「ねえ兄さん。お見合いの話があったって本当?」



麗らかな春の日差しが差し込む休日の午後

誰にも邪魔をされる事無く、愛しの弟と二人っきりの休日を満喫していたエドワード

その静寂を壊す爆弾発言は、その愛しの弟アルフォンスの口から落とされた





幸福論











「アアアアアルフォンス。お前それどうして・・・」

「一昨日兄さんの書類軍部に持って行ったでしょ?その時ロイさんから聞いたんだけど」



あの糞馬鹿万年無能大総統!絶対アルには言うなって言ったのに・・・!!

殺す、ぜってー殺す!嫌がらせで見合いの話持ってきた上に、アルにまで話ちまうなんて!

今度という今度は許さねぇぞ。首を洗って待っていやがれこんちくしょう!



心の中で大総統への罵詈雑言を繰り広げる兄の殺気だった顔を見ながら、兄さんどうしたの?と小首を傾げるアルフォンス

その可愛らしい仕草を見て、エドワードはハッと我に返った

そうだ。今はあの無能の事よりもアルフォンスだ。兄ちゃんが見合いを薦められただなんて、どんなにかショックだったろう…!


そんな兄の心中を知らず、アルフォンスはけろっとした顔で兄に言った



「相手の写真も見ずに断ったって聞いたけど。良かったの?勿体なくない?」

そのアルフォンスの言葉にガックリと肩を落とすエドワード

そりゃないぜアルフォンスさんよ。よりによってお前がオレにそんな事言うのか…?



今まで散々アルフォンスへ甘い言葉を囁いてはかわされてきたエドワード

受け入れてもらってはいないけど、嫌がられてないのは知っている

だからこそ諦めようなどとは、まったく、爪の先の垢ほどにも思っていないのだ

だけど流石に当の本人に、見合いを勧められてはへこんでしまう



「…お前な。オレの気持ちは知ってるだろう。いくら何でもそれは酷いぞ」

「いやだってさ。会ってみないと気に入るかどうかなんて分からないじゃない。

 何でもロイさんが言うには、鋼のには勿体ない程美人で気立ても良い人って事だし」

「そんなに褒めるくらいなら、無能が結婚すりゃ良いんだ」

「何無茶な事言ってるの。ロイさんはリザさんと新婚ホヤホヤじゃないか」

「自分がやっと長年の意中の相手を落としたからって、人に余計な世話を焼くアイツが悪い。

 大体どんな美人だろうが何だろうが関係ねー。オレにはアルが居ればそれで良いんだ!」

唾を周囲に撒き散らしそうな勢いで、熱弁を振るうかのように訴えるエドワード

そのちょっと殺気だった目を見上げながら、アルフォンスは瞬きを繰り返した

そして、うーんと小さく唸る



「どんな素敵な人でも関係ないの」

「ない。アルより可愛いヤツなんていないし」

「可愛いって何だよ。いやだからすっごく美人で性格も良い、もしかしたら気も合う人かも知れないよ?」

「そんな事どうでもいい。オレがアルより好きになるヤツなんている訳ないからな」

「言い切っちゃうんだ・・・」

「長年の片想いを甘く見るなよ」

何故か妙に胸を張って、威張るように言う兄



「兄さん、僕らが兄弟だって分かってるよね?」

「そんなの当たり前だろ。お前が生まれた時から知ってるんだから」

「それで僕を選んで、自分は結婚しないつもり?家族とか持ちたくないの?」

「家族だったらアルがいれば良い。他のヤツなんて必要ない」

あー、駄目だこの人。なんだってこう直情的というか盲目的なんだろう

矯正されれば良いな、何て思ってはぐらかしてきたけど、そろそろ諦め時なんだろうか

はぐらかす方だって、限界が近いのだから



アルフォンスはひとつ大きな深呼吸をすると、意を決したように兄を見た





「だったら僕が兄さんを幸せにするよ」

「アルフォンス・・・?」

「だって僕の為に兄さんは結婚しないんでしょ?だったら僕が兄さんを幸せにするしかないじゃない」

大真面目な、だけどちょっと不機嫌そうに話すアルフォンスをじっと見詰めて、エドワードはブハッと吹き出した

そして自分よりも一回り以上小さな弟の体をひょいと抱え上げる



「わ!兄さん降りまわさないで、危ないよ!」

「ははっ、降参降参!兄ちゃんアルフォンス君には敵いません!」

「何言ってるのさ。どうでも良いけど降ろしてよ!」

「降ろしません〜。本当にアルは可愛いんだからな〜」

「可愛いって何?僕男なんだから、可愛いなんて言われてもちっとも嬉しくないんだけど!」

「そんな事言っても可愛いんだから仕方ないだろ?あー、もう最高可愛いっ!!」

「だからその可愛いっての止めろよ!…って、あ、やだっ、ちょっと何!?」

「アルがそんな可愛い事言うから、兄ちゃん止まんないぞー」

「だから何で兄さんが盛るのが僕のせいなのさっ!!」

抱き上げるアルフォンスの服に手を滑らせていくエドワードと、必死に防御するアルフォンス

だが、体格差や抱き上げられた姿勢では、逃れようもない

そんな必死な様子のアルフォンスの頬をペロリと舐めると、エドワードは満面の笑みで囁いた



「アル。オレを幸せにしてくれるんだろ?…早速今幸せにしてくれよ」

その言葉に一瞬ウッと言葉を詰まらせたアルフォンスだったが、諦めたように溜め息をついた



「言い出したのは僕だからね…。仕方ないか」

そう言うと、嬉しそうな兄の唇へそっと触れるだけのキスをする

するとすぐに兄がそれを追って、かぶりつくようにアルフォンスの小さな唇を塞いでいった

一通りその甘い唇を味わって解放すると、アルフォンスの顔は紅潮し、瞳は涙が零れ落ちそうに潤んでいた

それを愛しそうに見詰めると、弟は少しむっとした顔で睨み返す



「…僕、初心者なんだからね。ちょっとは手加減してよ」

「うーん。大事にはするけど手加減できるかは分からないなー」

今もアルの表情に煽られたばっかりだし



そう言うと弟は、何それ、僕煽ってなんかない!と兄の頭をポカポカと殴りだした

それをもう一度唇を塞ぐ事で止めると、エドワードはアルフォンスの体を強く抱き締めた

やっと手に入れた愛しい存在を、絶対離すものかと心に決めながら











その後、機嫌の良くなったエドワードは、ロイ大総統へに仕返しをぶち殺すから半殺しまで引き下げたという

自業自得な大総統を誰も助けてくれなかったのは、言うまでもない





















Back