気付かないで。知られたくない。
こんなにも浅ましい想いを貴方に向けているボクを。
どうか、そのまま知らずにいてほしい。
密やかに願う
いつからか、ボクが兄さんへ向けていた想いは形を変えていった。
家族として、妹として兄へ向けていた想い。
それは世界にたった一人、愛する男性への想いとして変化していた。
実際は変化したのかどうか分からない。もともと自覚無しにそういう意味で兄を愛していたのかも。
今となってはボクにも分からないけど。
笑ってしまうよね。見た目はこんなに屈強な男の人に見えるボクなのに。
心はいつだって女のままなんだ。
鎧の体を持つ事が兄さんの最大の負い目になっている事は分かっている。
妹なのに、女の子なのに。こんな鎧の体にしちまってゴメン。
泣きそうな顔で謝った兄をボクは忘れない。
良いんだよ兄さん。ボクは兄さんの側にいられるだけで充分だから。
そう言ったら、兄さんはもっと泣きそうな顔になった。結局泣いたりはしなかったけど。
あれからもう4年が過ぎた。ボク達はお互いの体を取り戻すための旅を続けている。
色々なトラブルに巻き込まれたり、結構波瀾万丈だけど。ボクはそれを辛いとは思った事はない。
だってずっと兄さんと一緒なんだ。
リゼンブールにいた時だって、二人っきりの兄妹だったからいつも一緒だった。
それでも兄さんが他の友達と遊ぶ事だってあった。ボクもそうだったけど。
今は本当に二人っきりだ。時々旅先で仲良くなった人とだって、次の旅立ちと共に別れてしまう。
待っていてくれる人や、協力してくれる人はいるけれど。それでも頼れるのはお互いだけで。
成長しきっていない体で旅を続ける事が、兄さんにどれほどの負担を強いているか、気付いてはいるのだけど。
それでも二人っきりである事を喜んでしまうボクは、きっともうどうしようもないほどに歪んでいるのだろう。
子供の頃は知らなかったんだ。解らなかったと言えばいいのかな。
ずっと兄さんだけが大切だった。大好きだった。
それがどういう意味でかなんて、考えなくても良かった。
今思うと、あの頃が一番幸せだったのかも知れない。ただ無邪気に貴方を愛せてたのだから。
その想いが人として間違っているとか禁忌なのだとか、何も知らずにいられたのに。
それでも貴方を愛した事を、後悔する気も無理に諦めようとする気もボクにはないんだ。
からっぽの鎧の中、魂だけのボク。
兄さんの血印によってこの世界に繋がれたボク。
そんな不安定な存在が、こうして現世に留まっていられるのは、きっと。
兄さんへの執着があるからなんだろう。
兄さんへの想いを無くしてしまったら、ボクはボクでいられない。
魂の中に刻み込まれた想いは、何度錬成されたって消える事はない。
ボクという人格を構成する大切なもの。失えない気持ち。
例えそれが人から見たら許されないものだとしても。
兄に打ち明けるつもりはない。気付かれたりなんかしない。
兄さんの負担にならない為なら、ボクは何だってできるんだ。想いを無理に押し殺す事だって。
今だってボクに負い目を感じている兄さん。ボクはそれを利用しているのだから。
兄さんが離れていかないように。
だからこれ以上の負担にはなりたくない。
兄に触れたいと願っているのも本当。
兄に楽になって欲しいと思っているのも本当。
それと同じくらいに、このまま旅を続けたいと思うのも本当のボク。
知らないでいて、気付かないでいて。
こんなに醜くなっていくボクを貴方は。
どうかどうか、この鎧の中の妹は、あの日の幼い少女のままだと思っていて欲しい。