オレの弟









弟というのは、小さいものなんだと思っていた。

年子で生まれた弟を初めて見た時、真っ赤で小さくてぐにゃりとしていて、人間じゃない別の生き物に見えた。

日に日に少しずつ人間らしく育ってきて、妙に安心したのを覚えてる。

ふっくらと白い頬は触るとプニプニしてて、近寄ると安心出来るような甘い香りがした。

今思うとそれは母乳の匂いで、あの頃のオレはまだ離乳してそう経ってなかったから、ミルクっぽい匂いも嫌いじゃなかったんだろう。

もう少し時が経って一時的に反抗期を迎えたオレは、アルフォンスを少し疎ましく時期もあったけど。

その後は、にいたんとオレの後をくっついてくるようになった弟が可愛くて仕方なかった。


あの頃アルフォンスはオレよりも小さかった。

それが年を重ねる事に差がなくなってきたのはいつからだったか。

生まれた時あんなに小さいと思っていた弟だったが、実はオレが生まれた時よりも大きかったらしい。

それどころか標準よりも大きく、体重も重い赤ん坊だったのだと知ったのは、だいぶ後になってからだった。

そんな弟だったから、すくすくと成長するのは当たり前で。

気が付くとオレ達の身長差は、殆どあってないようなものになっていた。





母さんに頼まれて買ってきた塩を入れた籠をブラブラさせながら家への帰り道を歩く。

家まであと少し、という所でまず目に入ってきたのは隣のウィンリィの家だった。アルはもう帰ったのかな。

アルはウィンリィの家に、母さんが作ったマーマレードをお裾分けに行ったはずだ。

ジャムが入った瓶を握り締め、笑顔で行ってきますと言っていたアルフォンスの姿を思いだす。

元々発育が良かったが、最近急に背が伸びたアルフォンス。同じ親から生まれ、同じように育ってるのにこの差はなんだろう。

やっぱ牛乳か?みんなが言うように、あれを飲めば背が伸びるのか!?

だけどあの白くてマズくていつまでも口の中に臭い匂いが残る物を飲むなんて、いくら身長を伸ばす為でもゴメンだ。

でもアルとオレは毎日食べてる物が一緒なんだから、考えられるのはあれだけなんだよなぁ。

少しくらいは飲んでみるかとふと思ったけど、自分が飲む所を想像しただけでも鳥肌物だった。やっぱオレには無理だ。

なんであんなにマズい物を、アルは美味しいと言って飲めるんだ。



一人でぼんやりと考えながら歩いていると、向こうからケネスが歩いて来るのが見えてオレは憮然とした。

こいつは勉強が苦手で運動だけが取り柄ってガキ大将なんだけど、この間オレにかけっこで負けて以来何かと突っかかってくる。

はっきり言って馬鹿馬鹿しいし、後ろにいる腰巾着の子分もどきも含めて鬱陶しいことこの上ない。

無視して通り過ぎようとした所に、ケネスが「おい、エド」と声をかけてきた。

面倒だなとは思ったが一応振り向く。何だかニヤニヤ笑っているケネスの顔に嫌悪感を抱いた。


「おまえんちさ、父ちゃんいなくなったじゃん。結婚もしてないし。あの親父、最初から遊びのつもりだったんじゃねーの?」

村の会合で大人達が話してたぞ。笑いながらケネスが言うのを、信じられない思いで見た。


「トリシャは優しい女だけど人が良すぎるって。だからあんな流れ者に気を許しちまったんだろうってさ。」

お前の母ちゃんってバカなんだろう、そう言ったケネスに体の血が逆流する思いだった。

親父のことなんかどうでもいい。だけど母さんを侮辱したことだけは許せない。


「今言ったこと、取り消せ!!」

オレが怒鳴るとケネスは一瞬ビクリとしたが、すぐにいつものクソ生意気な顔に戻る。


「怒るって事は図星なんだ。」

その言葉を聞いてオレはもう何も考えられなくなった。何も言わずにケネスに殴りかかる。

それからはもう大乱闘だ。手当たり次第に殴りまくった。

こんな奴らに負けるオレじゃねぇ。そうは思うけど相手は3人、さすがに多勢に無勢だった。

どんどん疲れてきた所に一人が後ろからぶつかってきて、オレは地面に思いっきり倒れてしまった。

そこにケネスが尽かさず馬乗りになる。殴られる、と覚悟したオレの耳に聞き覚えのある声が届く。


「兄ちゃんっ!」

「うわっ!!」

オレの名を呼びながら走り寄って来たのはアルフォンスだった。

そのままの勢いで体当たりされて、ケネスはオレの上から転げ落ちた。


「兄ちゃん、大丈夫!?」

アルフォンスに背を支えられて体を起こす。

オレが呆然としながら大丈夫だと答えると、アルフォンスがホッとした顔をした。

だが次の瞬間にはキッとケネス達を睨み付ける。その目の強さに3人が狼狽えながらもアルに怒鳴った。


「な、なんだよアルフォンス!お前には関係ないだろ、あっちに行けよ!」

「関係あるよ、ボクは兄ちゃんの弟だもん。兄ちゃんの味方して当然だ!」

喧嘩の理由は知らないけど、3人掛かりって卑怯だろ!とオレの前に出てケネスを睨むアルフォンス。

その背中がいつもより大きく見えて、オレは唖然としてしまった。

確かにこの所アルフォンスは急に背が伸びてきて、随分大きくなったと思う。それでもオレより微かに小さい。

それなのに今アルフォンスは、ここにいる同級生達よりも大きく見えた。

誰よりも大きく見えたんだ。






結局喧嘩はオレ達が勝った。

ケネス達はアルフォンスが加わった事で少し怯んだのだが、アルが年下という事もあって逃げ出す事は出来なかったみたいだ。

3対2だからまだこっちが不利だったけど、アルと二人なら楽勝だった。

砂だらけになりながら家へと帰る。あ、右のこめかみに擦り傷できてら。帰ったら消毒してやらないと。

そんな風にアルの顔を見ていたら、まだ礼を言ってない事を思いだした。


「アル、ありがとな。相手3人だったし、お前が来なかったら兄ちゃんちょっとヤバかったかも。」

そう言うとアルフォンスがにっこりと笑った。


「兄ちゃんだったら、ボクが来なくてもきっと反撃して勝ってたよ。でもどうして喧嘩になったの?」

アルに兄ちゃんだったら勝ってただろうと言われて変に嬉しかった。だが喧嘩の理由を聞かれたのは参った。

聞いたらこいつ泣いちまいそうだ。気が強いわりには結構泣き虫な所があるし。


「そんなん一々覚えてねー。最初は他愛もない口喧嘩だったと思うんだけど。」

オレの言葉にアルフォンスがふ〜んと呟いた。

友達との間で大した理由もなく喧嘩になるなんて別に珍しくはないから、どうやら納得してくれたらしい。





アルフォンスが一瞬別人みたいに大きく見えたって事は、兄貴として嬉しいような悔しいような。

どっちもだけど、どっちの気持ちの方が大きいのかはオレにも複雑すぎて解らない。


『この分だと、その内エドの方がアルのお下がりを着る事になるかもね〜。』

楽しそうに言っていた幼馴染みの顔を思いだして、そんな事にはならないようにと今夜からアル以上に飯を食う事を決意した。

危機感はあったけど、それでもやっぱりあの白い液体だけは飲めそうにないなと、げんなりとしながら。




















150000打のキリバンリクエスト。ご申告はしろさん。

リク内容は

・幼い兄弟 
・ケンカで圧倒的優位だったエドワード(4〜5歳くらい?)が、
いつの間にかアルも何度かケンカに勝つようになってきた頃のお話

とのことでした。


リクを考えると兄弟の喧嘩を書くべきなんでしょうが、どうしても思い浮かばず…。
エドがアルをライバルっぽく意識しだす辺りを書いてみました。
年齢的にエド5歳、アル4歳くらいでしょうか?もうちょっと上かな?
ちなみにアルはまだ無邪気に兄ちゃんを慕ってるだけ。
ライバル心が芽生えるのはもう少し後じゃないかと思います。
トリシャさんへの悪口書くのが辛かった…。(なら書くな)

しろさん、お待たせした上にリク通りにならなくて申し訳ありません!
こんなんでもよろしければお受け取り下さいませ〜。

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