吐息がかかる 触れると温かい

そんな当たり前の事が本当に幸せ








きっと多分昔から














「ふっ・・・ぅ」

カーテンの隙間から漏れる温かな日差しが顔に当たって目が覚めた

いつも起きる時間よりは早めのようだ



まだぼんやりとする頭を動かそうとして、自分の状況に気付く



頬に当たる温かいもの。心地よい素肌の感触

兄の腕の中に抱き締められて眠っていた自分

カーっと血が逆流するのを感じる。ああ、もうっ!



こういう状況にはまだ慣れない。というか慣れて堪るか

大体兄とこういう事になったのだって、身体を取り戻した1ヶ月前からの事で

まだそんなに月日も経っていない



そこまで考えて、ふとその時の事を思い出す







やっとの事で取り戻した僕の身体


元に戻って初めに見たのは、兄さんが僕の名を呼びながら駆け寄る姿

少しずつハッキリしていく意識の中で、僕は懸命に兄さんの姿を追っていた

アル、大丈夫か!?どこか痛い所なんかは、と必死の形相で問いかけてくる兄さんに

大丈夫だよ、兄さん、と返した言葉は自分の声とは思えないほどに掠れていて

それでも、生身の、自分の身体から出た声だった



その途端、身体を強く抱きすくめられた

アル、アル、と僕を呼ぶ兄さん。裸の僕の肩口に温かくて冷たい滴が落ちる

それが兄さんの流した涙だと気付いた瞬間、僕も涙が溢れてきた



泣きながら身を起こす。兄さんと目が合う

そのまま兄さんの顔が近づいてくるのを、何の疑問も抱かずに目を閉じて受け止めた



それまで、兄をそんな風に想った事など無かったはずだった

誰よりも大切でかけがえのない存在ではあったけど



なのに、あの時はそうする事がとても自然だったのだ

触れた所から伝わる熱は、溶けてしまいそうなほど心地よくて

拒む、という考えさえ浮かばないほどに、その行為はあの時の二人にとって当然の成り行きだった





そうして兄に抱かれて、初めて、兄が自分にとってどんな存在だったのかを理解した

懐かしい兄の匂いと感触と、知らない熱と痛みと快楽に翻弄されながら

僕はきっとずっと前から、この人が好きだったのだと







当時の事を思い出して、はたと気付く

あの後、お互い気持ちを確かめ合ったけど

よく考えたら気持ちの自覚や告白よりも早く身体を繋げたって、それって物凄く恥ずかしい事なんじゃ…

知らず顔が赤くなっていった



「…百面相」

ぼそりと上から振ってきた声に慌てて顔を上げると、何だかニヤニヤした兄がこちらを見ていた



「いつから起きてたの」

思わず憮然と返す。百面相だって。いつから見ていたんだ

「ちょっと前。何だか考え込んでたから声掛けなかったんだけど、真面目な顔してたかと思うと真っ赤になったりしてさ」

なー、何考えてたの?と無邪気に聞いてくる兄。言えるか、こんなこと

でも、

「ねぇ、兄さん」
「んー?」
兄さんは僕の髪を弄りながら嬉しそうに僕の顔を覗き込んだ

「…兄さんはいつから僕の事好きだったの」

気持ちはあの時確かめ合った。でもいつからの気持ちだったのかは聞いていない

兄の様子からだと、僕のように1ヶ月前に初めて気付いた、という感じじゃなかったし

僕の問いを聞いて、兄さんは少しビックリしたように、でもちゃんと答えてくれた



「いつから、って言うかなー。好きになったのは多分物心ついた頃」

「え?そんな昔なの」

正直にビックリして思わず言うと、



「いや、自覚したのはもっと後だけどさ」

アルだってそうだろ?と問い返されて、少し気まずく答えた

「僕はその、気付いたのは1ヶ月前のあの時だし。その前から好きだったんだとは思うけど、いつからかなんて分からないよ」

そう言うと、兄はそっかー、やっぱ自覚無かったんだなー。と訳知り顔で頷いた



「何だよ、それ」
そんな自分だけが知っているといった兄の態度と、意味の分からない言葉に不審な目で軽く睨む



「だってさ、アルもかなり昔から俺の事好きだったぜ?少なくても14〜5歳の辺りから」
「はあ?何それっ!?」



14〜5歳というと今から5年近く前だ。そんな昔から?

それよりもなぜ兄はこんなに確信めいて断言しているんだ

「あのなー、俺はそのもっと前からアルの事が好きだったんだぞ?お前の事なんていつだって誰よりも見てきたんだ
 気持ちの変化に気付かないはずないだろ」

アルの気持ちも分からないのに、手を出したりしないって

そう自信たっぷりに話す兄に目眩を覚える



「うそでしょ・・・」

5年も前から兄をそういう意味で好きだったと言う事。それに全然気付いてなかったと言う事

でも本当に悔しいのは、兄のその自信が間違いではない、という事が分かってしまった自分自身


あんまり悔しくて、にやけた兄の顔が腹立たしくて、僕はガバリと身を起こした



「馬鹿っ!兄さんのばかあっ!!」

「いてっ!おいアル、枕投げんなって!」

「うるさいっ!勝手に人の気持ちに気付くな、馬鹿兄!!」

「お、おまっ!それどう考えても八つ当た…ってタンマ!それは止めとけ!!」

今にも置き時計を投げつけそうな僕の手を慌てて掴んだ兄さんが、そのまま僕を抱き締めると素早くキスをしてきた

体格差もあって、今の僕には兄さんの手を振り解く事は出来ない

少しずつ深くなる口付けに、僕の身体から力が抜ける。それを難なく受け止めると兄は僕の耳元にそっと囁いた

「好きだよ、アル。ずっと昔からお前だけが」

真顔で話す兄の告白に真っ赤になる僕を、兄は嬉しそうに見詰めていた





ああ、もう良いよ。降参だよ

こうして触れている感触や温かさに、泣きたくなるくらいの幸せを感じて

好きだ、と言う兄さんの言葉が本当に嬉しくって

しかもそんな昔から、本人すら自覚してない気持ちを気付かれてたんじゃ、僕が敵うはずがない




「僕も好きだよ。…きっと多分昔から…ね」






それでも少し悔しくてそんな風に言う僕に、兄は笑いながらもう一度口付けをした





















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