最近アルフォンスの様子が変だ。

考え込む事が多くなったし、ボンヤリしている事も多い。

最初は体調でも悪いのかと心配したけど、どうやらそうではないらしいし。

曖昧な返事を繰り返す弟を無理矢理ソファに座らせて、俺は今日こそ聞き出してやると意気込んでいた。





消えない絆











「言いたくない。」

「ほー、良い態度だ。」

開口一番言いたくないだと。睨み付けるとフイっと拗ねたように横を向いてしまった。

普段は俺よりも大人な態度のアルにしては珍しい、子供っぽい仕草。

ちょっと可愛いな、なんて思ってしまったけど、今はそんな場合じゃない。

『言いたくない』って事はイコール、



「つまりは、俺に聞かせたくない内容って事か。」

俺の言葉にアルフォンスが一瞬ハッとしたように顔を上げ、俺と目が合うとまた慌てたように横を向いてしまう。

図星を指されてバツが悪い、というのがありありと分かる顔。



視線を逸らさず、じっーっとアルフォンスを見ていると、観念したかのようにこちらを向いた。

言いにくそうに口を尖らせながら、それでも怖ず怖ずと話し出す。



「可能性の事を考えてたんだよ。」

「可能性ってなんの。」

「怒らないで聞いてくれる?」

その言葉に、一瞬怒るような内容なのかと思ったけど。それは口にしないで頷いてみせる。

それでもまだ躊躇いがちに、いつもよりももっと静かな声でアルフォンスが話はじめた。


「ボクらがお互いを好きになったのって、本当の気持ちなんだろうかって。」

アルフォンスが言った言葉は、とても意外な事だった。



「兄さんは考えた事はないの?この想いは違うんじゃないかって。

 ボクらが持っていかれた時ボクらの精神が混線したのなら、惹かれ合うのもそのせいじゃないかって。」

そう言うアルフォンスの顔は色がなくて無表情で。

何とか感情を外に出さないように無理矢理作っている顔だと分かった。

アルフォンスは不安なんだ。自分の気持ちが自然な物なのかどうか分からなくて。



でもな、アル。それでどうして悩むのか、俺にはそっちの方が分からないよ。





「良いんじゃないか?混線したせいだとしてもさ。」

言い切る俺を、アルフォンスが見た。泣きそうな顔をしている。違うって否定して欲しかったんだろう。

そんなアルフォンスに微笑みかけながら俺は言った。



「俺たちの今の気持ちが、あの時の精神の混線のせいだとしても関係ないよ。

 どんな課程を経た気持ちだろうと、お前を好きだっていう想いは嘘じゃない。俺にはそれで充分だ。」

むしろ混線した事を感謝したいくらいなんだけどな。そのおかげでお前をこんなに愛せたというなら。



キョトンとした目で俺を見るアルフォンス。大きく見開き、パチパチと瞬きを繰り返す。

こいつは背だって高いし、鍛え直したから体だってガッシリしている。

なのに、声や仕草は凄く可愛い。そこいらの女なんて目じゃない程に。

今も腹の底に熱が溜まりそうなのを必死に我慢してる俺からすると、正直反則だと思う。

可愛いなんて言ったら、アルに殴り殺されるかもしれないから言わないけど。



暫くジッと俺を見ていたアルフォンスだったが、ひとつハーっと大きな溜息をついた。





「どうして兄さんってそんなに前向きなんだろう…。」

「アルフォンスが考えすぎなんだと思うぞ。」

俺からすると、好きなら好きで良いじゃないかって思うんだけどな。

その時、俺の頭にある考えが過ぎった。思わず口元に笑みが浮かぶ。



「…何で兄さんニヤニヤしてるの。」

「え、だってさ、考えてもみろよ。混線のせいだとしたら、俺たちまったく同じ気持ちって事だろ?

 今までアルは俺の事大して好きじゃないかも、なんて思った事もあったけど。

 でもそうじゃないんだよな。俺がアルを好きなのと同じくらい、アルも俺を好きなんだよな?」

言われて初めてアルフォンスは気付いた。そうか、互いが繋がっているという事はそういう事にもなるんだ。

好きなのも惹かれ合うのも、精神が繋がっているせいだとしたら。

自分がどれくらい相手を好きなのか、相手も同じ気持ちなのだからバレバレだ。



「やっぱり違う!混線のせいなんかじゃない!!」

真っ赤になりながら否定する弟を嬉しそうに見ながら、エドワードは口の端を上げてニヤリと笑った。



「俺はそれでも良いけど。だったら混線なんてしなくても、アルは俺を好きになったって事だな。」

どっちにしても俺は嬉しい。アルが俺を好きになってくれて嬉しい。



ああ言えばこう言う状態で、ニコニコと嬉しそうな兄を見て、アルフォンスは脱力した。

今更否定しても無駄なのは明らかで。

最早何を言っても兄の耳には睦言としか届かないだろう。

それは最大に脂下がった顔を見れば分かる。



こんな、こんな恥ずかしい思いをするくらいなら。

どんなに悩もうと問いつめられようと、兄さんになんか言わなきゃ良かった!!




心底後悔するアルフォンスを余所に、超がつきそうな程ご機嫌になった兄は。


恥ずかしさで真っ赤になって俯いた弟の頬にキスをした。
























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