ここ暫く、兄さんとまともに話せていない

体を取り戻した後軍に正式に入って、いつだって忙しい人だったけど

最近の忙しさは半端じゃなくて



ボクは自分でも気付かないうちに、小さな不満と不安を募らせていた










不安
















その日、兄が帰宅したのは午前2時を過ぎた頃だった



この所なかなか寝付けず、浅い眠りを繰り返すだけの睡眠を取っていたボクは

物音を立てないように、ひっそりと帰宅した兄の気配に目を覚ました

そのまま兄の気配のするキッチンに向かう

水を飲んでいた兄は、近づくボクの気配に驚いたように振り向いた



「アル、こんな時間に…。悪い起こしちまったか?」

「ううん、元々起きてたから。それより兄さん、この所帰るの遅すぎだよ。
 全然お休みもらってないし…。そんなんじゃ体を壊しちゃうよ」

「あー、うんまあな。でも仕事の合間に休める時は休んでるから、大丈夫だよ」

「そんなの休んだうちに入らないよ。一日くらい休めないの?」

「今やってる仕事が纏まるまでは、ちょっとな」

その言葉に、なんだかムカムカしたものが胸に込み上げてくる

こんなに心配してるのに。…こんなに兄さんがいないことが寂しいのに

どうして分かってくれないんだろう



「だったらボクにも手伝わせてよ。兄さんの手助けがしたい」

「それは駄目だ」

「なんでさ、前、ロイさんは軍部に出入りする事も許してくれたし、
 なんだったら秘書官になれば良いって言ってくれたじゃない」

見た目が子供だから、正式な秘書官にはなれないだろうけど


あの時、兄の反対を押し切っていれば良かった

そしたらどんなに忙しくても、ずっと傍にいられたのに


それなのに



「アルは軍と関わったら駄目だ」

一言で断ち切られて、ボクの中で何かがきれた



「…どうして、ボクの意思をそんなに簡単に切ってしまえるの!?
 ずっと家に独りぽっちで、兄さんのことばっかり考えて心配して!
 もうそんなの嫌なんだよ!同じ心配するなら、傍にいた方がずっといい!」

「アル…」

「兄さんは仕事とボクとどっちが大事なのっ!!」

激情のまま叫んだアルフォンスだったが、自分が吐き出した言葉にハッと息を飲んだ

こんな、兄を困らせるだけのことなんて言うつもりじゃなかったのに

何よりも、兄が自分を大切に思ってくれている事なんて

自分自身が一番知っているはずなのに



悔しい、あまりにも子供な自分が

見た目だけではなく、中身もこんなに子供だったなんて思わなかった

あの旅の中、精神的に少しは成長出来たと思っていたのだけど

どうして兄さんに関することでは、こうも簡単にタガが外れてしまうんだろう


悔しくって、情けなくって

じんわりと滲んでくる涙を堪えるのに必死になる



「兄さんごめん、ボク酷いことを言った。今一番大変な時期だってわかってるのに」

兄が今度の仕事に心血を注いでいる事は知っていた

だからこそ、こんなに擦れ違いが生じたわけだが



泣きそうなアルフォンスを見ながら、エドワードは困ったように話し始めた



「実はな…。今の仕事が全てすんだら、軍を辞めることになってる」

「え・・・?」

言われた言葉の意味を把握出来なくて、目を見開いたボクを兄さんが苦笑して見ている



「無能も無事大総統になったし、多少感じていた義理と恩も返せたし。
 最後にあいつらがこの先この国を守っていくのに、必要なものが揃ったら俺の役目も終わりだろう」

だから今度こそ。あの懐かしい場所に二人で戻る為に



「俺がちゃんと話しとけば良かったんだよな。アルにはずっと寂しい思いをさせてたのに。
 ビックリさせようなんて考えて、黙ってたから不安にさせちまったんだな」


ごめん、アル



そんな申し訳なさそうに言う兄に、ボクはただ、黙って首を振り続けた。何を言うこともできない

堪えていたはずの涙が、一気に溢れて流れるのがわかる。ギュと目を瞑る



何日も徹夜して、軍部に泊まり込んで

体を壊しそうな程の量の仕事をこなしていたのは


全て二人で故郷に帰るため



それなのに、ボクはー





「ごめ…んなさい、兄さん。ボク…」

溢れ出す涙でひくつく声で、必死に兄に謝る

そんなボクを、兄はそっと抱き締めてくれた



「アルが謝ることはないって。黙ってた俺が悪いんだし」

「兄さんは悪くないよ、ボクが子供すぎたんだ。兄さんの気持ちも知らずに馬鹿だった」

「知らせなかったのは俺なんだから、アルは悪くないって。…ってお互い止めよう、キリがない」

兄はそう言ってちょっと笑い、まだ涙の止まらないボクの背を軽く撫でてくれる

その優しい感触に、ここ数日の焦燥が嘘のように晴れていくのを感じた


アル、と兄がボクを呼ぶ声に顔を上げると、嬉しそうにボクを見詰める金色の目



「もう少しだから。そしたら二人で帰ろうな?」

兄の言葉に、ボクは精一杯の笑顔で応えた。止まらない涙には、嬉し涙も混じっていた










兄さん、ボクはね

二人でいられるのなら、何処にだっていけるよ


でもそれがあの懐かしいリゼンブールなら



あの場所に二人で戻れるのなら、こんなに嬉しいことはない














大総統の懐刀と言われていたエドワード・エルリック大佐が、公の場から姿を消したのは

それから3ヶ月後のことになる






















44444打のご報告がなかったので、44443のニアピン急遽認定
ご申告は紅緒さん

1、年の差(10才くらい)
2、アルが『仕事と僕とどっちが大事なの!』と言って泣いちゃう話
3、兄さん焦って謝りつつもアルの為に仕事してるのに、としょんぼり
4、じゃあ仕事辞めてずっとアルの傍に居る!と開き直り今度はアルが焦ったりして
5、最後は何とか話合いラウ゛ラウ゛モード全開

『仕事と僕と〜』の台詞があれば、どう料理しても構わない、とのお言葉でした

すみません、1と2と5しか守れてません;;
アルの為に仕事をしてる、って考える兄さんが思いつかなかったんです〜(^_^;)
最後もラブラブ…じゃないかもしれない…

紅緒さん、こんなんで宜しければどうぞお受け取り下さいませ!
リクエストありがとうございました♪


Back