微かに耳に届く小鳥のさえずり。カーテンから僅かにもれる温かな日差し
傍らに眠るのは最愛の人

こんな風に目覚める朝を、幸福と呼ばないでいったい何と呼べば良いのだろう













朝明



















二人が再び出会って1年、想いを確かめ合ってから半年

交わした約束通り、アルフィーネの16歳の誕生日を迎えるとすぐに二人は結婚した


全員の出席は無理だろうと思っていたのに、軍の馴染みの連中全てが駆けつけてくれた

散々からかわれたけど、それでもみんなの気持ちが嬉しかった


師匠達にも今まで心配ばかり掛けていた人達にも、こうして二人で幸せになるからと

伝える事が出来て、それを祝福してもらって

本当にこれ以上はない程に幸せな結婚式だった



その後二人で選んだ新婚旅行先にこうして出向いたわけだがー



一人先に目覚めたエドワードは、自分の腕の中でまだグッスリと眠るアルフィーネをチラリと見た

その目尻にはうっすらと涙の跡が残っている


・・・ちょっと無理をさせてしまったかも知れない



何と言ってもアルはまだ16歳で、初めての経験で。きっと恐いという気持ちだってあったはずだ

自分の弟として生きていた前世の記憶を全て取り戻し、お互いひた隠しにしていた想いを伝え合って



だけどアルは男としての意識と女としての意識を併せ持っている。戸惑いの気持ちだって大きかっただろう

だからこそ自分も結婚式までは、と思ってまあ我慢してきたのだ

大切にしたかったから



でもだから、昨夜はアルの温もりを感じられる事が、全てを受け入れてくれる事が本当に嬉しくて

出来るだけ優しくしたつもりだったのだが、つい最後の方はー

自分の忍耐力の無さに少々自己嫌悪するエドワード



せめてアルが目覚めた時、少しでも気分が良くなるようにしておこう

そう決めると名残惜しい思いで、眠るアルフィーネの横から身を起こした










「う…ん。にいさ…?」

その時出た声は、自分でもビックリするぐらいに掠れていた

同時に目を開けようとしたのだが、何故だか瞼がやたらと重い



「アル、無理に目を開けようとするな。ちょっと待ってろよ!」

そんなに遠くない所から、少し慌てたような兄の声が聞こえる



無理に開けるなってどういう事?僕の目、どうかしてるの?

その時何か冷たい物が僕の顔にのせられた。よく冷やしてあるけど、これってタオル?



「…気持ちいー…」

「そのまま少し冷やしてろ。たいして腫れてはないから大丈夫だと思うけど…」

「え?僕の目腫れてるの?どうして…」

そこまで言ってから僕はだんだんと状況が解ってきた

そうだ、今は兄さんとの新婚旅行中で、きのうはその、兄さんとー

その事に動転して身を起こそうとした僕は、下半身に残る痛みと違和感に襲われた



「う〜…」

「アルッ!大丈夫か!?」

結局起きあがれずにベッドに逆戻りしかける僕を、兄さんが慌てて支えるとずれたタオルを押さえてくれる

背中には兄さんの大きな掌の感触。うわ、どうしよう。何だかとても恥ずかしいよ



「ごめんな、アル。辛いだろう?」

僕が何も言えずにいたのを誤解したのだろう。心底申し訳なさそうな兄の声



「ううん、違うよ!ちょっとビックリしたけど、そんなに辛くないから!」

それとちょっと恥ずかしかっただけだから。さすがにそんな事言えないけど



心配をかけたくなくて、僕はソロソロとタオルを外した。するとすぐ近くに真剣な兄の顔

…兄さん、それ反則。そんな真剣な顔しないでよ。不覚にも一瞬見とれてしまうが、何とか立ち直る



「本当に大丈夫だったら!僕そんなに柔じゃないよ?」

「丈夫とか柔とかの問題じゃないだろう。…ごめんな」

また謝る。ほんとにもう、兄さんったら



「謝らないでよ、兄さん。悪い事した訳じゃないし、それにその…僕も望んでた事なんだから」

そう言うと、兄は驚いたように瞬きして、それから嬉しそうに笑った


「そうだな。…アル」

言葉と共に抱き締められる。髪を柔らかく梳かれて、額と頬と最後に唇に軽い口付け



「おはよう、アル」

「おはよう、兄さん」

少し遅れた朝の挨拶を交わしたあと、何だかふと可笑しくなって二人で笑った



















初めて二人で迎える朝

兄さんが用意してくれていたミルクティーを一緒に飲む



ずっと待っていてくれたんだよね。僕が怖がらないように

解っていて、それに甘えてしまってごめんね

だってやっぱり少し怖かったんだ



僕はアルフィーネだけどアルフォンスだから

女の子として兄さんを受け入れる事が、少しだけ怖かった



でももう大丈夫だよ

兄さんに愛されたこの体を、僕自身も受け入れられたから

兄さんがくれるものなら、痛みもそれを凌駕するほどの感覚も、全てが愛おしいんだ



僕はアルフォンスだけどアルフィーネで

弟だけど、妹だけど

これからは貴方の妻として






貴方だけを愛して生きていける





















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