その光景を見たのは偶然だった。



普段執務室にいる事が多い俺と、軍の医師として医務室にいるアルフォンス。
昼食を待ち合わせたり何らかの用事がないと、たとえ同じ司令部にいても会う事はあまりない。
ただ今日はとても美味しいクッキーをもらったから、アルフォンスにも食べさせようと思って。
仕事の合間に医務室へと向かった。それだけだったのだが。

目に飛び込んできた光景が気にくわない。
なんという事もないはずの、深い意味などないはずの事なのは分かっているのに。


むか。
何だか気分が悪くなってきた。

何で俺はこんな所に来てるんだっけ。
そんな事を考えてふと手元を見る。まだ開けてない可愛く包装されたクッキーの包み。


むか。むかむか。
エドワードは口を尖らせた。

ついさっきまでアルフォンスとこれを食べようとウキウキしてたのに。
もうそんな気分は吹っ飛んでしまった。


少しだけ離れた場所にいる弟に声をかける事もなく。
エドワードは身を翻すと、自分の執務室へと帰っていった。







ボクの目に映るのは
















「…どうして家にいるんだよ。」
帰るなり眉を顰めるアルフォンス。その理由は分かっていたが、敢えて気付かない振りをする。


「自分の家にいちゃ悪いかよ。」
「悪いに決まってるだろ。今日はお互い定時に帰れそうだから、一緒に帰ろうって言ったのは姉さんだよ。」
朝出掛けに言われた通りに仕事を終えて姉の執務室へと迎えに行ってみれば、姉は帰った後だという。
だから何か急用でも入ったのかと思っていたのだ。伝言もなしとはおかしいなと思いながら。
それなのに帰ってみれば姉は平然とソファに座っている。これではアルフォンスが不機嫌になるのも仕方ない。


「姉さんが約束を忘れるなんて事はないよね。何で先に帰っちゃったのさ。」
「別に、何となく。」
姉のぶっきらぼうな言葉にアルフォンスの眉がピクリと動く。


「そう。じゃあボクは「別に、何となく」約束すっぽかされて置いて行かれたわけだ。」
アルフォンスの声が益々不機嫌になっていくのを感じて、エドワードは気まずい気分になった。
悪いのはアルフォンスじゃない。勝手に機嫌を悪くして勝手に約束を破ったのは俺だ。
謝まらなくちゃいけないのは分かっているのに躊躇ってしまう。
だって理由なんて話したくない。


むか。
理由、と考えた所で昼に見た光景が甦ってきた。


むかむかむか。
馬鹿げた感情だって自分でも分かってる。だけど分かっていたって割り切る事は出来ない。
悔しくて悔しくて、アルフォンスを信じてるのに。愛している気持ちは誰にだって負けない自信があるのに。
こんな気持ちになってしまう自分が情けなくなって。


「…何て顔してるの。」
文句を言っても押し黙ったままの姉を不審に思って見てみれば。今にも泣き出しそうな顔で、唇を噛み締めて俯いている。
こんな姉を見てしまっては、怒る気力も半減だ。つくづくボクは姉に弱い。



アルフォンスがそっと頬に触れると、その手の感触にエドワードは顔を上げた。
怒っていたはずなのに心配そうに自分を見詰めてくる優しい目に、なんだか胸が熱くなって堪らない気持ちになる。
だからその首筋にぎゅっと抱き付いて、自分の方へと引き寄せソファに座らせた。


「ね・姉さん?」
ちょっと慌てた様子のアルフォンスが可愛くって、そのまま思いっきりキスをした。
驚きの声を出しかけた口を自分のそれで塞ぐ。何度か啄むように口付けた後、少し開いていた唇から舌を差し入れる。
最初戸惑っていたアルフォンスも、暫くするとエドワードを追い掛け答えていく。
お互いの口内を出入りしながら熱く絡み合った頃には、二人の目は潤みとろけはじめていた。



「…ご飯、作らなくちゃ。」
「いい、それよりもっと。」
「だけどお腹空いたでしょ?夕飯遅くなっちゃうよ。」
「いいってば、飯よりアルに餓えてるんだ。」
エドワードの言葉にアルフォンスの頬が赤く染まる。普段姉は恥ずかしがってこんな事言わないのに。


「お前を食わせろよ。」
直接的な誘いに軽く眩暈を覚える。どうしたっていうんだろう。
疑問はぐるぐると頭の中をまわっているけど、それはまあひとまず置いておこう。
愛しい人が自分を欲しいと言ってくれているのだ。それを断るなんてそんな勿体ない事するわけがない。
アルフォンスは返事の代わりに自分からキスをした。





お互いの唇を貪り合いながら服を脱がしていく。
露わになっていく白い首筋、ささやかだが形の良い胸元にアルフォンスは顔を寄せた。
滑らかな肌は触っているだけでも心地よい。頬を擦り寄せても手で触っても。
やがてエドワードは下着だけの姿になる。
紺地に白のレースでフリルのついた上下揃いの下着は、肌の白いエドワードに良く映えてとても綺麗だ。
その間エドワードも手を休めずアルフォンスの服を脱がしていた。



最初、取り戻した当初は痩せ細って痛々しいほどだったアルフォンスの体。
それからアルフォンスはろくに食べ物を受け付けなかった胃を少しずつ慣らしながら。
見ている者が感心・感動する勢いで自分の体を鍛え直していった。
それは端で見ているよりも、もっと大変な事だったに違いない。
それなのに一度も弱音を吐かず、こんな目に合わせた俺にいつも嬉しそうに笑ってくれたアルフォンス。
今はもうこんなに逞しくなった。程良く筋肉がついて引き締まった体。
今のアルフォンスを見て、数年前までガリガリだったなんて想像出来る人はいないだろう。
それを思うと、アルフォンスの体の隅々が愛おしくて仕方なくなる。
もっともっと触れたくて、エドワードはその逞しい胸に頬を寄せると、鎖骨に吸い付いた。
ちょっときつめに吸い上げると、簡単に赤い徴が残る。それを満足そうに見詰めて指で触れる。
そのまま胸元に指を這わしていくと、アルフォンスの体が微かに反応した。



触れた指先から温もりが伝わる。温かく息をする、アルフォンスの体。
もう何度もこうして抱き合ってきて、お互いの体の隅々まで知っているのに。
アルフォンスが俺の体を俺よりも知っているように、俺はアルフォンスの体を誰よりも知っている。
それでも触れるたびに、胸が熱くなるのはどうしてなんだろう。
愛という言葉だけじゃ小さすぎて、アルフォンスを表現するには全然足りない。


愛しくて涙が出そうなんて。こんな感情はなんて呼べばいい?
触れていたい、触れて欲しい。それを望むのはアルフォンスただ一人だ。



指でなぞった箇所を、今度は唇で、舌で辿る。
胸の飾りを口に含むと、微かに聞こえてきたくもぐった声。
いつも耳に優しい心地よいアルフォンスの、こんな艶っぽい声を聞いた事のあるのは俺一人だろう。
結構腰にくるよな、こいつのこういう声って。
ゾクゾクしながらそんな事を考えていたら、アルフォンスの手がすっと下に伸びてきた。


「ん…っ。」
「…もう濡れてるね。ボクに触ってただけなのに、感じちゃった?」
少し意地悪そうに、でも嬉しそうに言う弟を軽く睨んでやる。だけど言われた事は図星だ。


「言っただろ、お前に餓えてるんだって。」
まだまだ余裕を見せるアルフォンスにニヤリと笑ってみせて。
エドワードは反応して半ば勃ち上がっていたアルフォンス自身に手をそえた。


「お前だってこんなんなってるじゃねーか。」
「そりゃあね。健全たる青少年ですから。」
直に触れられてるというのに平気な顔。それが面白くなくて強めに握り込むと、アルフォンスが顔を顰める。
ポーカーフェイスが少し崩れたのを見て、エドワードは嬉しそうに手を動かし始めた。


「んっ、姉さ…んっ。」
伝い落ちてきた滴と共に濡れた感触に変わっていくそれを、少し強めに上下に梳いていく。
だんだんと力強く反り返ったものに、エドワードは唇を寄せた。


「あ・・・っ!!」
唐突に熱い口内に含まれ、アルフォンスの表情が変わる。
それをエドワードは上目遣いで見ていた。
頬が染まり、眉を寄せて。耐えるような顔をしているアルフォンス。
それは苦しげにも見えるけどそうじゃない。
アルフォンスの感じている快感を伝えるかのように、エドワードの口の中の物は硬さを増していっていた。
その表情に、何かが煽られていく。下腹部に熱が溜まっていく。
ドロドロと渦巻くように自分の中に感じる熱。それをどうにかしてしまいたい。
それを出来るのはアルフォンスだけだ。


だけどこうして自分の口内で感じてくれるアルフォンスを、もっと愛したい。
そう思っていた時、アルフォンスの手がエドワードの頭に触れた。


「…姉さん、もう良いから。」
「ひゃっておはえ。」
「…っ!!そこで喋らないで!!」
ちょっと切羽詰まった様子のアルフォンスを見て、取りあえず一旦口を離した。
熱い吐息を吐き出す弟を、不満そうに見ていたら手招きされて。
座ったままのアルフォンスに覆い被さるように身を寄せると、そのまま導かれてキスをする。
何度も何度も角度を変えて、お互いの舌を貪るように噛み付くように口付けを繰り返した。
やっと満足して唇を離すと、アルフォンスがエドワードの鼻先で微笑む。


「口でしてくれるのも嬉しいんだけど、ボクも姉さんに餓えてるから。」
姉さんのなかでいきたい。と囁かれて、ズクリと痛みにも似た感覚が体を貫く。
その瞬間、何も考えられなくなった。


操られるようにふらりと動くと、アルフォンスの肩に手を置いて。
腰を支えられながら、片手で掴んだアルフォンス自身に自分の体を埋めていった。


「あ、あ、んんっ。アルぅ…!」
少しずつ熱い楔を飲み込んでいく、その焦れったさが堪らなく気持ちよくて堪らなく狂おしい。
愛しい弟の熱を直に感じられる快感。もっと深くで感じたいのに。
その瞬間、アルフォンスの手がエドワードの腰を一気に引き落とした。


「あああーーーーっ!!」
そのあまりの衝撃に、エドワードの口から甲高い声が溢れた。
アルフォンスはそのまま容赦なく動きを開始する。


「あぁ!ひあ、あんっ。」
「ふっ、姉さん…っ!」
くちゅくちゅと部屋に響く水音。熱と艶を帯びた二人の声。
それらに互いに煽られながら、次第に激しくなっていく律動。
自分を包み込むエドワードの中は、溶けそうな程に熱くて絡み付いてくる。
気を抜くとすぐに達してしまいそうな快感に、アルフォンスはくっと喉の奥を鳴らした。
まだだ。まだ果てるわけにはいかない。
今日の姉は様子が変だった。約束を破った上に不機嫌だったり、かと思えば捨てられた子猫みたいな表情になったり。
それはそれで、姉に惚れている身としては色々とこう、くるものもあったりするわけだが。
姉がそんな不安な表情をするなんて。理由を聞き出さなくては。
アルフォンスはゆっくりと動きを止めた。その途端エドワードの体が傾いでアルフォンスの肩にもたれ掛かる。


「ねぇ、今日本当は何かあったの?」
アルフォンスの問いに、荒い息をつきながら涙目で見上げるエドワード。快楽に浮かされた脳には弟の言葉が入っていかない。

「は…ぁ。別に、ん、何もなかった…。」
辿々しく言う姉の言葉に、当然納得は出来ない。

「別にって事ないでしょ。理由もなしにボクとの約束を破るなんて。言ってくれなきゃ、ずっとこのままだよ…?」
「あ、んんんーーっ!!」
緩く円を描くように動かれて、でもそこで動きが止まる。そのもどかしさに泣きそうになった。
きっとアルフォンスは本当の事を言わなければ、本気でこのまま止めてしまうに違いない。
その予感に、エドワードの疼きが大きくなった。首を小さく振って弟に請う。

「や…っ!アルフォンス、やだぁ。」
泣き出しそうな姉に、動いてめちゃくちゃにしたい衝動が湧き上がったが辛うじて堪える。

「だったら教えて。今日、何があったの?」
自分を真っ直ぐ見詰めるアルフォンスの眼差し。その綺麗で真摯な表情に切なさがつのる。
それと同時に自分の中で荒れ狂う嵐は、抑えられない程に渦巻いて弟を求めていた。


「…昼に、アルのとこに行ったら。知らない女と喋ってるの見て…。」
「知らない女…?どんな女性、って。」
エドワードの言う事に思い当たって、アルフォンスは言葉を止めた。
それに気付かず、エドワードは熱い溜息を漏らしながら必死に答えようとしている。


「髪の綺麗な、何か可愛い感じのさ。アルと話して嬉しそうにしてた。」
やっとの感じ言い終えて、エドワードがひとつ大きく息を吐き出した。
それを見ながらアルフォンスは湧き上がってくる感情に胸を熱くする。
もしかして、姉は。


「…やきもち、焼いたの?」
「…っ!!分かってるんだよ、馬鹿な事だって!でも…っ!」
いつだって自信がなかった。アルフォンスの傍に居続ける事、それは本当はいけない事だって分かっているから。
アルがあの子と話していたのは仕事の用事だろう。そんな事で一々不機嫌になるなんて。
それでもアルフォンスの横に誰かが並ぶ姿を見てしまうと、本当はそれが正しい姿なんじゃないかと思ってしまう。
だって自分はアルフォンスと血の繋がった、実の姉弟なんだから。


泣きそうになって歯を食いしばる。そんな姉の様子を見て、アルフォンスは苦笑した。
まったくこの人ったら。自分だけで余計な事まで背負い込もうとするくせは、簡単には直らないようだ。
こっちはとっくに他の全てを必要ないと、いつでも切り捨てる覚悟だって出来ているのに。



「人から見てどんなに可愛くても、ボクがそう思わなきゃどうでもいい事じゃない?」
その言葉に、エドワードが弟を見た。アルフォンスがにっこりと微笑みかける。

「可愛いとか綺麗とか。そういうの全て姉さんにしか思えないし。
 ボクが女性として求めるのは、姉さんだけだ。欲しいと思うのも。」
「アル…。」
アルフォンスが柔らかく笑っている。幸せそうに、嬉しそうに。
そんな表情で、エドワードだけが欲しいのだと言ってくれた。
それがどうしようもなく嬉しくて、力の入らない腕をなんとか動かしてアルフォンスにしがみつく。


「アル、大好きだ。」
「ボクもだよ、姉さん。ずっと姉さんだけを愛してるから…!」
「ひ、あーーーーっ!!」
急に動き出したアルフォンスの激しさに、エドワードの口から悲鳴が漏れる。
待ち焦がれたその熱い楔を放すまいと、無意識の内にアルフォンスを締め付ける。
そのきつさに何度も達しそうになりながら、アルフォンスはエドワードの中を抉るように腰を打ち付けた。


「はあ、アルっ!あん、あっあああっ…!」
「くっ、姉さん…!いいよ、そのまま…。」
「んんんぅ…っ!あっ、あ、もぉ。も、だめ、アル、イ…くぅ…っ!!」
「・・・・っ!!」
達した瞬間細かく震える中に締め上げられて、アルフォンスはエドワードに熱く迸るものを注ぎ込む。
最奥で弟の全てを受け止めて、エドワードはその強すぎる快楽の波にのみこまれて頽れた。
力を失いもたれ掛かってきた姉の体を腕に抱き留めて。アルフォンスは汗ばむ金色の髪に口付ける。


「…ボクはいつも貴女のまわりにいる人達に嫉妬してるのに。知らなかった…?」


愛しそうに問いかける声に、答える人は深い眠りの中にいる。
未だ熱を放つエドワードを抱き締めて、アルフォンスはその唇に口付けをした。

























初めてちゃんとチャレンジしちゃいました、姉さんで18禁。
ちょっとした事でIちゃん制作の兄弟本をたくさん頂いてしまいまして。
その兄弟・弟兄・兄妹・姉弟・姉妹(+α)という見事な取りそろえに大喜び!
これは何かお礼をせねば…!という事で受けたリクエストが

「弟が好きすぎで襲い受なアルエド(姉)の裏小説」
「昼間に同僚の若い女性と楽しそうに話してるアルたんを見て、夜家に帰ったら
自分から強引に誘ってくる姉さんがいいです(*´∀`*)」

でした。うふんあはんな感じで。いかがでしょうか。リク通りになってますか。激しさが足りないですか。
微妙に弟さんが黒いような気もしますが、気のせいではないと思われます。

Iちゃん、たったあれだけのチェックしただけなのに、あんな素敵本をたくさんありがとう!
これからもアル一筋の兄さん描いて下さいね〜♪



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