愛しい人との初めての口付け。正守の腕に包まれて良守は幸せを噛み締めていた。 ぽろぽろと零れる嬉し涙が良守の頬を濡らし、やがてその滴が胸元を辿り月光石へと流れ落ちた途端、辺りが白光に包まれる。 「な、に…?」 「これは…。」 唖然とする二人を包み込んだのは満月の光。優しいほどに柔らかな光は少しずつ弱まり、やがて消えていった。 「今の何だったんだろう。」 「さあ、良守に分からないなら…。って良守、お前髪が…。」 「え?…あっ。」 良守の髪は元の長さに戻っていた。それは髪だけではなくー。 「体が…。元に、女に戻ってる…。」 呆然としていた二人だったが、不意に正守が月を仰ぎ見て良守の手を取る。 「良守が跡継ぎを心配してたから、月が願いを叶えてくれたんじゃないか?粋な祝福をしてくれる。」 嬉しそうに言う正守に、良守も月を見上げた。月は海にいた時と変わらず良守を見守っていてくれたのだ。 「ありがとう…。」 微笑みながら涙を流す良守を抱き締め、正守も月に彼女を幸せにします、と誓うのだった。 夜の庭園を歩きながら色々な話をした。今までの事、そしてこれからの事。 その時「そういえば」と正守が楽しげに言う。 「良守が二人目なんだよね。」 「二人目って何が?」 「人魚から人になって、王家に嫁いだ姫。」 「えええ!?嘘だろ!?」 「あ、やっぱり知らなかった?随分昔の事だけど資料も残ってるよ。だから王家の人間は、海と月の加護があるって言い伝えられてるんだ。」 正守の言葉に、良守は過去に人になった仲間の事を思い出した。良守の前にただ一人、薬を飲み人になった人魚。人になれたのかその後どうなったのかも仲間達は知らなかったけど、ではその人も愛しい人に再会し、結ばれる事ができたのだ。 「俺達も負けないくらい幸せになろうな。」 正守の言葉に良守は頬を染め、嬉しそうに「うん」と頷く。 これからは楽しいことも辛いことも、全て二人で一緒に乗り越えていこう。 愛しい人が傍にいるなら何も恐れることはない。 ーこうして運命の導きによって出会った二人は、数々の試練を乗り越え、末永く幸せに暮らしました。 |