情愛
本の仕入れやら必要品の買い出しの為、セントラルに赴く事を決めた時リザに真っ先に連絡した
以前からセントラルに来る時には、前もって知らせてと言われていたので
久し振りに会える事を殊の外喜んだ彼女は、嬉しそうに提案する
なら折角だし、みんなで会いましょうね。うちでパーティでもどうかしら?
そのリザの提案に喜んだのはアルフィーネだ
だったら、僕準備のお手伝いがしたいです!とか言うアルに
それじゃ一緒に作りましょうね。嬉しいわ、アルフォンス君と一緒に料理が出来るなんて
と楽しそうに電話口でリザが答える
そうして数ヶ月ぶりに二人はセントラルを訪れ、旧知の軍人達と再会した
アルフィーネとリザが腕を振るった料理は、瞬く間に綺麗に消えていく
久し振りにこうして会って、懐かしい顔ぶれが集まって、美味しい食事の合間には極上のワイン
盛り上がるのは当然だった
そして胃袋が満たされ、程良く酔い始めた連中が次にする事と言ったら・・・
当たり前のように酒盛り宴会に雪崩れ込む
「おい、兄貴。お前飲んでるのか!?」
すでにかなり酔っぱらいぎみのハボックが、エドワードの首に腕を廻しながら問いかける
それと同時にタンブラーに並々とブランデーを注がれ、少々ウンザリするエドワード
「ちゃんと飲んでるよ。ったく相変わらず軍の連中は酒癖が悪いよな」
何しろ飲む量は半端では無いし、酔いが廻る程に無礼講になる
自分だって飲むのが嫌いな訳ではないが、その大騒ぎには毎回辟易していた兄だった
「でもさ、楽しいし。偶にはこういうのも良いと思うよ」
その横では、ワインを少しだけ飲んで楽しそうに笑っているアルフィーネの姿
最初、食事と共のワインすら飲んだ事がないからと断っていたアルフィーネだったが、
だからこそ今から飲めば良いじゃないかと主張する軍の男性陣と
少しくらいなら良いんじゃない?と珍しく男共の意見に同調したリザの言葉に、躊躇いつつも口にしてみる
甘く口当たりの良いワインは思ったよりも軽く、初めてお酒を口にするアルフィーネにも飲みやすかった
「お、話が分かるな、アルフォンス君。さあ、君ももっと飲みなさい」
そう言いながらアルのグラスに新しいワインを継ぎ足すマスタング
「てめえ、無能!アルは酒を飲むの初めてなんだぞ!そんなに注ぐんじゃねえ!」
並々と注がれるワインに少し慌てるエドワード。何しろアルが酒を飲むのはこれが初めてなのだ
まあ、自分達が飲んでいるブランデーなどの蒸留酒に比べればアルコール度数は低い
それにアルが楽しんでいるのは分かっていたし、何よりほんのり酔って頬を染めたアルは可愛らしかった
…それを見ているのが自分一人では無い事は気にくわないけど
複雑な気持ちで、手の中のグラスを一気に煽った
ふと気付くと宴会は終焉に向かっていたようで、脱落者の姿がチラホラ見える
フュリーはクッションを抱えて床で眠ってしまっているし、ファルマンは先程青い顔をして帰っていった
ソファにぐったりと座って、虚ろな目で明後日の方向を見ているのはハボック
ロイとブレダは脱落者を横目に、だらしないとか言いながら未だに飲み続けている
だがそのペースは飲んでいるとも言えないようなスローペースで、潰れるのも時間の問題だった
そんな中、周りに釣られずに自分のペースで程良く飲み、きちんと自我を保ったリザとエドワード
それなりに結構飲んだはずなのだが、二人とも平気な顔をしている
その兄の横には、半分眠ってしまったようなアルフィーネが、エドワードの肩にもたれ掛かっていた
「エドワード君。二人の部屋は2階に用意してあるから、そろそろ彼女を休ませた方が良いわ」
客間は分かるわよね?自由に使ってくれて良いから
リザはそう言いながら、ハボックやフュリューにブランケットを掛けたりしている
それを見ながら、エドワードは傍らのアルフィーネを見た。…確かにもう横にした方が良いだろう
「それじゃ、お言葉に甘えるよ。手伝えなくてごめん」
「そんな事は気にしなくて良いのよ。ここは明日通いの手伝いの人が片づける事になってるから。
それよりもアルフォンス君、明日は大丈夫かしら。飲ませすぎてしまったわね」
「まあ、多少はきついかもな。アルがこんな風に羽目を外すのも珍しいけど、楽しんでたから良いよ」
アルフィーネの体を軽々と抱えると、エドワードは「おやすみ」とリザに声をかけて部屋を出た
何度か来た事があった、ロイ夫妻の家。リゼンプールに戻ってからは、用事があってセントラルに来ると
この家に泊めてもらった事もあったので、部屋の場所は知っていた
勝手知ったるで遠慮無く部屋に入る。抱えた少女をベッドに降ろそうとした所でアルフィーネの目が覚めた
「兄さん…?ここ、何処…?」
「目が覚めちまったのかアル。ここはセントラルの無能の家だよ。お前、ワイン飲んで酔っちまったんだ」
「ワイン…?ああ、そうだったね。ごめん僕飲み過ぎちゃったみたい…」
ベッドの端に座らせる。まだ少しボンヤリとしながら話すアルに苦笑しながら、エドは水差しの水をコップに移して差しだした
それをありがとうと受け取ってコクンと飲み込む。乾いていたらしい喉を潤す水がとても美味しい
「確かにちょっと飲み過ぎたかもな。もう休んだ方が良い。着替え、ちょっと待ってろ」
そう言って鞄を取りに行こうとする兄の服の裾を、アルフィーネがグッと握りしめて引き寄せる
「どうしたアル。寝る前に着替えるだろう?」
「着替えるけど、それは置いといて。兄さん、僕兄さんに聞きたいと思ってた事があるんだよ」
下から睨め付けるように見上げるアル。こんなアルは見た事がない、というかそれも当然だ。完璧に酔ってるし、こいつ
「聞きたい事って、明日じゃ駄目なのか?」
「駄目。今、話ときたいの」
きっぱりと言い切るアルフィーネ。何だか目が据わっているような気がする
「分かった、何が聞きたいんだ。話してみろ」
何だか分からないが、酔っぱらっていても表情は真剣そのものだし。聞くだけは聞いておこう
飲み終えたコップを受け取りながら考える兄の心中を知らずに、アルフィーネは真顔で飛んでもない事を言い出した
「兄さん、僕とのHに満足出来てるの?」
ボトリ、とエドワードの手からコップが落ちる。幸い下はフカフカの絨毯だったので割れてはいないようだが
そんな事を心配する余裕は今の二人には無かった。特にエドワードには
「ア、アル!?お前いきなり何を言い出すんだよ!!」
「いきなりじゃないよ、ずっと考えてたんだ。
兄さんは最初からずっと僕に優しくしてくれてたでしょ?
まあ、そういう経験は無かったけど僕も元男だしさ。何となくそれで足りてるのかなって」
平然と話す元男で元弟で現在妻の言葉に、気が遠くなりかけるエドワード
お前、その可愛い顔で何て事言ってるんだよ
って言うか意外と酒癖悪かったんだな
「あー、お前の言いたい事は分かったから、大丈夫だよ心配するな」
「兄さん、それじゃ僕の質問に答えてないよ」
「お前は気にしなくて良いんだよ、そんな事」
「気にしなくて良いって何!?僕が兄さんの事考えて気にするのは当然だろ!?」
アルフィーネは立ち上がると、腕を伸ばして兄の服の胸元を掴み、グイッと自分に引き寄せた
「大体さ、兄さんは僕に気を使いすぎなんだよ!」
「ア、アル…?」
「いっつもいっつも!手加減してくれてるの僕だって分かってるんだから!
それが嫌だって言ってるわけじゃないの。嬉しいんだよ?だけど兄さんに我慢させたくもないの!」
「我慢なんてしてないって!」
「うーそーだー!じゃあ、なんでいつも一回で終わるのさっ!!」
「いや、それはだってだな…」
「だってって何。やっぱり我慢してるじゃないか!」
「だからさ、今でも終わった後、アルぐったりしてるだろ?せめてもう少し慣れるまでは今のペースでって…」
「そりゃ、僕は慣れてませんよ?でも最初の頃よりはマシになったはずだよ!」
「そうだけどさ。別に焦んなくても良いだろ、こういう事は」
「焦ってる訳じゃないの!」
そう言いながらアルフィーネは、兄のシャツを掴んでいた手に力を込めた
「僕は兄さんに触れてもらって、凄く幸せなんだよ。だから兄さんにも幸せになって欲しいの。
兄さんの好きなようにして良いんだよ。望む通りに僕を抱いてよ。めちゃくちゃにして良いから」
「アル…」
「それとも僕じゃそんな気になれない?一回抱いたらそれで充分なの」
言いながらアルの目にじんわりと涙が滲んでいく。悲しそうに歪んだ顔
「僕は、兄さんがもっと欲しいよ」
一筋流れた涙を指で軽く拭うと、エドはそっとアルの体を引き寄せ膝の上に座らせて抱き締める
そして、小さく笑みを零した
「アルは可愛いな」
「兄さん、僕は真剣に話してるんだよ。はぐらかさないで!」
腕の中で暴れるアルを離さないように力を込める。小さな抵抗はすぐに止んだ
「はぐらかしてる訳じゃないさ。本当に可愛い。今すぐ食べたいくらいにな」
そう言うエドワードの言葉に、アルフィーネが顔を上げた
じっと自分を見詰める潤んだ瞳に笑みを返し、そっと唇を寄せて歯を立てずに柔らかな頬と首筋を甘噛みしてみる
ピクリと反応を返す華奢な体に満足して、もう一度その顔を覗き込んだ
吸い込まれそうに大きく見開いて自分を見上げる瞳。酔った為かそれとも興奮の為か、薄紅色に染まった頬
ふっくらとした唇は、まるで誘うかのようにしっとりと濡れている
どれだけ自分の姿が男の情欲をそそるのか、まだ自覚していない愛しい存在
それでも、自分を望み欲してくれている
「一回で充分?そんなはずないだろ。いつだってアルが欲しくて仕方ないのに」
「だったら…」
「お前は分かってないんだよ、俺がどれほどお前を欲しがってるのか。一時でも離したくないよ。
欲しくて欲しくて際限が無くなる。俺はアルが思うよりも欲深いんだ。
だから自制していた。全てを受け入れてくれたお前を壊してしまわないように」
頬を撫で、落ちてきた髪を梳くって掻き上げる。フワリと柔らかい髪は触っているだけでも気持ちが良い
そうしてもう一度強く腕の中のアルフィーネを抱き締めて、優しく背中を撫でた
「アルは俺にとって一番綺麗で大切でかけがえのない大事な存在だから。俺の欲で振り回したくなかった。
でも、お前がそれを望んでくれるなら…。もう止まらないからな?」
そんなエドワードの首筋に顔を埋めていたアルフィーネは、頬に当たる暖かな体温に擦り寄った
「…良いよ、兄さんが望むとおりにして。それが僕の望みだから…」
やっぱり、僕凄く幸せ者なんだなぁ。こんなふうに本当なら結ばれない人と結ばれて。こんなに大切にしてもらって
もう一度会えただけでも幸運なのに
抱き締められると、すでに馴染んだ兄の体温は本当に安らげる。背を撫でる手は大きくて心地良い
そのあまりの心地よさに、アルフィーネは急速に自分の意識が薄れていくのを感じた
あれ、どうしたんだろう僕。まだ兄さんと話していたいのに…
「兄さ・・ん。僕、兄さんが…」
『大好き』その言葉は消えそうなほど小さかったけど、エドワードの耳にしっかりと届いた
そうしてそのまま腕の中で眠ってしまったアルフィーネの髪に、そっと口付けを落とした
流石に初めてのワイン数杯は、まだ16歳のアルには効き目がありすぎたらしい
聞こえてくる寝息は深く、今度は簡単には目覚めそうにない
…これは明日は二日酔い決定か?
それも良いよな、とエドワードは微笑んだ。思い掛けずアルも楽しめたようだし
何より普段から気にしてくれていたらしい事も吐き出せたんだし
あんな風に考えてくれていたなんて知らなかったから。アルにも気を使わせちゃってたんだな
だけど
「お前から言い出したんだからな。…覚悟しておけよ?」
クスクスと笑いながら、エドワードはアルフィーネを抱え上げると、大切そうにベッドへと横たえる
幸せな眠りについた少女の耳に、兄の少し物騒な台詞が届く事は無かった