時々思う事がある


僕の全てが兄さんから生まれたものなら

そうだったら良かったのに

それなら兄さんの事だけを考えて生きていけたのに

そうやって生きていく事に、そんな自分に何の疑問も抱かずに






矛盾













「それじゃまるで人形だ」

兄は少し恐い顔で言った

「俺はアルを所有したい訳でも、言いなりになる人形が欲しい訳でもない」



欲しいのはアル自身。例え自分の思うようにならなくても

自分の意志で笑って怒って、そんな姿を傍で見ていたい



「僕もそう思うよ」

兄さんの傍で、兄さんが幸せそうに笑う姿を見ていたい

でもそれとは相反するような気持ちも抱いている





例えば兄さんにとって大切な存在が僕だけじゃないと感じる時

僕じゃない誰かに、気を緩めていると思える時

そんな時、僕の心は急に薄暗くモヤモヤした色に染まる

そんな時、僕は気付くんだ



僕にも兄さん以外に大切な人達はいるけれど

その人達は大抵兄さんの中の大切な人達と同じ存在で、

だから兄さんがその人達を大切にする事に何の文句も疑問もないはずなのに

それでもその全てに嫉妬してしまう程には

僕の中の兄さんの存在は特別だったんだって



醜い感情だって分かってる

我が儘な事なんだって分かってる



兄さんが僕以外と関わる事が本当は嫌だなんて

そんな事を心の奥深くに抱えていただなんて



…気付きたくはなかった



だから思うんだ

僕の全てが兄さんと同じものだったなら、兄さんから生まれたものだったら

こんな風に貪欲に貴方を求めてしまう事も当たり前だと

別たれたものに還ろうとしているだけなのだと、そう思えたのに














綺麗すぎるんだなと思った

長い間魂だけの存在だったアルは純粋すぎて

たった一人を求めた時、それに付随してくる感情を受け入れきれていない



恋は綺麗で可愛らしいものだけど

愛は温かで優しいものだけど

二つが一緒になった時、それは途端に恐ろしい程の激しい感情へと変わる



嫉妬も独占欲も当たり前で

自分以外の誰も見て欲しくなくて

いつだって自分だけを見て欲しくて

時には誰の目にも届かない所に閉じこめてしまいたいと思う



綺麗なだけではいられない

優しいだけでは物足りない



それは決しておかしな事ではないのに

貪欲に求める事も、求めて欲しいと願う事も

そうやって求めつつも、幸せに笑っていて欲しいと思う気持ちも

当然のように生まれる感情なのに



それでも、そんな生まれたての感情に戸惑い悩む姿すら愛おしい

だってそれは全て、自分を望んでくれているからこそだから



少しずつ受け入れていけば良い

それが自然なのだと、解っていけば良い

ずっと俺は傍にいるから。これからもお前だけを愛しながら





大切な人達はいる

支えてくれた人達は確かにいる。だけど



何よりも失えない誰よりも特別な存在は、お前ただ一人だけなのだと

俺の全てでお前に解らせてみせるから

俺の一生で証明してみせるから










切ない思いの全てを込めて、愛しい人を抱き締める

伝わる温もりを腕に閉じこめて、ただ静かに時の流れに身を任せた

























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