恋人未満の正良で良守と閃の話




大切にしてるもの



「なー、影宮。夜行ってどんなとこなんだ?」

屋上で昼寝していたら、横で寝ていた良守に話しかけられた。
まだ寝てなかったのかと顔を向けてみると、良守はこちらは見ずに空を見上げている。

「どんなとこって聞かれても、別に異能者が集まって暮らしてるってだけだけど。」
「それは知ってるけどさ。前うちに来たじゃん。あれで全部?」
「いや。あの時は殆ど集まってたけど全部じゃねーよ。一部のやつは他の仕事にも行ってたし、その後入ってきたのもいるし。」
「え、あんなにいっぱいいるのに、まだ入ってくんの?」
「そりゃ頭領が受け入れればいくらでも。」
「…ふ〜ん。」

呟きのような返事に違和感を感じ、閃は目を瞬かせた。心なしか何だか声の調子がワントーン低かったような。

「そういや夜行って子供多いよな。」

これまた唐突に聞かれ反応が一瞬遅れる。その時にはもう良守の様子は普通に見えた。

「え?ーああ、まあ裏会の実行部隊の中じゃ多い方だろうな。」
「他は違うのか?」
「そりゃ違うだろ。前線で戦うのが前提の実行部隊なんだぞ。異能があるとはいえ、まだまともに戦えない子供を喜んで受け入れると思うか?」
「あ…。」

閃の言葉に良守は返事に詰まった。言われてみれば確かにその通りだ。

「だ、だったら小さい子供専用の場所とかは・・・。」
「そんなご親切なものあるわけないだろ。ある程度の年なら訓練所はあるけどな。そこにも入れないような小さな子供はどこでも厄介者なんだよ。」

実際、閃も裏会に入った当初はまだほんの子供だった。夜行に入らなければ他でどんな扱いを受けていたかわかったもんじゃない。

「子供だけじゃないけどな。うちは結構裏会でもはみだし者が多いんだよ。そんな連中ばっか拾ってくれたわけだからさ、結構みんな頭領には感謝してるんだ。」
「…そうだったのか。」

それを聞いて良守は以前から感じていた事に納得がいった。夜行のメンバーの兄への態度は心酔ともいえるものだったが、それは兄のカリスマ性からくるものばかりではなかったようだ。
小さく溜息をついた良守を見て、今度は閃が問いかける。

「ってか、何で今さらそんな事気にしてるんだよ。」

今までこんな事聞いてきたことなかったくせに、と素朴な疑問を投げかけると、何故か良守は慌てたように起き上がった。

「いや、気にしてるっていうか、単純にどんなとこなのかな〜って思っただけで!」
「それを気にしてるっていうんだろ。今頃そんな事言うって、何かきっかけくらいあったんじゃねーの?」

起き上がりながら言ってみろよ、と促してやると、良守はあ〜とかう〜んとか言いながら首の後ろをボリボリとかいて、それから言い辛そうに話し始める。

「この間さ、ハロウィンあっただろ。」
「あったな。」
「あの時兄貴帰って来てたし、あっちに戻るならと思ってハロウィン用のお菓子持たせたんだよ。子供達喜ぶかなと思って。」
「あ〜、あのカボチャのクッキー?みんな喜んでたって聞いたけど?」
「うん。喜んでくれたって刃鳥さんからお礼の手紙きたし、兄貴からも電話あった。」
「なら良かったじゃん。…で?」
「…それ報告してくれた時の兄貴の声が嬉しそうでさ。なんか子供達の事大切にしてるんだな〜とか、仲良さそうだよなって思って…。」
「それで夜行ってどんななんだろうって気になったのか?」

コクンと肯く良守を見て、閃は少々、いや多少呆れた。
なんだそれって結局やきもちってやつですか?しかもそれがやきもちって気付いてないっぽいし。
こいつの(もしくはこの2人の)度を越したブラコンっぷりには薄々気づいていたけど、自覚無しに子供にまで嫉妬ってどうなんだろう。

でもまあ仕方ないのかなとも思う。離れて暮らしてる上に、良守は夜行の事を殆ど知らないのだ。気になるのも当然かもしれない。


頭領は確かに仲間を大切にしている。面倒見もいい。
だがその気質は生来のものに加えて年の離れた弟をみていたという後天的なものも大きいだろう。
夜行の小さな子供達を見る目は優しいけど、それ以上に良守を見る目は厳しくも優しい事に当の本人だけが気づいていない。
何とも難儀な兄弟だと思う。

「頭領は俺たちによくしてくれるけど、一番大切にしてるのは夜行じゃねーよ。ったく、早く気づいてやれよな。」

閃の言葉に首を傾げて「気づくって何を?」と不思議そうにする良守を横目でちらっと見ながら。
やっぱり頭領には機嫌よく元気でいてもらわないと困るし。誰のためってそりゃ俺たち全員のためですが。
今回のこれは報告した方が良いんだろうな〜、と考える閃だった。




2010.4.7

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