「よし、このウィンリィさんに任せなさい!!」」
アルフォンスの受難はウィンリィのその一言で始まった。
見知らぬ君
二人が長年の悲願を達成して1ヵ月後、知らせをもらったウィンリィがセントラルに駆けつけた。
アルフォンスの体の検査などもあるし、暫くはリゼンブールに行けそうも無いという二人に早く会いたかったから。
電話でアルフォンスが何故か女の子になってしまった事は聞いていたが、
まあ生身の体を取り戻せただけでも奇跡なのだ。気にする事ではない、と彼女は思っていた。
そうして無事体を取り戻した二人と再会し、積もる話をしていたのだがー。
「ねぇアル。さっきから気になってたんだけど、その服って男物じゃないの?」
アルフォンスが着ていたのは、タータンチェックのシャツとジーンズ。別にそれ自体はシンプルで変ではない。
だけど形やボタンの合わせから言うと、どう見ても男物のシャツだった。
「うん。取り合えず間に合わせで買ったんだけど。」
あっさりと言われてウィンリィの眉が寄る。
「間に合わせにしたって、何で男物を着てるのよ。エドが買ってきたの?」
「違う、最初は俺の服を着て一緒に選びに行ったんだ。だけどアルが女物は嫌だって言うから。」
少しだけ不機嫌そうに話すエドワード。不本意そうなのがありありと顔に書いてある。
そしてもうひとつ、ウィンリィには気になっていた事があった。
「服だけじゃないわ。アル、あんたブラもつけてないでしょ。」
「ウィ、ウィンリィ!何を言い出すのさ!!」
顔を真っ赤にしているアルフォンスと、横で固まるエドワード。ウィンリィは気にせず詰め寄った。
「さっき抱きついた時気付いて気になってたのよ。駄目よアル、ちゃんとブラは着けないと。」
「いらないよ!ウィンリィ、そりゃ今は女の子の姿になったけど、僕は元々男なんだよ?
そんなの恥ずかしくて着けられないよ、絶対に嫌だ!」
「元男だろうと何だろうと、今は女の子なんだから。ちゃんとしないと形が崩れるんだからね。
さっきの感じだとDカップはありそうだし。」
ウィンリィの台詞に兄がコーヒーを噴出した。
「…Dカップに反応しないでよね。やだやだ、何想像してるんだか。」
「うるせー!そもそも男の前で、ブラだのカップだのの話を始めるお前も悪いだろ!」
「何よ、これはアルにとって大事な話よ。聞きたくなかったら席を外せば良いでしょ。」
噴出したコーヒーを拭きながら怒鳴ったエドワードだったが、ウィンリィの言葉に反論出来ない。
そんなエドワードをすぐさま無視して、ウィンリィは再びアルフォンスに詰め寄った。
「アル、本当に下着はちゃんとした方が良いわ。今は外では上着を着るから分からなくても、これから暑くなって薄着になるのよ?
そんな時ブラも着けないでいたら、気付いた男達に誘ってるのかと思われちゃうんだから。」
「さ、誘・・・っ!」
あまりの台詞に言葉を詰まらせるアルフォンス。誘ってるって誘ってるって何をさ!
「よし、このウィンリィさんに任せなさい!!今日は予定を変更して、アルの洋服買いに行くわよ!」
徐に立ち上がり、握り拳で力説するウィンリィに一瞬唖然としていたアルフォンスだったが、
その言葉の内容に気付いて首をぶんぶんと振った。
「いいよ!今日来たばっかりでウィンリィだって疲れてるでしょ?ゆっくりしようよ!」
必死な懇願といった感じのアルフォンス。だけどウィンリィの決意は固かった。
「今日じゃなかったら明日なら良いわけ?どっちにしても同じ事よ?」
「う…、明日も行かなくて良いんだけど…。」
「駄目だったら。ほっといたら絶対男物しか買わないんでしょ。私がいる内にちょっとは女の子らしくなってもらうわ!」
…何故だろう、彼女の背中に炎が見える。熱血だ、スポ根物だ。何でこんなに燃えてるんだ。
「と言うわけで出掛けるわよ。エド、財布を寄こしなさい。」
「へーへー。」
「って兄さん、なに素直に渡してるの!僕嫌だよ、ウィンリィを止めてよ!」
「無駄だアル。こーなったウィンリィを止められない事くらい、お前だってよく分かってるだろう。」
「…!兄さんの裏切り者ー!!」
嬉々としながらアルフォンスを引きずって行くウィンリィと、涙声で叫ぶアルフォンスの後ろ姿を見送りながら、
ごめんな、アル。俺も下着はちゃんとした方が良いと思うし、何よりお前が女の子らしくした姿が見たいんだ。
そう心の中で謝罪するエドワードだった。
「きゃ〜、これ可愛い!アル、次はこれを着てみて!」
「ねえ、ウィンリィ。まだ買うの?」
「何言ってるの。まだワンピースは一着も買ってないわよ。」
「でもスカートとかは買ったし、それで充分なんじゃ…。」
「それとこれは別よ。いいから早くこれ着なさいってば。あ、でもあのマネキンが着てるのも可愛いわ。」
アルフォンスの抵抗も虚しく、ウィンリィは店員を呼び寄せサイズの確認などしている。
「アルはねぇ。かなり細いからワンピースは体のラインを出した方が綺麗よね。」
「本当にスタイルが良くていらっしゃいますよね。それでしたらこちらなどはいかがでしょうか?
他の物より細見に作られていますし、後ろをリボンで結びますからウエストの細さが強調されて素敵ですよ。」
「形が綺麗ね。ちょっと大人っぽい感じだけど。」
「でも胸元にこういうフリルの多めなキャミを重ねると、凄く可愛らしくもなるんですよ。丈の短いボレロを合わせても良いですし。」
「本当だ。雰囲気が変わって良い感じ。うん、これは使えるわ。アル、それの次はこれね。」
店員とウィンリィとの会話に割り込んで止める事も出来ず。
アルフォンスは諦めの溜息をつきながら、更衣室へと消えていった。
「ただいま…。」
「ただいまー。ちょっとエド、荷物運んでー。」
玄関から聞こえた二人の声に、エドワードは読んでいた本を閉じた。
本を読んでいたから気付かなかったが、二人が出掛けてから結構な時間が経っている。
玄関には嬉しそうなウィンリィと、少々ぐったりとしたアルフォンスの姿があった。
そして二人の足元には大量の紙袋が。
「…随分と買ったな。」
「そう?これでも控えたんだけど。」
平然と言うウィンリィに呆れ、同時にちょっとアルフォンスに同情する。
これらを買う為に、恐らくかなりの数の店に引っ張りまわされたんだろう。
女性に生り立てのアルフォンスにはきつかったに違いない。
見るとアルフォンスは言葉もないという感じで、呆然としている。
そんなアルフォンスに更なる追い討ちが。
「さあアル。早速どれか着てみましょ。」
「…え?着てみましょってウィンリィ。今家に帰ってきたのに。」
「最後の仕上げが残ってるのよ。良いからアルの部屋に案内しなさい。」
荷物をアルフォンスの部屋まで3人で運ぶ。着いた途端部屋から出されるエドワード。
「エドは下で待ってなさいね。」
「ウィンリィ、お前あんまりアルで遊ぶなよ。」
「人聞きが悪いわね。あんただってアルが可愛い格好するの見たいでしょ?」
その言葉に何も言えなくなる。見透かされすぎだ。
大人しく居間で待っていたエドワードの耳に、二人の声が聞こえてきたのは暫く経ってからだった。
何やら揉めているのか、嫌だとか待ってよとか言うアルフォンスの声と、さっさと歩く!と言うウィンリィの声が聞こえてくる。
「見て見て、エド!アルの晴れ姿!!」
部屋に飛び込んできたウィンリィと、無理矢理引っ張られて部屋に入ってきたアルフォンスの、その姿を見てエドワードは絶句した。
すっきりとした細見のラインのワンピースを身に纏い、うっすらと化粧を施されたアルフォンス。
そこにいたのはよく見知っているはずの、だけど見た事のないような美少女だった。
ここにいるのは、本当に俺の知っているアルフォンスなのか…?
男物の服を着ていたって、さらには弟だった頃だって、アルはアルだし充分可愛かったけど。
それでも想像していたよりも、今のアルフォンスはとてつもなく可愛い。
口元を手で覆って黙ってしまったエドワードに、ウィンリィが促す。
「ちょっとエド。あんた何か言ったらどうなの。」
「ウィンリィ、兄さん呆れてるんだよ。弟だった僕がこんな格好に化粧までしてるから。」
ね、兄さん。そう言われて、エドワードは慌てて首を振ってそれを否定した。
「違うぞアル!ちょっと驚いただけだ!その、本当に可愛いし似合ってるから…。」
「兄さん…。」
真っ赤になりながら真剣な顔で言うエドワードに、つられたようにアルフォンスも赤くなる。
そして照れて俯いてしまった二人を見ながら、呆れたようにウィンリィが言った。
「…なに二人して、付き合い始めたばかりのバカップルみたいな反応してるのよ。」
「おまっ、ウィンリィ!なんつー例えしてるんだっ!!」
更に照れたのか、それとも焦りと怒りの為か、ますます真っ赤になりながらエドワードが怒鳴る。
「すっごいピッタリの表現だったと思うけど。まあいいわ。
ね、アル。最初は慣れないと大変だと思うけど、今日買った服はちゃんと着るのよ?」
ウィンリィの言葉に、アルフォンスは少々複雑そうに笑った。
「せっかくウィンリィが選んでくれたんだしね、ちゃんと着るよ。ありがとう。」
そこでふと時計を見たアルフォンスが、わぁと少し慌てる。
「もうこんな時間だったんだ。二人ともお腹空いたでしょ。待っててね、今仕度するから。」
「待てよアル、お前も今日は疲れただろ。今夜はどこかに食いに行こう。」
「やだ、エドにしては気が利くじゃない。どうしたのよ。」
「お前失礼な事言うなよな。」
「あーえっと、じゃあさウィンリィもさっき買ったワンピース着て欲しいな。若草色のヤツ。」
「あ、そうね。アルは私が選んだ服で、私はアルが選んでくれた服を着てディナーか。悪くないわね。」
着替えてくるから待っててね、と客間に消えていくウィンリィを見送って、エドワードは隣をちらりと見た。
「大丈夫か、アル。」
「何とかね。未知の世界に足を踏み込んで、ちょっとビックリしたけど。」
「…お疲れ様。」
苦笑気味で話すアルフォンスの頭をポンと軽く叩くと、見上げてきてにこりと笑う。
その笑顔に胸がドキドキするのが分かり、エドワードは内心慌てていた。
なんか俺、とてつもなくやばい気がする。
その予感が的中している事が分かるのは、それからすぐの事。
エドワードの苦渋の日々の始まりでもあった。
リクエスト企画その四。なつみさんのリクエスト。
リク内容は
・ウィンアル(妹)
・ウィンリィがアルにお化粧をしちゃったり
・兄さんドキドキしちゃったり
的なものを希望しますvv
でした。
もっと兄さんをドキドキさせたかったな〜。
ちなみにこの兄妹、まだくっついません。一応二人とも無自覚で。
でも兄さんはなんとなく自覚してたっぽいかな?
それなのにナチュラルにバカップルってどうなんだ(笑)
なつみさん、いつも感想メールありがとうございますv
どうぞお受け取り下さいませ〜♪