血印








衝撃的すぎた一日がもうすぐ終わる。

査定のため東方司令部からこのダブリスへとんぼ返り、挙げ句にボクの誘拐騒ぎ。

ボクがショックでボンヤリしている間に鎧の掃除までしてくれて。

流石に疲れ切ってるだろうと思っていた兄は、何故か部屋に入って暫くベッドに座って考え込んでいた。

徐に立ち上がり、お前その甲冑開けて見ろと言われ素直に開けると今度は中に入ってしまった。

無理矢理に鎧の中に入った兄が中で動くのが分かる。どうにも落ち着かない気分になった。


「兄さん、もう良いだろ。そろそろ出てよ。」

「駄目だ。もう少し。」

「もう少しって一体何がしたいの、あっ!」

その時アルフォンスを襲ったのは、ゾワリと背筋を這い上がるようなあるはずのない感覚。


「い、今何をしたの!?」

「触ってみただけだ。」

慌てて声を上げるアルフォンスに、兄はニヤリと笑った。

その体は弟の鎧の中にすっぽりと入ったままだ。


「思った通りだ、お前、血印には感覚が残ってるんだな。」

「血印…?」

言っている意味を把握するのに時間がかかった。

それでは今の奇妙な感覚は、兄が血印に触れたからなのか?

そんな事を考えていると、遠慮を知らない兄の手がさらにその部分に触れてきた。


「あっ、い、いやだっ!いやだって、兄さん止めて!」

いやだと言うアルフォンスの声は、明らかに艶を帯びていて。エドワードを煽る。

こんな声を聞いて、誰が止められるというのだろう。


「…兄さん、もういやだ、本当に止めて。」

「ほんとにいやなだけ?気持ち悪いのか?」

「気持ち悪い…とは違う気がする。でもいやなんだよ。」

だってこの初めての感覚は、長く閉ざされた鎧の中にいる自分にとって強烈すぎて。

その事に思考が支配されてしまいそうな恐怖を感じる。


「何でこんな事…。」

戸惑う弟にエドワードは多少苛ついた声を上げた。


「それは、お前が。」

「…ボクが?」


あの時、いくら呼んでも応えなくって、オレは。

お前を失ってしまったんじゃないかと、そう思って。


…アルが悪いわけじゃない。むしろ弟は被害者だ。

自分の中で人が死んで、その血飛沫を浴びて。挙げ句にあの真理の記憶を取り戻した。

どんなに恐ろしかっただろうと思う。なんでアルばっかりこんな目に合わなきゃいけないんだ。


でも、同時に。押さえようもなく沸いてくる感情。

一時でもアルの中にいた女。アルの命である血印をその血で汚した女。

不可抗力とはいえ、それを許し、感覚を支配された弟。



これは嫉妬だ。独占欲だ。

…なんて薄汚い。



そんな感情を隠すように、オレはいつも弟と研究している時のように振る舞った。


「血印に血液が触れて飛んでいた記憶を取り戻したって事は、血印からなら情報が伝わるって事だ。

 情報が伝わるって事は、何かしらの感覚もあるって事だろ。だから触ったら解るかなと思って。」

「…そういう実験紛いの事は、ボクに許可を取ってからやって。心構えがいるんだから。」

「実験じゃないぞ。兄弟のコミュニケーションだ。」

「いらないから、そんなコミュニケーション。」

ウンザリしたような弟の言葉に、オレは少し笑った。空笑いだ。空笑いついでにもう一度血印に触れてみる。

今度は包むようにそっと。弟は耐えているのか何も言わない。

それが面白いような、でも悪戯したいような気持ちになって。オレは血印に顔を寄せた。


「うわあ、なに!?」

ビクリと小さく揺れる鎧の中で、オレは一人ほくそ笑む。


「親愛の印としてキスしてみました。覚えとけよアル、今のがお兄さまの唇の感触だ。」

オレの言葉に弟はうひゃあ、と変な声を出した。なんだよその甲高い悲鳴。可愛いじゃねーか。


「キスって、親愛のキスって!なんでそんな事するんだよ兄さん!そんなの覚えたくないっ!」

「そんなのとは失礼だぞ弟よ。したくなったからしてみたんだよ、悪いか。」

「悪いかって…。」

呆然としたように呟いて、アルフォンスはガックリと肩を落としてみせた。


「したくなったからしたで許されるんだったら、憲兵さんも軍も必要無いんだけどねぇ。」

「人を犯罪者みたいに言うな。弟にキスしただけだろう。」

「開き直るしなー。言っとくけど相手がボクじゃなかったら性犯罪者だよ兄さん。」

ぶつぶつと言いながら、オレを中から引っ張り出そうとするアルフォンス。

馬鹿だなお前は。何も分かっちゃいない。抵抗も虚しくズルズルと引き出されながら、オレは言ってやった。


「それなら大丈夫だ。お前以外のヤツにキスなんてしないから。」

ニッと笑うと、愛しいがらんどうの鎧は、器用にも大きな溜息をついて言った。



「本当に…、兄さんはタチが悪いよ。」

























2周年御礼企画その10。リクエストはもぐらさん

リク内容は
血印プレイな豆×鎧
でした

実はこの血印プレイネタ。昨年のオフ会で出たものでして。
ネタ発案はUさんと私、そしてもぐらさんに描く事を無理矢理公約化しました(笑)
んで、もぐらさんは見事に描いて下さったんですよーv
その時私も書けたら書きますーみたいな事は言ってて。
…一応、ちゃんとチャレンジしたんですよ?でも書けなかったの。
今回はリクエスト頂いちゃった事ですし、もう一度チャレンジしてみました。
にしてもこれ、読みようによっては鎧豆っぽい感じもするな。というか兄が誘い受けっぽい。
とくに後半なんかそんな感じしませんか?気のせい?
ちなみにこの兄弟、はっきり伝え合ってはいませんがお互いの気持ちに気付いてます。
私が鎧アルで自覚有り書くって珍しい。もしかして初?(なのに甘くなく、むしろ殺伐としてるのは何故)
アルに最後の台詞を言わせたくて。そしたら自動的に自覚有りになりました。

もぐらさん、ちょっと短いですが頑張ったんで許して下さい!
マニアなリクエストありがとうございます!さすが変態兄さんのパイオニア!(褒め言葉)


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