見えない糸で絡め取る


二度とお前が離れていかないように







Hungry Spider










足りない。まだ足りない

想いを伝えあって、確かにお前を手に入れたのに

俺の心には空洞が広がっている


好きだと告げる。愛してると囁く

その度に嬉しそうに笑う姿を見ると、心が安らぐ


キスをして抱き合って、アルフォンスの体温を直に感じる

その奥深くまで知っているのは、俺だけの特権


そうして、この世で唯一無二の存在を、その全てを手に入れたはずなのに

この胸に広がる底の見えない穴のような虚空はなんだ



足りない。まだお前が足りない

俺自身も知らぬ間に内に巣くったこの空洞を埋めるには


埋められる程俺にとって大きな存在は

お前以外にはいないのだから



足りない。まだ足りない

いつも何かに餓えている


穏やかに微笑む姿。全てを取り戻したアルフォンスの姿

幸せで、幸せそうで、それで充分だったはずなのに

それだけでは満足していない俺がいる

こんなにも貪欲だったのだろうかと自分自身に呆れながら



アルフォンスが微笑むのは俺だけにではない

優しくて明るくて賢くて、誰にでも好かれるアルフォンス

そんな所も大好きなのに、その笑顔が他に向けられるのが見たくない

誰かがアルフォンスに話しかける度に、アルフォンスが笑って話す度に

心の中の薄暗い感情が、むくりと頭を擡げる



その笑顔を他のやつに向けるな

そんなに楽しそうに話すな

これは嫉妬なんてかわいい物じゃない

もっと暗くて重くて色んな物が混じったような、グロテスクな感情だ



ただ一人だけを望み欲する。他には何も必要としない

狭い世界に留まり続ける俺がいる

その世界に留めようとする俺がいる

その笑顔も、優しい声も、お前の全ては俺の物だ

俺の全てもお前の物だ



見えない糸でお前を縛り付ける

もう何処へも行かないように、連れて行かれないように


哀れに懇願しても構わない。情けなく見えてもいいから

同情でもいい。それでお前が離れていかないのなら

ずっと傍にいてくれるのなら




















兄さんは気付いていない

僕の本当の気持ち。僕の本心



兄さんは僕が誰かと話す事が、本当は好きではない

それを子供のように口に出したりはしないけど

他の人と笑ったり楽しそうにする事も

それを見る度に、兄さんの中に暗い感情が芽生え育つ事を僕は知っている

解っていて僕はそれを見せつける



僕と同じように、もっと貪欲に求めて欲しい

形振り構わずに、僕だけを求めて欲しい

そうして僕を貴方の元へと縛り付けて欲しい

二度と離れなくてすむように

別離の予感に震えなくてすむように



ねえ、兄さん。僕は貴方に囚われてる

貴方という糸に絡め取られて、身動きひとつ出来ないでいる


でも、そうなる事を望んだのは僕

離して欲しくなくて、自ら囚われた

進んで罠に落ちたのは僕





だって罠に嵌って捕まった蝶々がいるうちは

蜘蛛だって何処かに行こうなんて思わないでしょう?





捕まえたのは貴方。囚われたのは僕

お互いの存在でお互いを縛る


貴方だけが僕の世界。貴方だけが僕の目に映る全て

視線すら貴方から逸らせない



だから兄さん。貴方も僕だけを見ていて

貴方の罠に自ら身を投げ出した、貴方の為だけに存在する僕を

決して目を逸らさぬように



ねえ、兄さん。僕と同じ所まで堕ちてきて

二度と這い上がれない、底なし沼のようなこの場所まで





同じ所まで堕ちてきて














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