二人はあの浜辺へと向かっていた。波打ち際に辿り着くと、良守は正守に銀のナイフを渡す。思いっきり遠くへ投げて欲しいと頼むと、正守は言われた通りに力一杯ナイフを投げた。月の光を反射しながら弧を描き海へ落ちていくナイフ。やがて遠くで微かな水音をさせて消えていった。 「時音、みんな。色々心配かけてごめん。だけど俺もう大丈夫だから心配しないで。」 月光石を握り締め海に向かって言う良守を見守って、正守は良守を抱き寄せると自らも海に誓う。 「良守を奪って、返せなくてすまない。だけど絶対に幸せにするよ。」 二人の言葉が溶けた波の音に紛れて、「仕方ないわね」と苦笑したような時音の声が聞こえた気がした。 夜の庭園を歩きながら色々な話をした。今までの事、そしてこれからの事。 その時「そういえば」と正守が楽しげに言う。 「良守が二人目なんだよね。」 「二人目って何が?」 「人魚から人になって、王家に嫁いだ姫。」 「えええ!?嘘だろ!?」 「あ、やっぱり知らなかった?随分昔の事だけど資料も残ってるよ。だから王家の人間は、海と月の加護があるって言い伝えられてるんだ。」 正守の言葉に、良守は過去に人になった仲間の事を思い出した。良守の前にただ一人、薬を飲み人になった人魚。人になれたのかその後どうなったのかも仲間達は知らなかったけど、ではその人も愛しい人に再会し、結ばれる事ができたのだ。 「俺達も負けないくらい幸せになろうな。」 正守の言葉に良守は頬を染め、嬉しそうに「うん」と頷く。 これからは楽しいことも辛いことも、全て二人で一緒に乗り越えていこう。 愛しい人が傍にいるなら何も恐れることはない。 ーこうして運命の導きによって出会った二人は、数々の試練を乗り越え、末永く幸せに暮らしました。 |