願い
エドワードとアルフィーネの結婚式には沢山の友人知人が集まった
本当の事情を知らない村の学友達はもちろん、
嘗ての二人を見てきた、そしてアルフィーネが実はアルフォンスだという事を知らされた
二人の師匠であるイズミ夫妻や、全員は無理かと思われた軍部の連中も全て駆けつけた
「しかしまさか、あのアルフォンスがこんなに可愛い女の子になっちまうなんてなー」
相変わらずのくわえ煙草で器用に話すハボック少将。ヘビースモーカーぶりは変わらないらしい
「おい兄貴。お前がロリコンだったとは知らなかったぞ」
酷い事を言っているのは、あの頃よりも更に太った腹をさすっているブレダ少将
「誰がロリコンだって!?」
「もちろん鋼のさ。妹は16歳なんだろう?年の差16歳と言ったら立派なロリだ。それともショタか?」
良いね、幼妻。今夜の初夜はさぞかし燃えるぞー。と高笑いする大総統に忍び寄る新郎
「兄さん、何しようとしてるのさ!駄目だよ!」
今にも錬金術を使ってロイに襲いかかりそうな兄を見咎めて慌てる新婦
「止めるな、アル!こいつら一度あの世を見てきた方が良いんだよっ!!」
「はい、そこまでにしておいてエドワード君」
凛とした声がその場を沈める。リザ・マスタング中将だった
「ロイ、貴方もこんなお目出度い場で下品な言動は慎んで下さい」
一応、仮にも大総統なのだし
一応だの仮にもだのの言葉に妙に力を込めて言う中将
その氷の様な迫力に笑った顔のまま固まるロイ・マスタング。多分この国で一番偉いはずの人
異様な盛り上がりを見せる一同を、苦笑いと共に見守るウィンリィ夫妻家族とイズミ師匠夫妻
村の友人達は雲の上の存在である大総統が来た事で遠慮があるのか、それとも単に関わりたくないのか
その騒ぎを何だか遠巻きに眺めていた
「はー、疲れた」
そう言いながらドサッとベッドに横たわるエドワード
新婚旅行に選んだのは、綺麗な湖の畔にある戸建てのコテージを離れとして持つホテルだった
東部と北部の境にあるこの街は、リゼンブールよりも少し涼しく、今の時期は過ごしやすい
「お疲れさま。でもみんな来てくれて楽しかったね」
荷物を開きながらニコニコと話すアル
「まあな。それよりもアル。お前だって疲れただろ。荷物はそのままで良いから、ちょっと休めよ」
「う〜ん。でも使う物出しとかないと不便だし」
「良いから!少し休めば断然楽になるんだからさ。だから・・・」
「え?」
兄の途切れた言葉の後に体が中に浮く。気が付くと抱き抱えられていた
「兄さんっ!!」
見ると兄はとんでもなく嬉しそうな顔で
抱き抱えたアルをベッドに降ろすと、自分もその横に腰掛けた
アルフィーネは自分を見詰める兄の顔が、少しずつ近づいてくるのを瞳を閉じて受け止めた
最初は浅く、段々と深くなる口付けに自分からも答える
歯列をなぞられ、下唇を軽く噛まれ、敏感な上顎を舌で擽られると躯が震えるのがわかった
頬が赤く染まり、うっすらと瞳に涙をためたアルを満足そうに見詰めたエドワードは
アルフィーネの頬や額にも小さなキスをした後、耳に直に息を吹きかけた
「続きは夜…な」
「ばか…」
恨めしそうに可愛らしく上目遣いに睨むその姿に煽られそうになりながら、エドもアルの隣に横たわる
夕食までまだ間がある。それまで少しだけ
「荷物は後で二人で出せば良いだろ。だから少しだけこうしていよう」
「うん…」
ちょっとだけ、兄の腕に擦り寄ってその温かさを頬で感じる
するとグッと体を引き寄せられて、兄の腕に包まれた
「なあアル。今度は、今度こそ。ずっと一緒にいような」
もう離さないから
兄のその言葉が切なくて、何度も頷いて見せた
「僕も絶対兄さんの傍から離れないから。だから離さないで」
一度目のアルの喪失
二度目のアルの消失
片方の死によって引き裂かれたはずの二人
でも結局は死すら二人を分かつ事は出来なかった
心を引き裂かれるような苦しみを味わいながら、それでも再び巡り会えたこの出会いを、想いを
二人で守り抜いていこう
「「愛してる…」」
今度こそ永遠を君とー