いつだってお前に触れて欲しいと思ってる
触れていて
俺の弟はなんて言うか、よく気が付くやつだ。こういうのを世話女房とか言うんじゃないだろうか
天性のものなのか、後から培われたものなのか
俺達をよく知るやつらから言わせると、天性+ズボラな兄を持ったが故の後天的なものらしいが
…まあそれは半分以上当たっているだろう
だがいくら弟に怒られても、寝食を忘れてしまうのは仕方がない
食事なんて摂れる時に摂れば良いし、眠気の限界がくれば自然と寝てしまう
それで充分じゃないかと思うんだけど、弟はそれを良しとはしない
以前は似たり寄ったりの生活を送っていたくせに、何故今はそこまで気にするのか
その理由は解っているつもりだ
それを考えると、アルの言う通りにしなきゃと思うんだが、結局いつものパターンに戻ってしまう
でも髪を拭かずに風呂から上がるのは、実は半分わざとだ
本当はアルに髪を拭いてもらいたくて、それを期待して髪を拭かずに風呂を出る
案の定アルは「風邪をひくでしょ!」と怒りながらも俺の髪を拭き始める
こんな瞬間が俺は大好きだった。情けないかも知れないが
丁寧に俺の髪をタオルで拭うアル
俺はそれを本に熱中している振りをしながら、アルの大きな指先に神経を集中させる
アルにこうしてもらうのは、とても心地良い
昔、母さんに頭を撫でてもらった時よりも、アルの指の感触は俺を安心させる
それが何故なのか、俺はもう知っている
本当はもっと子供の頃から知っていたんだ
アルはいつも怒りながらも俺の髪を拭いてくれる
でも言葉ほどには怒っていないのを俺は分かっていた
だってこんな時のアルは、心なしか嬉しそうなんだ。
鎧の身体だから表情は変わらないけど、雰囲気で分かる
アルはいつだって感情豊かだから
髪を拭き終えたアルが俺から身を離した
それに少し寂しさを覚えながら、「サンキュ、アル」と声を掛けると、アルの苦笑する気配が伝わった
お前だけが俺に安らぎをくれる
アルがアルでいてくれるだけで、俺は前に進んで行ける
何よりも、自分自身よりも大切な存在だから
傍にいてくれるだけでも充分だけど
お前が俺を呼んでくれるだけでも充分なんだけど
でも、出来れば
本当はいつだってお前に触れたいし、触れていて欲しいんだ