抱き締めてくれる温もりは、いつだって変わる事がない

その事に心から安堵する






変わらない温もりに










上り詰めた後の心地よい気怠さ

頭を兄の肩に預けて、息の整うのを待つ

お互いに汗をかいて、いつもよりしっとりした肌が密着するのは気持ちいい

触れる体温が、伝わる鼓動が、貴方の傍にいる事は夢ではないのだと教えてくれる



引き締まった、傷だらけの体。その肩口に頬を擦り寄せると、そっと髪を撫でてくれる

いつもは粗暴にもみえるこの人の、優しい仕草に全身の力が抜ける

この腕の中が、ボクがもっとも安らげる場所

泣きたくなるくらい幸せな場所



もっと触れたくて左手を彷徨わせると、兄がその手を掴んだ

機械鎧の右手で



生身とは違う感触。すでに自分に馴染んだ感触

固い金属で出来ているはずの機械鎧。それすら他の誰の柔らかな皮膚よりボクを安堵させる


この人の一部であるなら、全てが愛おしい



開け放ったカーテンから洩れる月光に、鈍く光る機械鎧

ゆっくりとその輪郭をなぞる



ねえ、辛かったでしょう。痛かったでしょう?

ボクが痛みを、感覚を失っていた間

ボクの分まで背負うかのように、痛い事ばかりで



ごめんね。ボクを繋ぎ止める為に痛い思いをさせて

ボクを取り戻す為に辛い思いをさせて

貴方一人の事なら、あんなにも苦しまなくてすんだはずなのに



「アルが謝る必要なんてない」

謝るボクに、兄が言った



「あの時、アルを失えないと思ったのは俺だ。アルのいない世界に耐えられなかったのは俺だ。
 俺は俺が生きていく為にお前を引き戻した。そんな勝手にお前が謝る事はないんだ」

自分が生きていく為に、お前がどうしても必要だったから


その言葉を聞いて、涙が出そうになった





失えない唯一の存在である貴方が、生きていく為にボクを必要としてくれる

その為にたくさんの犠牲を支払って



取り戻す為に、貴方が失ったもの、手放したもの

それらはきっと取り返しがつかないけれど


それでもボクを望んでくれる




それはとても嬉しいこと。誇らしいこと

そしてほんの少しだけ辛いこと



ボクは貴方にどれだけのものを返せるのだろう

いつだって与えられてばかりで

ただ傍にいることしか出来ないのに



幸せになって欲しい

誰よりも誰よりも幸せに

貴方が笑っていてくれたら、それだけでボクも満たされる



ボクに出来ることはあるのか。貴方の為に何が出来るのか

想いはいつも空回りしてばかりで

貴方の背負ってきた苦しみを、本当の意味でボクが理解することはきっと出来ないけど

その分、これからは貴方に辛いことなど起きないようにと心から願っている





貴方がボクを望んでくれる限り、ボクは貴方の為に生きよう


義務ではなく、贖罪でもなく

貴方に望まれることが、ボクにとって何よりも嬉しいことなのだから





















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