こちらの設定は「Rapunzel」美紀さん宅のお話のひとつ「MILITARY DOG」の設定をお借りしてます
 アルフォンスがホムンクルスで大総統です
 思いっきりパラレルですので、それでも大丈夫な方だけお進み下さい



















滅多に此処にはやってこないその人物の姿に、彼は扉の方をジッと見た。

そこに立っていたのは、一番最後に造られた彼らの「弟」。







嫉妬















「どういうつもりだ。」

剣呑な表情を隠さないまま、怒りのオーラも露わにする「弟」ーアルフォンス。

普段感情など無くなったかのように冷静な彼にしては珍しいその姿。


「どうしたんだい、そんなに怒っちゃって。」

部屋の入り口に立ち、それ以上は入って来ようとしない「弟」の元へ彼は近づいた。


「用があったなら言ってくれれば良かったのに。」

正面に向かい合うとその体は彼よりも一回り以上小さい。

まだ少年としか言い様のない幼い容姿。その体に纏う厳つい軍服。

この大きな国の大総統という地位に就くにはあまりに幼い姿。

それでもその体から迸る威圧感は、少年の足下に軍人達を跪づかせた。

飄々とした態度を崩さない相手にアルフォンスが鋭い眼差しを向ける。


「とぼけるな。ボクが気付かないとでも思うのか。」

視線に力があったなら、今一回くらいは死んでたかもなぁ。

それとも僕がただの人間だったなら、恐ろしさで狂いそうになってたのかも。

その感覚にぞくりとしたものを感じながら、彼は澄まして答える。


「とぼけるつもりなんてないさ。主語を抜かして話してるのはおチビちゃんだよ?」

極めて優しく言うと、アルフォンスの瞳に苛立ちが浮かんだ。

こういう事だって彼にしては珍しい。


「なら単刀直入に言おう。ー鋼の錬金術師を狙わせたのはお前だな。」

「…何の事でしょうか、大総統。」

「とぼけるなと言ったはずだ、嫉妬。」

言葉と共にアルフォンスが腰の愛刀を抜くと、目の前の男の首へと伸びた。


「先日鋼の錬金術師が負傷した件。捕まったのは我が軍の下士官だ。

 彼はドラクマの将軍と秘密裏に接触し、鋼の錬金術師の殺害に成功したら寝返る約束をしていた。」

スッと、ほんの少しだけ刃が動く。糸よりも細い、髪一筋ほどの傷がエンヴィーの首筋に走った。


「国境付近の警備は万全だ。たかが脱走志願兵の勧誘の為に、敵国の将軍が危険を冒してまで来るはずがない。

 ましてや鋼の錬金術師を狙うのに、本人を直接狙うより周囲を攻めた方が有効などと知るはずもない。」

見下ろしてくる目を見返しながらアルフォンスは冷静に語る。

その射抜くような眼差しを受け止め、エンヴィーは小さく息を吐いた。


「あー、はいはい降参。確かに僕がやった事ですよ。」

両手を挙げ降参のポーズを取るエンヴィーに、アルフォンスは益々冷たい視線を向ける。


「何故あんな事をした。」

小さな体から迸るオーラ。全身が炎に包まれているかのようだ。それも青く冷たい炎に。


同じ怒りでもどうしてこうも印象が違うものだろう。ーあの鋼の錬金術師とは。


「何故も何も、おチビちゃんの為にやったんだけどな。君の最大の弱点をこの世界から消してあげようかと思ってね。」

エンヴィーの言葉にアルフォンスの肩がピクリと動く。


「戯れ言を…。」

「そうかな。」

そんな微かな反応にエンヴィーは微笑んだ。


「鋼のおチビちゃんが消えれば、君は楽になれるんじゃないの。」


元には戻れないのに、未だ弟を取り戻そうと諦めないエドワード。

元には戻れないのに、心の中では兄を慕い続けるアルフォンス。

断ち切れない絆に、消えない想いに。苦しんでいる二人。

どんな思いでそうとは気付かせないで、兄を守っているのか彼の人は知らない。



「余計な事だ。ボクに弱点などない。」

アルフォンスはそう言うと刀を引いた。


「最初に言ったはずだ、あれを殺す時はボクが殺す。それまでどう使おうとお前達には指図されない。」

次の瞬間、アルフォンスの振るった刃がエンヴィーの肩を貫く。

小さな呻き声を上げたが、エンヴィーは黙ってそれを受け入れた。


「二度目はないと思え。」

ズブリ、と嫌な音を立ててその刀が引き抜かれる。流れ落ち刃に伝う鮮血を意にも介さず、アルフォンスは身を翻す。

一度も振り返らない小さな背中が出ていった扉の閉まる音が、何もない空間に低く響いて消えていった。










「…やりすぎよ。」

後ろから声をかけられて振り返る。そこにいたのは長い黒髪の美しい女。


「ラスト。見てたんなら助けてよ。」

「よく言うわ。助けて欲しいなんて思ってなかったくせに。」

呆れたように言う彼女に、エンヴィーは塞がっていく傷を軽く叩いてみせた。


「面白かっただろう?あのおチビちゃんが動揺する姿なんて、滅多に見られるものじゃない。」

どうせ多少卑怯な手を使った所で、一兵卒にエドワードを殺せるわけがない。


「いじましくって可愛いよね。ついちょっかいかけたくなる。」

「あなたの歪んだ愛情表現に巻き込まれるあの二人に同情するわ。」

心底楽しそうなエンヴィーを見て、ラストはフッと溜息をついた。


「それで?あなたが執着してるのは、本当はどちらなの。弟にそれ程までに想われて守られているエドワード?

 …それとも、化け物と言われる体になっても、兄に愛されてるアルフォンス?」

感情の読めない顔で静かに聞いてくる姉を、エンヴィーはジッと見る。

その視線から一旦目を逸らして天井を見上げた。そして姉にニヤリと笑ってみせる。


「どっちもじゃないかな。僕にないもの、僕の手に入らないものには何だって執着するよ。」

 
何たって僕は『嫉妬』だからね。











自室の扉を乱暴に閉めると、アルフォンスは身を包む軍服を剥ぎ取るように脱ぎ捨てた。

「弱点だって?冗談じゃない!」

弱点だから楽になれるからあの人を殺す?お前らにだけはそんな事言う資格はない。

そもそもこの苦しみを与えたのはあいつらなのだから。

人ではない体のボクが楽になる為に、人である兄を殺すなんて。


「誰にも手出しなんてさせない。そんな事絶対に許さない・・・!」


誰もいない部屋で彼は一人呟く。その覚悟を知る者は誰もいない。






















Back