触れる、という行為が。本当は少しだけ恐い。





柔らかな温もり










「お前ってさ、なんでオレに触る時恐る恐るなんだ?」

ソファに座って本を読んでいたボクの膝にどっかりと座って、唐突に姉が問いかけてきた。

その男らしい座り方に軽い眩暈を覚える。

「姉さん、いくらズボンだからって、そんなに足を広げないで。」

広げるというか大股開きというか。もうちょっと淑やかに…ってのはもうすでに期待も希望もしてないけど。

でもいくらなんでもこの座り方はないと思う。辛うじてボクの首にまわした腕なんかは、可愛らしいと言えなくもないかな。

「別にいーだろー。アルじゃなきゃ、こんなことしないしー。」

それよりかオレの質問に答えろよと、下から覗き込んで首を傾げる仕草にちょっとグッときた。

狙ってやってるわけではないのに、いやだからこそ。好きな人のこんな仕草というのは男心をくすぐるもので。

生まれた時から一緒にいる姉の言動に、ボクは常に振り回されっぱなしだ。


「恐る恐る、ってそんな風に見える?」

「見える見える。あんまり自分から積極的に触ってこないしさ。」

オレってそんなに魅力ない?と上目遣いに見られてちょっと所かかなりグッときた。

「魅力がなかったら、ボクが姉さんに手を出すはずがないだろ。実の姉弟なのに。」

色んな障害を乗り越えて、禁忌だと知っていて。それでも手を伸ばさずにはいられなかった人。

他の誰より、ボクの目には魅力的に映る。だからこそ触れたいといつも思っているのだけど。


「正直言うと、ちょっと恐いんだ。」

ボクの言葉に姉さんはキョトンとしてしまった。

「恐いって何だよ。アルがいきなり触ってきたからって、オレ怒ったりしねーぞ。」

むしろ大歓迎、とささやかな胸を張って主張する、そんな屈託のなさもとても可愛い。

恋は盲目って、昔の人は上手いこと言うよなぁと考えながら、姉の言葉にちょっと笑って答えた。

「姉さんが恐いってわけじゃないよ。触れること自体が、恐いと思う時があるんだ。」

生身の手。当たり前の人間の掌。触れた感触も温度も伝わるその手をじっと見るアルフォンス。

「身体を取り戻してから初めて姉さんに触れて。思ったんだよ。こんなに柔らかかったのかって。」



かつてボクが鎧の体だった頃。ボクは触れるという行為にとても注意を払っていた。

物はいい。壊してしまっていいものなんてないけど、それでもボクらは錬金術師だ。すぐに直す事ができる。

だけど生き物や人、まして大切な姉さん相手なら。どうしたって慎重にならざるをえない。

この指に必要以上の力は入っていないだろうか。この手に触れられて痛くはないだろうか。

いつだって恐かった。ボクのこの手があなたを傷つけてしまわないか。

全てを取り戻してやっと姉さんに触れた時には、その柔らかさに愕然とした。

最後に触れた姉さんの感触は、自分の体とそう変わらなかった。

ボクらはまだ子供で、その体つきにたいした差はなく、自分とは違う体温も匂いも抱き締めれば安心出来て大好きだったけど。

それでも「男女の違い」なんて、知識としては必要以上に知っていたけど自覚してはいなかったから。

だけど5年振りに触れた姉は、多少遅れ気味とはいえ女性らしい成長もみせていて。

この人に、この柔らかな体に、あの無骨で固い鞣し革の手が触れていた。その事に呆然としたのだ、ボクは。

だから未だに恐くなる。油断すると、加減を忘れてしまうんじゃないかと。



「力加減とか、もうそんなに気にしなくていいって分かってるんだ。人の体じゃ、あの頃ほどの力はでない。」

それでもふと心配になってしまう。長い間の習慣だった事は、生身の体に戻れてもすぐには抜けない。

「アルは優しい上に心配性だからな。気にすんなって言ってもきっと無理だろうし。」

う〜んと、と少し眉を寄せて口元に手を当て考え込んでいた姉は、だが次の瞬間ニカっと笑った。


「だったらオレからアルに触れば良いんだ。お前が躊躇う分、オレがお前に触れてやる。」

今はまだ躊躇いが先にたっても、いつか本当の意味で全てを取り戻せる日まで。

あの鎧の体だった日々の感覚の方が遠くなるその日まで。

「いっぱい触ってやるからな。だから慣れたらお前からオレにたくさん触れよ!」

あまりに潔く、男前な台詞にアルフォンスとしては苦笑するしかない。


「触ってやるって、女の子の言う台詞じゃないよ。」

「何だよ、オレが触るのは嫌か。」

「とんでもない。」

姉の言葉にアルフォンスは心からの笑みを見せた。好きな人に触れてもらえる事。それを喜ばないはずがない。


「いっぱい触ってよ。きっとすぐ、ちゃんと自然に姉さんに触れられるようになる。だからそれまでは。」

アルフォンスの言葉に、エドワードはその体にゆっくりと抱き付いた。

すると壊れ物を扱うように触れてくる手の感触を背に感じる。


本当は壊れたって構わないんだけど、と思う心は優しい弟には言えないなと思いながら。

逞しく成長した弟の背を、エドワードはギュッと抱き締めた。






















112233キリバンリクエスト。ご申告はイチゴさん。

リク内容は
姉弟で奥手なアルで誘い受けな姉さん
甘々な感じでお願いします♪
とのことでした。

壊してしまわないか恐い、というだけで全然奥手じゃない…。
ちゃんとやることやってるし(笑)
しかも姉さん誘い受けというよりバリバリ攻めてます(爆)
でもまあ甘々にはなったかな?

イチゴさん、嬉しいお言葉もありがとうございました!
気に入って頂けるといいのですが…。
これからもどうぞよろしくお願いしますv

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