似た者同士
「アルー!」
物凄い地響きのような足音をたてながら、嬉しそうな声を上げる人物
振り返らなくても判る。この家に居るのは自分と兄だけだ
その人物は一目散に台所までやって来ると、僕を背中から羽交い締めにした
今僕、料理してるんだけど。ちょっと邪魔かもしれない
髪に鼻を押し当てたり、顎でグリグリしてくる兄
どうやら結構限界だったようだ。…色々と
「兄さん、書類の方は出来たの」
兄の腕の中で挽肉で作ったタネを白菜で巻いていくアルフォンス
今日の夕食はロール白菜のクリーム煮だ。兄の好物だったりする
「ああ、何とか終わったよ。アルが手伝ってくれたから助かった。
ったくあの放火魔、厄介な仕事を押しつけやがって」
一瞬忌々しそうに口を尖らせたエドワードだったが、アルフォンスの手元を見ると
夕食のおかずが好物だと気付いたのだろう、嬉しそうにアルの髪にキスをした
何しろ兄はマスタング大総統から依頼された仕事の為に、ここ3日程殆ど寝ていない
アルフォンスも途中までの資料を整えたりのサポートまでは一緒にしていたのだが
最後の纏めは兄一人で丸一日かかっていたのだ
だからちょっとだけ自分でも甘いかなと思ったけど、つい兄の好物を作ってしまった
今度の仕事は大変だったと解っているだけに
「ご飯、食べたいでしょ?そろそろ離して欲しいんだけど」
じゃないと準備がしずらい、と言うアルフォンスへの兄の返事は簡潔だった
「嫌だ、もっとアルに触りたい」
「…もう充分でしょ。人の頭、散々グリグリしといて」
「こんくらいじゃ足りないって。きのうから丸一日、俺一人部屋に籠もりっぱなしでアル傍にいないし」
「だって手伝える所は終わっちゃったしさ。大体ご飯やお茶運んだ時にも抱き付いてきたくせに」
「だからあんなのじゃ足りないんだって!いーから黙って補給させろ!」
補給って、僕は栄養ドリンクか何かかよと思っていると、兄が更に僕をギュウギュウと抱き締めてきた
人体錬成で生身の体を取り戻して1年。兄の過保護っぷりとスキンシップは度を増すばかりだ
それもこれも、失った10歳当時の体だった事に加えて、何故か女性体になってしまったせいなのか
そう僕は今、兄さんにとって妹になっているのだ
背の伸びた兄さんの腕の中にスッポリと収まってしまう、年の離れてしまった妹
構築式は僕も兄さんと一緒に考えたものだった。だけど錬成後何度確認しても結局何処が間違っていたのかは解らなくて
実際に錬成したのは兄さんだったから、最初の頃は落ち込み僕にすまないと謝る兄さんを宥めるのが大変だった
僕にとって別に取り戻した体が女性体だった事は問題ではない。生身の体を取り戻せただけでも充分なんだから
心は男のままだし、厄介な事もあるけど、生きていられる以上に大切な事なんてない
「そう思っていたんだけどね…」
「何がそう思っていたんだ?」
小さく溜め息をつきながらポツリとこぼした台詞に兄が反応する
「…兄さんさ、僕を錬成する時、ちらりとでも妹が欲しいな、とか僕が妹だったら、なんて考えなかった?」
そう言うと、兄は心底ビックリしたように目を見開いて、それから首をブンブン振って答えた
「そんなわけないだろ!あの時、アルが妹だったらなんて、考えつきもしなかったぞ!
大体アルの遺伝子情報勝手に変えるだなんて、そんな事してアルに何かあったら大変じゃねーか!」
必死に言い募る兄の表情は真剣そのものだった。ちょっと真剣すぎて胡散くらい気もするけど
それでも信用しときたい所ではある。一応。でも
「だったらどうして、以前とこうも態度が変わるのさ」
確かに以前、体を失う前の僕らだって仲の良い兄弟だったと思うけど
でもここまでベッタリじゃなかった
妹になった途端態度を変えられたんじゃ、疑いたくもなるってものだ
「それはだなアル。男は妹だとか娘だとかに弱いもんなの。無条件降伏なの。
さらにそれが元々大好きだった弟なんだぞ?可愛くって仕方ないのも当然だって!
まあぶっちゃけ、アルなら何でも良いんだけどさ。鎧の時だって、もっとベタベタしたかったし」
「・・・兄さんのはぶっちゃけすぎだよ」
熱弁を振るう兄の姿に目眩がしてくる
鎧にベタベタしたかっただって?そんな見た目に変態チックな事したかったのか、と一瞬思ったけど
「あ、今も同じか」
何しろ見た目11歳くらいの僕に、すりすりベタベタしてくるんだもんな
端から見たら幼女に懐く変態にしか見えないだろう
家の外では絶対しないように躾とかないと
「何が同じなんだよ」
「ううん、別に何でもないよ」
単に兄さんが変態だったと再認識しただけです、という呟きは胸の中に仕舞っておく事にする
仕方ないよね、変態だって兄さんなんだし
幸か不幸か、その対象は僕だけなわけだし
弟だろうが妹だろうが、大切に思ってくれる事は嬉しいんだよ
甘いなぁと思いつつも、その言動を許してしまう
鬱陶しいと言いつつも、その腕の温もりに安心してしまう
僕が一番安らげる場所は、貴方の傍だと解っているから
本当は触れて欲しいと願っているのは、僕の方なのかも知れない
貴方のように手放しで甘えられない僕を察して、貴方が先に触れてくれているのかも知れない
そして僕はそれに甘えている
表現の仕方は違うけど、僕らは結局似た者兄妹なんだろうね
仕方ないよね、それが僕らなんだから
諦めも混じった愛しくも優しい想いを二人して抱えて
そうして僕らはこれからも生きていく
だから僕は抱き締めてくる兄の手を取り
全ての想いを込めて、そっと触れるだけのキスをした
4万打のリクエスト作品。ご申告はなつみさん
「ちび妹に兄さんがメロメロな感じで!」とのリクでした
リクエストされてから、そういえば、ちび弟は書いてるけど
妹は書いてなかったな〜と気付きました。丁度良い機会
でも妹って言っても言動は弟ですもんね。違いが殆ど無いな;
こんなんで宜しかったでしょうか?なつみさん
いつも感想ありがとうございます!大感謝v
しかし、メロメロなのはアルの方・・・?