兄の事情と上手の理由
ボクの兄さんはハッキリ言って変人だ。
錬金術バカな所はボクも人の事言えないけど、それ以外の事も変わってると思う。
前々からその傾向はあったのだけど、ここ最近は酷いんじゃないかな。
それは主にボク絡みの事でなんだけど。
ボクが誰かと親しげに話すのを嫌うし、近寄って来る人に威嚇して喧嘩を売りつけるし。
誰も彼もがボクを狙ってるんだ、なんて被害妄想も激すぎる。ボクを狙う物好きなんて兄さんくらいだ。
この頃は場所・時間構わずいきなり襲ってくる。もうその行為は変態と呼んでも言い過ぎじゃない。
だってこの間なんて洗濯物干してて庭で襲われた。その前は図書館で悪戯された。こういう人は一度公然猥褻で捕まえてほしい。
お前の仕草が可愛いからだ、なんて言ってるけど兄さんの事だからボクが黙ってじっとしてても一緒だと思う。
だけど困るのはそれを拒みきれないボク自身だ。
だって基本的に、兄さんと触れ合う事は大好きなんだ。あれ程願っていた事なんだから。
正直、鎧だった時は兄さんとこういう風になるとは想像もしてなかったけど。
考えていた形とは違ったとはいえ、それが嫌なわけはない。
それと拒みきれない理由のもうひとつ。
兄さんは上手だ。何がというのは詳しくは言えないけど、色んな事が上手すぎる。
「ふ…ぅ、も…にいさ…っ。」
お風呂に入って部屋に戻ると、当たり前の様に抱き締められた。
嬉しそうに抱き付いて頬を擦り寄せて、顔中にキスをしてくる兄。そこまでは可愛いかなと思えないでもなかったのだけど。
最初ちゅっ、と可愛いキスだったそれは、あっという間に熱く激しいものへと変わった。
兄さんは上手なんだ。色んな事が上手だけど、とくにキスがとても上手い。
体から力が抜けて、兄さんの体を押し返す事も出来なくなってしまう。
立っているのもやっとのボクを、兄が覗き込んできた。
「アルはキスが好きだよな。その顔、堪んない。」
心底嬉しそうに言われて、何て答えていいのやら。そりゃ嫌いか好きかと聞かれれば、好きと答えるしかないけど。
「そういう風にしたのは一体誰だと思ってるんだよ。」
多少不機嫌に言うと、兄の顔がもっとにやけた。
「はーい、アルフォンス君の体をそういう風に開発したのはオレです。っていうか他のやつには許さん。」
「開発とか言うな、この変態。」
本気で戯れ言を言ってる兄に溜息をつきたくなる。足下が危ういボクを支える腕さえ憎らしい。
「ほんっと、どこでこういう事覚えてきたんだか。」
ボソリと言うと、兄がはあ?と思いっきり変な声を出した。
「覚えてきたって何をだよ。」
「だから、こういう事。」
「こういう事って、どんな。」
きょとんと聞き返してくる兄さんの顔を思わず見た。まさかボクの口から言わせたくてとぼけてるんじゃと思ったから。
でもボクを見る兄さんの顔は、本気で分かってなくて。ボクは顔を顰めた。
「どんなって…、だからキスとかさ。そういうの、最初から慣れてたじゃない。だから経験豊富なのかなって。」
「…経験豊富って?意味わかんねぇ。」
いきなり兄の機嫌が急転直下した。思いっきり変な顔をした兄を見る。
「何か変だな。お前、誤解してないか?」
「え…、だって。兄さんボクの前にそういう関係だった人いるんじゃないの?」
アルフォンスの言葉にエドワードの不機嫌が頂点に達した。
「いるわけねーだろ!オレはアルとが初めてだっ!!」
「え、嘘っ!」
怒鳴る兄。握り拳はぶるぶると震えている。その言葉に嘘はないと気付いてアルは呆気にとられる。
「こんな嘘言うか!大体何でそんな風に思ったんだよ。お前、今までオレの事そんな風に見てたのか?」
兄の顔は引きつっていて、かなり凶暴な表情になっている。う、失敗したかも。
「だって、兄さん変に上手いし。」
「そりゃアルの良い所は全部覚えてるから。」
「違うよ、最初の頃から上手かったよ。だからボクはてっきり経験済みなのかなって思ってた。」
ロイさんとかハボックさんとか、一緒に飲みに行ったりしてたから、歓楽街とかに行く機会だって多かっただろうし。
そう言うと、兄さんは呆れたように顔になった。
「飲みに行く事はあったけど、あいつらが行くようなサービスする店には行ってないぞ。
それよりお前はどうなんだよ。なんでオレが上手だとか慣れてるって思うんだ。誰と比べてる。」
「比べるような相手がいないのは兄さんが一番知ってるじゃない。ボクずっと鎧だったんだし。
そうじゃなくて兄さんにキスされると力抜けちゃうから、これは兄さんが上手いんだろうなと…。」
そこまで言ってから、兄の顔がこれ以上ないくらいににやけてる事に気付いてハッとする。
「そうかそうか、アルはオレにキスされると力が抜けるんだな。キスもHもそんなに気持ち良かったのか。」
「ちっ、違う!気持ちいいなんて言ってない!!」
「言ったも同然だろー。よし、兄ちゃんこれからも頑張っちゃうからな!」
「頑張らなくていいー!もう、離してよ!」
言葉と共に思いっきり抱き締められてボクは慌てる。兄が調子にのるとろくな事にならないんだから。
兄の腕の中で暴れていると、ふと首筋に顔を埋められ息がかかる。その温かさにボクの動きが止まった。
「…最初の頃から結構必死だったんだけどな。アルに痛い思いとか、出来るだけさせたくなくて。」
どうしたら少しでも辛くないのか。痛みを感じさせなくてすむのか。気持ちよくなってもらえるのか。
「いつも余裕なんてないよ。こうしてるだけでも頭の中アルで一杯になって、何も考えられない。」
兄の言葉に、何故だか泣きそうな気分になって。目頭が熱くなるのを感じる。
そして兄が慣れていると感じていた理由も何となく分かった気がした。
凄く優しかったからなんだ。兄さんがいつも辛くないようにボクを気遣ってくれていたから。
だから丁寧に高ぶらされた体は、本当に辛い思いなんてしたことなくて。それをボクは勘違いしていた。
「兄さんごめんね、勘違いして疑って。」
しゅんとしたボクに、兄は苦笑してボクの髪にキスを落とす。
「いいよ。アルが辛い思いしてないって分かって嬉しいし、上手って思うならきっと相性だって良いって事だろ。」
だからさ、体の相性の良いオレと、気持ち良いことしよ?と兄が笑いながら言って。
仕方がないなぁと思いながら、ボクは兄さんにキスをした。
サイト2周年御礼企画その3。リクエストは蒼子さん
リク内容は
超ヘタレの変態で情けない兄さんがなんでキスが美味いのか悩むアルフォンスさん
でした
キリバン、そんなに狙って下さってたんですねー!
でも「無料で宝くじ当てた気分です」って、実際宝くじに当たった方が私なら嬉しい(笑)
蒼子さんからリクもらえるとは思ってなかったので、とても喜んでおりますv
もう少し兄さんを変態っぽく書きたかったんですが、結構真面目な話(?)になっちゃいました。
それとアルフォンス君、ほだされちゃってますが。所構わず襲われてる事忘れてます。
兄さん気をつかってるかもだけど、欲望は抑えていません!(笑)
少しでもお気に召して頂いて、過酷スケジュール中の蒼子さんの元気の素になれたら嬉しいです!
今回はリクエストありがとうございました。これからも同盟共々どうぞよろしく!!