「兄ちゃん、ボク、トーマスの家に遊びに行ってくる。」

「え?お前、きのうも行ってたじゃないか。」

「うん、今日も用事があるんだ。じゃあ行ってきます!」


俺も行く、と言おうとした口は開いたまま、伸ばそうとした手は宙に浮いたまま

俺は唖然とするほかなかった。




いつも、一緒に















面白くない、面白くないぞ!

何だかこの所アルフォンスのやつ、トーマスの所ばっかり行きやがって。

今までは学校が終わると、まっすぐ家に帰って錬金術の勉強してたのに。

なんだよ、俺といるより、あいつと遊ぶ方が楽しいのかよ。



自分で考えたことに愕然とした。

そうなのかな。俺と勉強したり遊ぶより、他のやつといる方がいいのかな。

俺はアル以外のやつといるより、アルと一緒の方がいいんだけど。



学校の勉強はつまらなかったし、逆に錬金術は面白かった。

母さんが喜んでくれるからというのもあったけど、それ以上に自分が知りたかった。

その楽しみ、面白さを理解出来るのはアルフォンスだけなのに。

そうでなくても、アルフォンスと一緒ならそれだけで楽しいのに。

アルフォンスはそうじゃないのかな。



考えれば考えるほど、なんだか悲しくなってきた。

それと同時に腹もたってきた。

俺ばっかアルと一緒がいいと思ってるなんて悔しい。

アルがそう思ってない事が悲しくて悔しい。



「ふんだ!アルフォンスなんてしるもんかっ!」

悔し紛れに言った台詞は、自分でも情けない程涙声に近くって。

俺はますます苛立って、毛布を掴むとベッドに突っ伏した。








「ただいまー。あれ、兄ちゃん寝てるの?
 
 変なの、まだ6時だよ。もうちょっとしたらご飯だよ。」

かけられた声に答えずにいると、アルフォンスがベッドに近づいてくる気配がする。



「ねえ、具合が悪いの?風邪でもひいた?」

先ほどよりも心配げに聞いてくる弟に、それでも俺は答えない。



「ねえ、兄ちゃん!兄ちゃんってば!」

返事をしない俺を心配したのか、それとも苛立ったのか、アルフォンスが強引に毛布を捲った。

今は見たくない弟の顔がすぐ間近にある。

それが何とも居心地が悪くて、俺は顔を背けた。



「どうしたの。具合が悪いなら、母さんに言ってお薬飲んだ方がいいよ。」

「…俺に構うな。」

「え?」

「俺に構うなって言ったんだ!」

「兄ちゃん…?」

怒鳴りながら身を起こした俺を、アルフォンスが呆然と見ている。

その視線を感じながら、俺は自分を抑え切れなくて。

言ってはいけないことを、言った。



「お前は余所に行って遊んでればいいだろ!俺のことなんかほっとけよ!

 お前なんか、アルなんか…、大嫌いだっ!」

「兄ちゃ…。」

思わず口に出た台詞にハッとする。こんなことまで言うつもりはなかった。

アルが嫌いだなんて嘘だ。そんなこと思ったことないのに。



気まずい思いでアルフォンスを見る。その顔を見て、一瞬息が止まる。

アルフォンスが泣いていた。目を大きく見開いて、大粒の涙がぽろぽろと零れている。



「ア、ル…。」

俺のかけた声に弾かれたようにアルフォンスが身を翻し、物凄い勢いで部屋を飛び出していった。

乱暴に開けられたドアが壁に跳ね返る音で我に返った俺は、慌ててその後を追いかけた。










見慣れた道を走りながら考える。

こんな時アルが行きそうなところはどこだ。誰にも見られずに一人になれるところ。



早く見つけて誤らないと。酷いことを言ってアルを傷つけたんだから。

だってアルがあんな風に泣くところなんて初めて見た。

負けん気の強いやつだから、悔しくて泣いてるところとか、小さい時に甘えたように泣くところはよく見ていたけど。

でもあんな風に悲しそうに泣く姿は初めてだった。



俺が泣かせてしまったんだ。

そう思うと、激しい後悔が胸に押し寄せてくる。



早く、早く見つけないと。早く謝らないと。

どこにいる、アルフォンス。どこで一人でいるんだ。



その時脳裏に浮かんだのは、森を少し入ったところにある大きなあこうの木。

根元が大きく抉れたように空洞があって、ちょっと窮屈だけどよく二人で入って昼寝をしたりした。


きっとあそこだ。


何の根拠もなく確信して、脇目も振らずに目的の場所に走る。

息を切らせながら辿り着くと、果たしてアルフォンスはそこにいた。

大きなあこうの木の中で、膝を抱えて顔を伏せている。


近づく俺の気配に気づいたアルフォンスが、パッと顔を上げた。

涙に濡れてぐしゃぐしゃになった顔。その眉が俺を見て一瞬苦しげに歪む

飛び出そうとするアルを、一瞬早く動いた俺は空洞の入り口を体で塞いで閉じ込めることに成功した。



「…どいてよ。」

「嫌だ。どかない。」

「どいてよ。ボクが嫌いなんでしょ。余所に行けって言ったのは兄ちゃんじゃないか。」

そう言うアルフォンスの顔は辛そうで、それを見るのが苦しくって。

俺は思わず弟の体を抱きしめた。



「ごめん、アル。違うんだ。大嫌いだなんて嘘だから。」

アルは身動きひとつしないまま黙っている。俺は何とか本当の気持ちを伝えたくて、必死に謝った。

「アルのこと、嫌いだなんて思ったことはないよ。アルは俺の大事な弟だ。」

本当にごめん、と何度も繰り返すと、腕の中でアルフォンスが力を抜いて俺を見上げて聞いてきた

「…なら、何であんなこと言ったの。」

「いや、何て言うかさ。お前がこの所トーマスのとこばっかり行くから。

 俺といるよりトーマスといる方が楽しいのかなって思うと、…なんか悔しかったんだよ!」

それを本人に打ち明けるのは妙に恥ずかしい感じがする。

真っ赤になる俺をきょとんと見て、アルフォンスが何だぁ、と呟く。


「何だって何だよ。俺は真剣に言ってるんだぞ。」

「うん、だけど兄ちゃん。ボクがトーマスのところに行ってたのはね。」

そこで言葉を切って、少しだけ迷うかのように小首を傾げるアルフォンス。


「何だよ、続きを言えよ。」

「今日じゃなきゃ駄目?」

「というか今じゃなきゃ駄目」

ハッキリと言うと、アルフォンスは仕方ないかなぁ、と呟いた。



「あのね、明日兄ちゃんの誕生日でしょ?だから何か自分で作ったものをプレゼントしたくって。

 兄ちゃんの好きなジンジャークッキー作ろうと思ったんだけど、家で作ったらばれちゃうから。

 だからトーマスの家で作らせてもらってたんだ。」

でもあんまり上手く作れなくって、何度も作り直しちゃった。と少し照れくさそうなアルフォンス。

その姿を見て俺は胸が一杯になって、思わずさっきよりも強くアルフォンスを抱き締めた。



「兄ちゃ〜ん。ちょっと苦しいよ〜。」

アルフォンスの言葉に少しだけ力を緩めて、俺は心からの気持ちを言葉にした。


「俺、アルフォンスが大好きだ!」

「ボクも!兄ちゃんが大好きだよ!」

二人で顔を見合わせて笑う。大事な弟、大切な弟。

もう二度と泣かせたりするもんか。





仲直りの印に、アルと手を繋いで森を歩いた。

慣れた道は何故かいつもより短く感じて、もっと遠かったら良かったのにと思った。

そしたらアルともっと手を繋いで歩けたのに。

そう思う自分が何だか可笑しかった。



お腹すいたな。お腹すいたね。

あー、アルの作ったクッキー食べたい。駄目、クッキーは明日だよ。



他愛もない会話をしながら、母さんの待つ家に帰る。

明日は母さんのごちそうとケーキが待っている。アルからのプレゼントのクッキーも。

それを考えると、お腹のそこがホコホコと温かかくなってくる。





今度は俺が、アルの誕生日にすっごいのをプレゼントして驚かせてやるんだ!

そう決意しながら、アルと一緒に玄関へと飛び込んだ。

























リクエスト企画一番乗りは侑加さん
初めましての名乗りを上げてのリクエスト、ありがとうございます!

リク内容は

子エド×子アルでケンカしちゃう話。
それでアルが泣いてどこかに行っちゃう。
でも仲直りで結局はラブラブな兄弟。

でした。リク内容一応クリア出来たかな?

私の小説を好きだと仰って下さってとても嬉しいです!
来て下さる方々へのお礼になればと、リク企画して良かったな〜と思いましたv
これからもどうぞよろしくお願い致します♪


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