大総統付きの側近であるリザ・ホークアイ中将の元に、その連絡が来たのは朝の会議を終えて終えてすぐだった
アポイント無しに大総統であるロイ・マスタングに会いたいという
そんな無茶を言う人物とは一体誰だろう。そもそもなぜ却下せずにこちらに通すのか
それを問うと受付の事務官はおずおずと言った感じで切り出した
「それがその、退官された鋼の錬金術師殿なんです」
再会
「よう、元気?」
久し振りに姿を見せた元鋼の錬金術師は、最後に会った頃からは想像も出来ないくらいに屈託の無い笑顔を見せた
その事に一瞬固まりかけたマスタング大総統とホークアイ中将だったがすぐに立ち直る
「随分元気そうだな、鋼の。安心したよ」
「あのさ、俺もう鋼の、じゃ無いんだけど」
「ほんとよね、エドワード君。でも珍しいわね、貴方がセントラルに来るなんて」
「うんまあ、ちょっと用事があって」
そう言ってエドワードは少しだけ開いたままの扉を振り返って、また二人に向き直った
「二人に会わせたい人がいるんだ」
入って来いよ、という声に答えた失礼します、という小さな声
微笑みながら二人にお辞儀をしたのは、長い髪のとても可愛らしい少女だった
「お久し振りです。大佐、ホークアイ中尉」
あ、今は大総統でしたね、すみません
慌てて謝る少女に戸惑いが湧く。お久し振りといっても・・・
「失礼だが、私は君に会った事があったかな?」
チラリと横にいる長年の側近に視線を送る。だが彼女も首を横に振った
その様子を見て、目の前の二人は目を合わせながら嬉しそうに頷きあっていた
「会った事ないけどあるんだよな」
「駄目だよ、ちゃんと説明しなきゃ解るはずないんだから、兄さん」
…今、この少女は何と言った?兄さんだって?
「こいつ、アルフォンスなんだよ」
一瞬エドワードが狂ったか、と二人が考えたとしても誰も責められないだろう
「つまり何か。アルフォンス君はあの後転生して今のこの少女として生きてきたとそう言うのか」
「流石大総統。呑み込みが良いね」
うんうんと頷いているエドワードを見ながらロイは頭を抱えた。そんな馬鹿な、荒唐無稽な
だがアルフォンス・エルリックを名乗る少女の話す内容は、真実なのだろう
魂の概念は錬金術師として理解しているし、魂が存在する以上転生があっても不思議ではない
何より当時の弟と同じ丁寧な話し方、鎧の時も可愛らしかった仕草はまったく一緒だった
そして駄目押し、とばかりに少女は錬成陣無しの錬成を目の前でやってのけた
「真理を見たのは前世の僕ですけど、全ての記憶を取り戻した時、真理も思い出したんです」
そしたら錬成陣なしでも出来るようになっちゃって
何でもない事のように平然と話す弟、いや今は妹か。でも血は繋がってないわけだしどっちなんだ、に目眩を覚える
何を失うでもなく真理を得た事になるんだぞ。かなり凄い事じゃないのかそれって
「本当にアルフォンス君なのね」
呆気にとられた表情で呟く中将。いつも冷静な彼女もさすがの自体に戸惑っているようだ
「はい。信じられないかも知れませんが」
「いえ、信じます。私には転生だとか魂がどうのという話は解らないけれど、今話す貴方はあの時のアルフォンス君そのままだもの」
「ありがとう、中尉。じゃなかったリザさん」
嬉しそうに微笑む少女にリザの中の戸惑いの気持ちが薄れていく。ビックリはしたけど、目の前の少女はあの優しい少年そのものだった
「それでわざわざ私達にアルフォンス君の帰還を教えに来てくれたのか?」
「いや、それなんだけどよ」
そこで一旦言葉を切り、隣の少女と共に照れたように微笑み合うと、荷物から何かを取り出した
「これ、受け取ってくれない?」
「何だね、これは」
それは白い上質な封筒。表には招待状と書かれていた
「二人とさ、あとハボックのおっさんとか人数分入ってるから」
「だから何なんだねこれは」
「結婚式の招待状」
「・・・・・・・・・・・・・・・誰の」
「俺とアルの」
・・・今日はちょっとあれだな。色んな事が起こりすぎて頭が上手く回らないようだ
うん、それも仕方ないだろう。私のせいじゃないぞ
「だからさ、みんなが出席出来るとは思えないけど、一応渡しといてよ」
「まだ日にちありますので。すみませんが宜しければ」
「嬉しいわ。ぜひ行かせて貰うわね」
何だか和やかに話が進んでいる面々を見てさらに目眩がする
何なんだ、中将。何でそんなに平気で返事をしてるんだ。結婚だぞ、兄弟いや兄妹で
ああでもだから血の繋がりは無いから問題はないのか
まったくもって女性の順応の良さには付いていけない
「今日は二人にアルを会わせたかったのと、招待状を渡したかったのと、あと結婚式のアルのドレスを選びに来たんだ」
「何しろリゼンブールには仕立屋が無くって。リザさん、どこか良い所知りませんか?」
「だったら私が案内しましょうか?午後から非番なのよ」
「え?でも悪いです。折角のお休みなのに」
「構わないわ。お店を案内するくらい」
「あ、だったら悪いんだけどさ中将。アルのドレス見立てるの付き合ってくんない?」
俺そーいうの全然分かんないし。と言う兄に、兄さん、そこまで甘えられないよ。と慌てる妹
「あら、私が見立てても良いの?」
「俺ももちろんついてくけどさ。中将の見立ての方が絶対だろうし。アルに一番似合うのを選んでやってよ」
「アルフォンス君はそれで良いの?」
困ったようにこちらを見ている妹に声を掛けると、おずおずと聞いてくる
「でも、本当に良いんですか?お休みを潰してしまって」
「私は嬉しいわよ?貴方のドレスを一緒に選べるなんて。寧ろこちらからお願いしたいくらいだわ」
そう言うと妹はパッと表情を明るくした
「そうして貰えると助かります!何しろ兄さんのセンスじゃあてにならないし、どうしようかと思ってたんです!」
「おい、アル。誰があてにならないって?」
「兄さんが。兄さんだってさっき分かんないって言ってたでしょ」
「それは女物のドレスなんか分からないって意味で、センスの問題じゃないぞ!」
「あー、君達。それとホークアイ中将」
和やかに話す面々に声を掛ける
「ちょっと早めだが中将は休みに入っても構わん。二人を案内してやってくれ」
宜しいのですか?と聞いてくる側近に頷いて見せる
「それでは引継をして参ります。二人とも少し待っていてね」
そう言って部屋を後にする中将を見送ると、兄がそれにしても、とこぼす
「やけに気前が良いな」
「これぐらいはな」
軽く溜め息をつきながら言うと、妹がすみませんでした、大総統。と申し訳なさそうに言った
その様子が確かにかつての鎧の仕草と重なって、胸に込み上げるものがあった
荒唐無稽としか言いようの無い自体ではあるけど。本来なら俄には信じられない話ではあるのだけど
でも事実である事は間違いないし、自分もそれをすでに信じている
あれほど辛い目にばかり遭ってきた兄弟が、思い掛けずこんな形で幸せになれると言うのなら
ーそれを祝福しない訳は無いだろうー
「ドレス選びや用事が終わったら、またここに来なさい。夕食をみんなで食べに行こう」
そんな私の言葉に一瞬キョトンとした兄妹は、次の瞬間嬉しそうに微笑んだ
そうして二人が再び出会って1年経った暖かな風の吹く日曜日
懐かしい人達に祝福されて、アルフィーネはエドワードの元へ嫁いだ