待っているよ、ボクがあなたの帰る場所になれるように。
あかりの灯る家
ソファでうたた寝していて、気付くと昼をとっくに過ぎた時間だった。
広いリビングにいるのはボク一人だけ。兄はセントラルに出掛けている。
軍を辞め、こうしてリゼンブールに戻り落ち着いた生活を送っているけど。
時々本や物資を調達に出掛ける兄に、一緒に連れて行ってもらえた事はない。
それも仕方のない話ではあったのだけれど。
何しろ取り戻したばかりのボクの身体は、弱り切っていて今は静養中だったから。
無理をするつもりも焦る気もない。そんな事をして、兄さんにこれ以上心配をかけたくなかった。
だけどこうして、一人残されるのはやはり少し寂しい。
そんなボクの気持ちを分かっているのか、いつも兄さんは用事をさっさと切り上げて帰ってくる。
今回もきのう早朝に出掛けて、今夜には戻ってくる予定という強行軍だ。
あんまり無理をしてないといいけど。早く帰ってきて欲しいというのもほんとの気持ち。
行って用事をすませて帰るだけ、ゆっくりする間などなさそうな無茶な日程。
あの兄の事だ。一人だし、食事だってろくに食べてないかもしれない。
それは今までからの経験上の予想だった。
だからアルフォンスは兄が帰ってくる時には、いつもよりも多めの食事を用意する。
帰宅した兄がすぐに食事を取れるように。お風呂に入って疲れを癒せるように。
準備万端整えて兄の帰りを待つのだ。
今日は何時頃になるかな、きっと最終の汽車だとは思うけど。
そもそも一泊でセントラルから帰ってくるというのが無茶なのだから。
そろそろ食事の準備に取りかかろうとしたアルフォンスの目に、白いものが映った。
「あ…、雪だ。」
寒いとは思っていたけど、とうとう降り出してしまった。
雲もどんよりと重かったし。降るかもしれないとは思っていたけど。
雪は嫌いじゃない。薄暗い中、風に舞うように降る雪は、まるで光が落ちてくるように見える時がある。
朝目覚めて、庭一面が銀世界になっていた時なんて、いくつになってもはしゃいでしまう。
だけど兄の身体のことを考えると、綺麗だからと喜んでもいられない。
「兄さんは今頃汽車の中か。帰ってくるまでに積もっちゃうかな。」
駅まで迎えに行きたいけど、何時の汽車で帰ってくるのか分からないし。
行ったら行ったで、絶対に怒られてしまうだろう。こんな寒いのに出歩くなって。
確かにこんな天候の中迎えに行ったら、風邪をひいてしまいそうな気がする。
そうなった場合、結局は兄に面倒をかけてしまうのだ。
傘は駅で貸してくれるし、一応分厚いコートを着ていってたし。このくらいならまだ大丈夫かなぁ。
アルフォンスは小さく溜息をついて、迎えに行く事を断念した。
ならせめて、身体が温まるような食事を用意しよう。
ジャガイモがあるからポトフがいいかな。それともきのこのシチューがいいかな。
兄さんはオニオングラタンスープも結構好きなんだけど。チェダーチーズをたっぷり乗せて。
食べることの出来る幸せ。それを兄と共に感じられる。
日々の生活が、当たり前の事が。ただこんなにも愛おしい。
穏やかに暮らす日々の尊さを、兄さんと一緒にいられる喜びを。今のこの暮らしを大切にしたい。
未だ機械鎧のままのあの人の手足。きっと寒さが堪えるはずのそれを温められるように。家を、部屋を暖めて。
疲れた身体を休められるように。今のボクに出来ることを精一杯やるだけだ。
だからボクは兄さんが安心して帰ってこれるように。家中に灯りを灯して出迎えよう。
ここで待っているよ。
兄さんがどこへ行っても、きっとここへ帰って来てくれるって知ってるから。
ボクが貴方の帰る場所になれるように。ずっと待っているから。
準備が調い、一息ついた頃。
窓の向こうに見間違うはずのない人影が、ちらつく雪の向こうに見えて。アルフォンスは玄関へと向かった。
寒さに凍えながら急いで帰って来たはずのその人を、笑顔で迎える為に。
111110のニアピンリクエスト。ご申告はワカさん。
リクエストは
「雪」を使った作品か、「桜」を使った作品。
アルがエドの帰りを1人待つ話、細かな設定や話はお任せで。
とのことでした。
「雪」も「桜」も以前リクエストで書いてましたが、
アルがエドの帰りを一人待つ、となると雪しか思い浮かばず。
こんな風なお話になりました。
え〜と・・・、新婚サンいらっしゃい?(笑)
ちょっと短めですが、ワカさんに捧げます。
いつも色々とありがとうございます!どうぞお受け取り下さいー♪