両想いになって少し経過した頃の話




手放せない愛





この想いを愛と呼べるのか、本当は分からない。
こんな感情を抱いたのは今までたった一人で、他と比べようもない。
本当は離れるべきなのかと思った事もある。
心から愛しいと思う。手放したくはない。
だがその未来を潰しかねない自分の存在は、弟の為にならないだろう事だけは嫌という程分かるから。

ーそれでもきっと、自分からは離れてやれない。
そんな己の欲深さに、男はそっとため息をついた。





腕の中の弟が、安らかな寝息をたてて眠っている。
色々と疲れさせてしまったかもしれないと思いつつ、反省する気は正守には欠片もなかった。
少しずつ行為に慣れてきた良守は、未だ可愛らしい恥じらいを見せつつも素直に快楽に身を任せるようになり、時には強請ってみせることもあった。そのちょっとした仕草が愛しくて堪らない。

小さくて細くてしなやかな、未だ成長途中の躰。決して柔らかくもない、本来ならば性欲の対象にはなりえないその躰は、良守だと思うだけで正守の中の欲を簡単に煽る。

一生打ち明けるつもりはなかった。以前よりも少しだけ近くなった距離を保ったまま、いけ好かない兄として接していくのだと、それで良いと思っていたはずだったのに、今ではこんなにも近くにいる。この腕の中、安心しきったように眠る姿に正守の顔に自然と笑みが浮かんだ。
そっと近づきしばらく至近距離で眺めていたら、弟の顔がコテンと傾いてきた。スースーと規則正しい寝息がかかる。それすら甘く感じ、正守はぐっと近づいたそのこめかみに口づけた。

「良守・・・。」

抑えきれない想いを滲ませて正守が小さくその名を呼ぶと、微かにでも声が届いたのだろうか。良守の表情がふわりと微笑むように綻んだ。ん、とこぼれた甘さを含ませた声。ああ、と正守は心の中で呟く。

この愛しさだけはどうしようもない。

自分一人の事ならいくらでも耐えられる。触れる事も許されず、弟が成長して誰かと結ばれる姿を見守る、それがどれほど身を切られる程に辛くても耐えていけるとそう思っていた。
でも今はもう無理だ。

この手を取った事は間違いだったのかもしれない。それ以前に、実の弟を愛した事、それ自体が間違いだったのだろう。
それでももう手放せないのだ。
この手を取ってしまった、あの瞬間から。

どうしようもないくらいちっぽけな自分を好きだと言ってくれた。
泣きそうになりながら、必死にぶつかってきてくれた。
こんな存在を手放せるはずがない。

少しだけ長い前髪を指で払う。丸みを帯びた額が見えて、実際の年よりも幼く見えた。
光輝く存在を己の所まで引きずり込んだ、その責を負えと云われるならばうけよう。今はただ自分の存在全てで良守を愛し守る。出来る事をする、それだけだ。
自分と共にいる事を選んでくれた良守の為に。その想いに精一杯応える為に。

抑えきれない愛しさを抱え、正守はそっと腕の中の良守を抱きしめた。




2009.2.1

Novel