結婚祝い
「はい、これ頼まれていた工具」
そう言って、アルフォンスは机の上に包みを置いた。
紅茶の支度をしながら、ウィンリィが顔を向ける。
「サンキュ♪エドにお礼を言っといてね」
テーブルに向かい合って腰を下ろし、アルフォンスはウィンリィの淹れた紅茶の香りを楽しんだ。
「うん、いい香り」
「で、どうだったの?」
「へ?何が?」
きょとんとしながら、アルフォンスは紅茶を口に含んだ。
「初夜」
「ぶッ!!!」
思わず口の中の紅茶を吹き出し、アルフォンスはゲホゲホと咽込んだ
「ちょ、ちょっとアル、大丈夫!?」
「だ、大丈夫じゃないよ!な、何てこと言うのさッ!!」
「でも式を挙げたばかりの新婚に聞く事って言ったら、これしかないでしょ?」
「あ、あのねぇ…」
真っ赤な顔で膨れているアルフォンスに、ウィンリィは苦笑した。
「でもまぁ、あんた達ずっと昔からラブラブだったし、今さら初夜も何もないわよね」
「ウ、ウィンリィ!!」
「あはは、冗談よ。――それよりも、あんたに渡す物があったのよ」
そう言って立ち上がると、ウィンリィは棚を開けて綺麗に包装された箱を取り出した。
「はい、遅くなったけど、あたしからの結婚祝いよ」
そうして差し出された箱を見て、アルフォンスは大きな金の瞳をぱちくりと瞬かさせた。
「ウィンリィが僕に?」
「何よ、おかしい?」
「べ、別におかしくないけど…」
少し大きめのその箱を受け取り、アルフォンスはゆさゆさと揺すってみる。音はしないし、中身は軽そうだが。
「何が入ってるの?」
「そのうち要り用になるだろうと思ってね」
と、ウィンリィはただ笑ってみせる。
まあ、くれると言うのだし悪意は無さそうだからと、アルフォンスはその箱を抱え持った。
「ありがとう、ウィンリィ」
翌朝。
「兄さん、朝ご飯冷めちゃうから起きてよ」
エドワードの身体を揺すっていたアルフォンスは、グィッとその華奢な腕を引っ張られた。
「うわ!?」
「おはよーアル」
アルフォンスの柔らかな身体を腕の中に閉じ込めて、瞳を開いたエドワードが薄く笑う。
「もうッ、朝から甘えないでよ」
正しくは昨日の夜から甘えっぱなしなのだが。
「ほら、離してってば。シワになっちゃうだろ?」
言われて、エドワードはアルフォンスが着ている見慣れない服に気がついた。
身体を起こし、改めてアルフォンスの格好を見る。
アルフォンスは随分ゆったりとした感じのワンピースを着ていた。
可愛らしいデザインで、布地も決して安っぽくはない。
「…お前、そんな服、持ってたか?」
「あ、これ?昨日言わなかったっけ?ウィンリィに貰ったんだよ。
僕達へのお祝いでくれたんだから、後で兄さんからもお礼を言っといてね」
ああ、『結婚祝い』か、と表情を和らげたエドワードだったが。
「それにしても、その服…ゆったりしすぎてねえか?」
部屋着ならゆったりしているくらいの方がいいのだろうが、
いくら何でもゆとりが有り過ぎるように見える。
「だってこれ、マタニティだもん」
「…は?」
「マ・タ・ニ・ティ。そのくらい兄さんだって知ってるだろ?」
知っている、と言うほど詳しくはないが、常識として名前くらいは知っている。
エドワードの額に、汗が流れた。
「………アル」
ごくりと息を飲み込み、アルフォンスの肩を掴む。
「え?」
「な、何ヶ月なんだ?」
「何がさ?」
「そ、その腹」
ドガッ!!
アルフォンスの拳を腹に食らって、エドワードの身体がベッドに沈んだ。
「失礼だな!!妊婦さんみたいな腹だって言いたいの!?」
ぷんと頬を膨らませたアルフォンスに、エドワードはヨロヨロと身体を起こして。
「…に、妊婦なんだろ?」
「ち、違うよ!こんな元気一杯な妊婦さんがいるワケないだろ!?」
けろりと言われて、エドワードはマタニティを指差した。
「で、でも、その服…」
「結婚祝いにマタニティを寄越すあたり、ウィンリィらしいよね。
部屋着少ないから普段着に使わせてもらうけどさ」
その言葉に、エドワードはヘナヘナと崩れ落ちた。
「ちょっと兄さん、しっかりしてよ。さっきのパンチそんなに効いた?」
「……ったく、アイツもアイツだけど、お前も紛らわしい格好すんなよ。
てっきり妊娠したのかと思ったじゃねーか」
エドワードは力なく息を吐いて、ベッドに顔を埋めた。
「ごめん、ごめん、驚かしちゃったね」
そう言って、アルフォンスはベッドの上に座る。
エドワードは頭をもたげて、真正面に座っているアルフォンスを見上げた。
「でも、考えてみりゃ、もういつ妊娠してもおかしくないんだよな…」
「うん」
エドワードの手が伸び、アルフォンスの腹部に触れた。
今はまだ、何も入っていないその場所に、いつか宿る命があるのだろうか。
自分とアルフォンスの―――。
「本当におっきいよね、これ。もう一人、人間が入りそうだもん」
そう言って、アルフォンスがマタニティドレスのお腹部分を摘んでみせた。
「…そうだな」
何を思い立ったのか、エドワードが身体を浮かしアルフォンスににじり寄る。
「兄さん?」
エドワードはきょとんとしているアルフォンスの腰に手を回すと、そのまま仰向けにベッドに押し倒した。
「え!?」
驚くアルフォンスの足元に頭を動かすと、エドワードはマタニティの裾を持ち上げる。
「ちょッ、に、兄さん!何す…ッ」
アルフォンスの言葉も聞かず、エドワードは裾の部分からマタニティの内側に頭を突っ込んだ。
さすがはマタニティ。エドワードの頭が入ってもまだゆとりがある。
エドワードはそのまま上半身まですっぽりと中に入ってしまった。
「あ、朝から何考えてんだよッ!!!」
アルフォンスはもがくが、マタニティの内側に2人分の身体がしっかりと納まっているので思うように動けない。
遠慮無しにアルフォンスの太股を押さえつけながら、エドワードは更に奥へ奥へと頭を入れた。
エドワードの頭がおヘソの辺りまで来た時に、もうこれ以上は行かないだろうと、アルフォンスは思ったが。
ところが、マタニティはバスト部分もゆとりを持って作られていた。
とは言え、エドワードの頭が入るには狭いスペース。
エドワードは器用にブラを押し上げると、アルフォンスの胸を押し分けるようにぐいぐいと頭を入れた。
「…や、やだ、兄さん…ッ」
いつもと違う感覚に、アルフォンスの唇から声が漏れる。
「ね、ねえ兄さん、と、取り合えず出てくれない?」
アルフォンスは胸元に目を向けてそう言ったが、エドワードからの返事はない。
それどころか柔らかな胸の突起部分を唇に含んだかと思うと、エドワードはそれをきつく吸い上げた。
「……ッ!!…に…いさ、ん、やめ…ッ」
アルフォンスが激しく身を捩った、その時。
ドスン!と2人はベッドの端から床に転げ落ちた。
「いったぁ〜〜!!」
「痛ぇッ……」
2人がそれぞれに身体を起こそうとした、その瞬間。
ビリッ!と派手な音を立てて、マタニティが破けてしまった。
腹から下が見事に裂けてしまったマタニティを見下ろし、2人とも呆然とする。
「……………ちょっと、兄さん」
アルフォンスの声が怒りに震えている事に気がつき、エドワードがぎくりと顔を強張らせる。
「どーしてくれんのさ!!折角もらったのに!!」
アルフォンスは怒りを爆発させてエドワードに殴りかかった。
「うわッ!よせ!悪かった、悪かったって!」
「兄さんのバカァ―――――ッ!!」
ドガッ!!
バキッ!!
朝から派手な夫婦喧嘩をやらかした2人だった。
午後になり、黙々と家の掃除をしているアルフォンスに、エドワードは後ろから歩み寄った。
「……アルぅ…、まだ怒ってんのか?」
恐る恐る声をかけると、アルフォンスの手がぴたりと止まる。
リビングに漂った沈黙にエドワードが青い顔をしていると、アルフォンスの肩が震えだした。
クスクスと笑い声を立てながら、振り返る。
「もう怒ってないよ。やっぱりまだマタニティは早過ぎたね」
「そうだな。まだ当分は…」
言いかけた言葉に、アルフォンスが眉をひそめた。
「って、兄さん、ひょっとして子供欲しくないの?」
「いや、そんなことないけど…」
「じゃあ何だよ、その嫌そうな顔は」
「だから…」
エドワードは言葉に詰まると、ふいッと視線を逸らした。
「当分は、アルと2人きりの方がいい」
ぽつりと呟かれた言葉にアルフォンスは瞳を丸くして、それからフワリと微笑んだ。
「……そうだね」
アルフォンスは背伸びをして、そっとエドワードにキスを贈った。
end
やまさん、サイト4万打おめでとうございますv
やはり皆様やまさんの素敵な作品を求めて通われているのですね。
何を隠そう、私もその中の一人ですが。
やまさんには本当、いつも良くして頂いてるのにも関わらず、頂きっぱなしで
何も出来なかったので、この機会を密かに狙っておりました。
前置きには特に何も書かなかったのですが、妹アルフォンスの創作でございます;
やまさんのお気に召されるかどうか非情に不安ですが、納めて頂けたら幸いです。
(返品可ですよー)
これからも素敵な創作を沢山錬成して下さいねv
一ファンとして、影ながら応援しておりますvv
2005.02.03 うま