トクトク、トクトク。耳に響く優しい音色。
いつだってこうして直に感じていたいなんて。ー我が侭かな?
幸せを教える音
「ーアルフォンス?」
兄の不思議そうな声が聞こえる。その後苦笑したような気配。
「どうしたんだよ、急に。」
言いながらポンと軽く頭をくしゃりと撫でられた。
兄が不思議がるのも無理はない。今ボクはソファに横たわっていた兄の胸の辺りに頭を乗せている。
急にだって。急にじゃないよ。本当はずっとこんな風にしていたかった。
「重い?」
「重くはないけど。」
兄は戸惑った表情を浮かべている。
そんなにボクが甘えるのが珍しいかな。普段から結構甘えてた気がするんだけど。
でもこういう風に自分から触れたり、そんな甘え方は少なかったかもしれない。
「こうしてくっついてるとね、凄く安心出来るんだ。」
心地よくて、気持ちが安らいでゆく。ボクはそっと目を閉じた。
「兄さんの心臓の音が聞こえる。」
トクトク、トクトク。規則正しく脈打つ心音。
貴方が生きている証。この耳に直に伝わる鼓動。
「昔もね、兄さんが鎧のボクを抱き締めてくれた時も、心臓の音は聞こえたけど。
やっぱり違うなって、体を取り戻してから凄く思うようになった。」
あの頃のボクは見る事、聞く事、話す事は出来たけどそれ以外の感覚はなかった。
だけど今は違う。例えこの瞬間に耳が聞こえなくなったとしても。
その鼓動は鼓膜を震わせ、体中に響いてゆく。
「他の何より、こうして兄さんの鼓動を聞いてると気持ちが安らぐよ。」
随分長い間失っていたもの。人の温もり、抱き締められる心地よさ。
そんなものにボクは弱い。力が抜けて何も考えられなくなってしまう。
だけどこうして、幸せだな、と思えるのはただ一人。
ずっと触れていたいと思うのは、たった一人だけ。
「アル。」
名を呼ばれて顔を上げると、兄さんが起き上がった。ボクは抱えられて横向きに兄さんの膝の上に降ろされる。
髪に軽くキスをされて、ぎゅっと抱き締められたと思ったら、兄さんが柔らかなソファに埋もれるように横たわった。
当然ボクも兄さんに抱き締められたまま、殆ど横たわるような状態だ。
すると兄さんがボクの頭の上から嬉しそうに声をかけてきた。
「これならもっとくっつけるだろ?」
くっつく、というかこれは密着というか。
抱き締められて横になって。ボクの頭は兄さんの胸の辺り。
さっきは耳や頬など顔の一部だけが兄さんに触れていたけど、今は体全体が触れている。
ボクの腰の辺りには兄さんの腕があって、軽く組まれていた。
「くっつけるけど、これじゃ重いでしょ。兄さんが疲れちゃう。」
「重くねーって。お前細すぎるんだよ。もうちょっと太れ。」
「女の子に太れなんて言ったら、普通は嫌われるよ。」
「普通はって言われても、他の女になんて興味ないし。アルはそんな事でオレを嫌ったりしないだろ。」
自信満々に言われて何だかちょっと面白くない。…悔しい事にその通りなのがもっと面白くないけど。
「結構これでも太ったと思うよ、前からすると。」
だって最近体重が少し増えてたし。そんなに頻繁には測ってないけどさ。
「違うんだよ。お前の場合体重が増えてもそれ全部胸にいってるんだ。他の所にも肉がつけばいいのに。」
胸がデカくなるのもいいけど、腰とか細いと折れそうで無茶しにくいんだよな〜と続ける兄。
…無茶ってなに。いったい何をするつもりなんだこの人。
「そんなとこばっかチェックして。兄さん最低。この変態すけべ。」
「そりゃ誤解だ。チェックなんてしなくても、揉んでりゃわか…痛えっ!!」
言いながらボクの腰をさすっていた兄の手を思いっきり捻った。本当は殴っても良いくらいだ。
やたらと頑丈だからこれくらいじゃ全然堪えないし。
せっかく穏やかな時間を過ごしてるってのに、なんてムードのない人なんだ。知ってはいたけどさ。
ムードなんか気にしないし、気のきいた褒め言葉ひとつ言えない人だけど。
誰よりも優しくて本当は凄く格好いい人だって、ボクは知っている。
生まれた時からの付き合いだからね。
だから時々ちょっと悔しくもなるけど、嫌いになんてなれないんだ。
兄さん以外、ボクは愛せないんだろう。
「妹馬鹿ですけべでどうしようもないまんまでもいいよ、諦めてるし。」
だからそのままの兄さんでいてね、とボクが兄さんの胸に頬を擦りつけながら言うと。
兄さんが、それって愛されてるって事なんだよな?と情けない顔で聞いてくるから。
ボクはにっこり笑って体を伸ばして、兄さんの頬にキスをした。
99999打キリバンリクエスト。ご申告は和志さん。
リクエストは
エドアル(兄妹)でアルがエドにべたべたに甘える話
でした。
アル、甘えてるかな…?
色々と嬉しいお言葉、ありがとうございました!
自分でも呆れる程に熱が冷めないのでこれからも兄弟で頑張ります!
今後もよろしくお願いしますv