよね」

「あんた達相手に遠慮なんてしないわよ」

当然とでも言うような顔で話すウィンリィに溜め息をついて見せる

こんな聞き難い事、ズバリで聞いてくるんだもんなあ

まあ、それでこそウィンリィらしいとも言えるんだけど



「それで、どうなの。あんたもエドの事好きなんでしょ?」

「ウィンリィはどうなのさ」

切り返してみると、ウィンリィは一瞬キョトンとして



「あー、昔はね。そりゃ好きだったわよ?私も子供だったし、あいつ見た目は良かったし」

アルの方が背も高くて優しかったのに、私も見る目が無いわよね

あっけらかんと話すウィンリィ



「まったくの過去形なんだね」

「あんたねー。その後のエドを見てて、それでも好きでいられる女はいないと思うわよ?

 何しろあいつの目には、たった一人しか見えてないんだから」

含みを持たせた口調で言うウィンリィに苦笑する



「あの馬鹿は気付いてないみたいだけどさ。アルもエドの事好きなんでしょ?

 なのにいつまでも答えないのはどうしてなの」

「ウィンリィ。知ってるとは思うけど、僕と兄さんは兄弟だよ」

「もちろん知ってるわ」

「それでもって兄弟って事は男同士で」

「それがどうしたってのよ」

「色々と問題があるとは思わない?」

「思わないわね」

見事に即答。きっぱり断言。いっそ男らしい



「世間一般的には、近親相姦で男同士って凄い禁忌だと思うんだけど」

「世間一般なんて関係ないわよ。大事なのは当人達の気持ちでしょ。

 人の幸せ、他人に決めてもらわなくて結構だわ。タブーでも何でも他に迷惑かけないんだし」

そういう所は彼女らしい拘りの無さで大好きな所なんだけど

こういう風に持ち出されると、ちょっと困るかも

そんな事を考えてると、彼女がさらに切り出してきた



「大体、そんな事言ってるけどさ。本当はアルこそがそんな事どうでも良いんでしょ?

 アルって常識人っぽく見せてるけど、本当は他人にどう見られたって自分は構わないって思ってるでしょ」

知ってるんだからね、と言わんばかりに断言されると複雑だ



「何だかそれだと、僕が凄く非常識な人間みたいなんだけど」

「そうじゃないわよ。あんたはとっても常識人。優先順位の差ね」

見抜かれてるなあ。ウィンリィなら仕方ないけど



「だからね、結局アルがエドの気持ちに答えないのも、エドを禁忌に触れさせたくないからでしょ?

 それは分かるんだけど、本当にそれであんたは良いのかなって思って」

「それ以前にウィンリィ。僕、兄さんが好きだなんてまだ一言も言ってないけど」

「でも一度も否定してないわよ」

「否定したら信じてくれるの」

「信じるわけないでしょ。往生際が悪いわね」

あんた達はさ、一呼吸置いてウィンリィが話し出す



「あんなに辛い目に遭って、ずっと二人で生きてきて、やっと平穏に暮らせるようになったんだから。

 もっと幸せになろうとしたって良いと思うのよね。それが人とは違った幸せでもさ」



真剣に僕らの事を考えて言ってくれているのが分かる

僕らに幸せになって欲しいんだ、彼女は



「ありがとう、ウィンリィ」

だから僕は心からそう言った。こんなに僕らの事を理解してくれる人は、きっと他にいないから



「でもやっぱり、僕は兄さんに普通の幸せを掴んで欲しい。ずっと僕の為に生きてくれた兄さんだからこそ。

 出来ればウィンリィが兄さんと結婚してくれたら、一番安心出来るんだけど」

「それは無理だわ。私じゃなくてもエドがあんた以外を選ぶはずないもの」

あんたね、ウィンリィはちょっと身をテーブルに乗り出して顔を近づけてきた



「自分は人にどう見られてもいい。でもエドがそう見られるのが嫌だってのは分かるわよ。でもエドだってそうなんだから。

 アルがいれば、エドは他人にどう見られたって構わないのよ、それであいつは幸せなの。普通の幸せなんていらないのよ」

僕の頬を両手で挟んで、真剣な表情で話すウィンリィ



「エドを本当に幸せに出来るのは、アルだけなんだから。

 そしてアルが本当に幸せになる為には、エドが必要でしょ?」



兄さんを幸せに出来るのが僕だけ。本当に?

そんな風に自惚れてしまっても良いのかな


あんなに長い時を僕に縛り付けて。僕の為に生きてきた兄さんを

さらに僕に縛り付けてしまっても良いの。それを望んでも良いの



「あんたがエドを幸せにしてやんなさい。そうして二人で幸せになりなさい」



そんなウィンリィの言葉に、ちょっとだけ泣きそうになった

とても嬉しくて。とても悲しくて



ありがとう。背中を押してくれて

でも少しだけ憎らしいよ。感謝と半分半分の複雑な気持ち

だから意趣返しのつもりで言ってみた



「ウィンリィ、お姉さんって言うよりも、何だかお母さんみたい」

そう言ったら、そんな年じゃないわよと、危険なスパナの反撃













逃げていたわけではないと思うんだけど、結果をみれば逃げていたのかな僕は

だって一度思いを告げてしまえば、もう後戻りは出来ない

そうなってしまったら、自分から手を離すなんて出来そうもないから



幸せになって欲しいよ。幸せにしたいよ

この想いは僕の為に全てを捧げてくれた兄さんへの贖罪だけじゃない

それよりも何よりも、ただ愛しくて

この世界で一番大切な人だから、誰よりも幸せになって欲しい



他の誰にも、本当は渡したくなんてないんだ










ありがとう。大好きな僕の幼馴染み




貴女のアドバイスに従う日は、






もうすぐそこのような気がします






















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