爽やかな風が居間を吹き抜けていく
あまりの心地よさに、スッと眠りに誘われてソファで微睡む
その眠りを覚ましたのは、当たり前のように兄だった
相変わらずな二人
髪を梳く手
頬や額や唇に温かい馴染んだ感触
軽く触れるだけのキスを繰り返していたその人は
僕がうっすらと目覚めてきたのを感じ取って、一気に口付けを深くした
少しだけ開いていた唇から舌を差し入れ、弄ぶような煽るようなキスをする
悔しいけど、兄さんはキスが上手い。それ以上の余計な事も上手いけど
一体何処で覚えてきたんだかな。人が鎧の体でそういった欲求も無かった内に
今度その辺の事を聞いてみようかな。どんな反応をするだろう
まともな思考を保てたのはそこまでで、どんどん深くなる口付けに頭の芯が痺れていく
兄がやっと顔を離した頃には、僕の顔は上気し呼吸も荒くなっていた
「…人が折角気持ちよく眠っていたのに、どうして起こすかな」
少しだけ恨みがましく言うと、兄はちょっと笑って答えた
「だけどな、眠っているお姫様を見かけたら、キスして起こすだろ男としては」
「なにそれ、誰がお姫様だよ。しかも兄さんが王子様?」
「もちろんアルがお姫様で俺が王子様」
にっこりと笑って当然といったふうに答える兄。ああどうしよう、この人マジだよ
まあ、黙ってれば兄さんも王子様で通るけどね。黙ってれば。だけど大体
「眠ってる白雪姫を起こすのに、ディープキスする王子ってどんなのだよ。
普通そういう時ってフレンチキスだろ。通りすがりの初対面でディープキスは変態だよ、犯罪だ」
兄が変態なのは知っていたし、今に始まった事じゃないんだが
「アルは初対面じゃないし。それにちゃんとアルの目が覚めてからだぞ、切り替えたのは」
それまではちゅって可愛いキスだっただろーと、ニコニコしながら言う兄に全身の力が抜ける
100歩譲ってそれは良い。それは良いとしても
「だからどーしてすぐこっちにいくんだよ!」
寝そべったままの僕の腰の辺りを這い回る兄の手を、ペシペシ払いながら文句を言う
「あんな可愛い顔して無防備に寝てるアルが悪い。兄ちゃんのせいじゃないぞ」
「何責任転嫁してるんだよ!自分の家なんだから、無防備に寝るのは当然だろ!
大体いっつもそっちのスイッチ入り易すぎなんだよ、兄さんは。どうしてそうなの」
「そこにアルがいるから」
「何どっかの登山家みたいな事言ってるんだよ!」
言い争う間も、諦めるって事を知らない兄の手が、意志を持って僕の体を這い回る
困るのはその手の感触に、微塵も嫌な感情が湧かない事だ
基本的に、触れるのも触れられるのも好きなのだ自分は。相手は兄に限定されるが
気持ち良い事だって好きだ。セックスも
愛されてる事、愛してる事が再確認出来る。その温もりに心底安堵出来る大切な時間
兄と自分の体の輪郭が無くなって、そのまま相手に溶け込んでいくような幸せな錯覚
そんな風に感じられる行為は他には無い
だけど、だけど。だからと言ってあんまりだらしないのも考え物だ
今は真っ昼間で、ここは居間のソファで
考えてる間にも、兄の手はどんどんと僕の弱い所を攻めてくる
ああ、駄目だ。これは止まりそうにない
だから本当にせめてもの譲歩として、ベッドに行く事を提案した
たまには違うシュチュも燃えるんだけどなー、なんてほざく兄の頭をペシリと叩く
それでも僕の気持ちを察してくれたんだろう、兄は僕を軽々と抱え上げて寝室へと向かった
結局、僕はこの兄にとても弱いのだ
兄も大概僕に甘いと思うけど、それよりも僕の方が甘くて弱い
だってきっと僕の方が、兄さんに惚れてると思うから
兄さんには内緒だけどね