貴方だけの僕








その日は良く晴れた気持ちの良い日だった






久々に全く用事の無い休日を、家でのんびり過ごしていたエドワード


庭に出て大きく伸びをしながら欠伸なんぞをしていると、後ろから声を掛けれられた

声を掛けたのは郵便屋。渡されたのは一束の郵便物

その中にまぎれていた1通の手紙。シンプルな、だけど上等な白い封筒

「アルフォンス・エルリック様」宛の事務的ではない男が書いた手紙



・・・・・ラブレター決定?



「俺の妹にこんなもの送るなんてイイ根性してるじゃねーかコイツ」

不機嫌というよりも怒りのオーラを発しながら、手紙を睨み付けるエドワード



・・・始末するなら今の内だな。アル買い物に行ってるし

千切ってゴミに捨ててもアルの目につくし、庭で燃やすのが一番か?灰も土に捨てられるしな


こんな時だけテキパキと家に戻ってマッチを捜す。煙草を吸ったりする人間のいない家では

普段マッチなど目に付く所には置いていない



あー、今だったら無能が家にいても許す。つーか出てこい

マッチを錬成しようかと考えていたら見つかったので、いそいそと庭に戻ると一番隅っこに座り込む

そして今まさに火を付けようとした所にー





「何してるのかな?」



背後から聞こえた声に慌てて振り向くと、そこには愛しの妹の姿。にっこりと、だが目は笑っていなかった

「アアアアアルフォンスさん、いつお帰りに?」

サーっと全身の血の気が引くのを感じる。ヤバイ、これはヤバイ

買い物は思ったより早く済んでしまった様だ。足元には果物の入ったバスケットもある



「今さっき。帰ってきたら兄さんがこそこそ庭に行くのが見えてさ。

 何してるのかな?と思ってたら、兄さんの手に白い封筒とマッチがあるし。

 ねえ兄さん。何しようとしてたの?もしかしてそれ、僕宛の手紙じゃない?」

鋭い指摘に脂汗とも冷や汗とも分からない汗が背中を伝った



「いや、そんな事ないぞ!これは俺宛の手紙でな!」

「何で手紙を庭で燃やす必要があるの。それ、見せてよ」

「アルは見る必要の無い手紙だって!」

「中身を見たいとは言ってないよ。宛名が見たいの。兄さん宛でもそれくらい良いだろ?」

そう言いながら、後ずさる兄に詰め寄るアルフォンス。兄さんはといえばもう泣きそうな表情



「見せてくれないなら、僕暫くリザさんとこに行く」

「な、何言ってるんだ!リザさんとこって言ってもあそこは無能の家でもあるんだぞ!?

あんな女たらしの家に行くなんて絶対駄目だ!いくら少佐がいても駄目っ!!」


「だったらさっさと見せろよ、ばか兄っ!!」



ついに笑顔を引っ込めて、一喝する妹のその迫力と脅し文句に負けた兄は、渋々と後ろに隠してた手紙を渡した

無言でそれを受け取り宛名を見た妹の表情がますます強張る



「兄さん。どう見てもこれ僕宛だよね?人に届いた手紙を勝手に燃やそうとするなんてどういうつもりさ?」

「いや、だってさー」

「だってさーって何だよ」



これは正直に話さないと妹の怒りは収まりそうにない。…正直に話してもっと怒りを買う恐れもあるが

取り合えず無能の家に行くのだけは阻止しないといけない



「・・・それ、どう見てもラブレターだろ?お前に誰かが想いを寄せてるってのが許せなかった。

だからお前に見せたくなかったんだよ」

苦い顔をしながら話す兄に呆れながら溜め息をつく。素直といえば素直なのかも知れない



「…僕は断るよ?そんな事分かってるでしょ?」

「それでも嫌だったんだよ」

どうせ俺は心が狭いしー。と拗ねた事を言う兄にもう一度溜め息



「あのね、兄さん」

じっとエドの顔を見ながら、真剣な表情で話し始めたアルフォンスに、そんな場合では無いのにドキッとしてしまうエドだったが、

それを表には出さずに「おう」と答えた


「僕はね、僕に好意を寄せてくれた人には、ちゃんと返事を僕自身でしたいんだ。それが断りの返事でも」

「何でだよ。断るならほっといたって良いじゃんか」

その台詞に少し困ったような顔を見せるアルフォンス



「兄さん、この手紙を自分が出したと思ってみてよ」

 もし僕が好きな人にラブレターを出して、でもそれを読んでも貰えずに燃やされたなんて事になったら悲しいよ。

 だから手紙でも直接でも、僕を好きだと言ってくれる人には、ちゃんと僕自身の言葉でお断りをしたいんだ。

 僕には兄さんがいるから。気持ちを受け入れる訳にはいかないから、せめて」

「アル・・・」

そんな風に考えた事は無かった。でも言われてみるとアルの気持ちは良く分かった

優しいアルなら相手の事を思いやって当然なのに。そんな事も考えずに俺は、馬鹿な嫉妬をしてアルを困らせて



「アル、ごめん。俺が馬鹿だったよ」

そう言いながら妹の身体を抱き締めた。華奢な身体は抵抗もせずに腕の中に収まる



「良いんだ、兄さん。…正直言うとね、嫉妬してくれたのはちょっと嬉しいから」

照れたように小声で言う台詞の可愛らしさにクラクラする。抱き締めた腕に少しだけ力を込めた



「いつだって嫉妬してるよ。お前を取り巻くもの全てに」

真顔でさらりとそんな台詞を口にするエドにアルは少し顔を赤くした



「…僕たちって本当に幸せなんだよ。好きな人に好きになって貰えて、こうしていつも一緒にいられる。

 好きになったのは兄さんだけだから、失恋の悲しみを経験した事もない」


だから、



「手紙、これからは捨てたり燃やしたりしないでね。それと出来れば兄さんも貰った手紙にはちゃんと返事をして」

知ってるんだよ、軍部宛にラブレターだかファンレターだかが届いてるのも、それを読みもしないで捨ててるのも

「何でアルがそんな事知ってるんだよ」

憮然とした顔で聞く兄に、何ででしょうねーととぼける妹

兄の頭の中では、余計な事を話やがったのはどいつだ、ハボック大尉か、まさか無能か?やつらぶっ殺す!

と物騒な思考が渦巻いていた

それを察したのか、兄さん、それは置いといて、と声を掛ける



「…ほんとはね、僕だって面白くないんだよ。兄さんにそんな手紙が来るの。でも気持ちは分かるから」

「…俺もちょっとだけ分かった。まあ、これからはちゃんと話すよ。俺には大切な人がいるからって」

そう言いながら腕の中の妹の髪に軽く口付けをすると、嬉しそうに微笑んだ

その表情が堪らなく愛しくて、湧き上がる感情のまま唇を奪う。深くなる口付けにしばらく二人で酔いしれた














幸せだから。今本当に幸せだから。誰とも比べようがないくらいに愛してるから
他の人に気持ちが揺らぐ事なんて一瞬たりともないくらいに貴方だけを愛してるから



だから心配なんてしなくて良いよ









僕は貴方だけの僕だから






















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