嫉妬スパイス・チーズケーキ





「かーげーみーやー。秋津ー。いるんだろ?出てこいよー。」

キョロキョロと上空を見上げながら呼ばれ、閃は舌打ちした。なんだあの緊張感の無い呼びかけは。

「閃ちゃん、行かなくて良いの?良守君呼んでるけど。」
「分かってる!」

良守の方を指差しながら聞く秀に怒鳴ると、身を顰めていた木の上から飛び降りる。

「おお、いたな。」
「そりゃいるよ!お前な、俺達は一応表だっての活動はしてない諜報班なんだから、気軽に呼びつけるな!」
「えー、それって今さらじゃね?」
「今さらだろうと何だろうと、こっちは任務中なんだ。」
「それ言ったら俺だって仕事中だし。まあいいや。これ食おうぜ。」

そう言いながら良守が目の前に取り出したのは、タッパーに入ったケーキだった。

「…またケーキ作ったのか?」
「またってなんだよ。今回のは失敗してないんだからな!」

パカリと開かれたタッパーの中身はチーズケーキだった。確かに失敗作ではないらしく、ふんわりと焼き上がったスフレタイプのチーズケーキは見た目にも美味しそうだ。

「あれ、だったら時音ちゃんは呼ばなくて良いの?確かチーズケーキ好きだったよね。」

不思議そうに尋ねる秀に、良守は「良いんだ」と答えた。

「これ新作のレシピでさ。美味く出来てたら次は時音に食べさせようかと思って。」
「って事はこの間は残飯処理で今度は味見役か。お前、俺らの事なんだと思ってるんだ。」
「え、なんだっていうか普通に友達だろ?」

キョトンと答える良守に閃は毒気を抜かれた。なんつーか、素直っていうか。真顔で友達って照れずに言えるヤツも珍しい。
罪悪感は捨てたはずでも、さすがにこれだけ無防備だとどこか腹の底辺りがグルグルする。もうちょっと警戒心を持てと言いたくなるのを、奥歯を一度強く噛み締める事で堪えた。警戒心を持たれたら困るのはこっちだ。今、閃がやらなくてはいけないのは正統継承者の調査であり、一番に調べるべきはこの良守なのだから。
はあ、と思わずついた溜息をどう思ったのか、ますます良守は不思議そうな顔になった。横では秀が嬉しそうにしている。

「良守君は本当に優しいね。じゃあ有り難くいただこうか、閃ちゃん。」
「・・・・・・・・おう。」

学校内が見渡しやすい屋上に移動して、良守がはった結界の上で休憩する事になった。手掴みでケーキを食べようとする閃に、スフレは崩れやすいからと良守は紙製の皿とプラスチックのフォークを用意する。マメなやつだと思いながらも皿を受け取り、綺麗に焼き上がったチーズケーキを一口食べた。

「おいしい!良守君、凄いね。この間のチョコケーキも、ちょっと焦げてる以外は美味しかったけど、これも凄くおいしいよ。」
「ほんとか!?なあなあ、影宮はどう?」
「まあな、確かにうまいよ。」

素直に褒めると、良守が嬉しそうに頷いた。先日のチョコケーキはたしかに少し焦げていたけど、それでも結構おいしかった。このケーキのレベルを考えると、あのチョコケーキも焦げなきゃもっとおいしかったんだろうなと惜しい気持ちになる。

「よーし、2人がそう言うなら安心だ。次は時音に食べさせよう!」

ウキウキと自分も食べ始める良守を見て、閃は何だかなぁと溜息をついた。とてもじゃないが、烏森という裏会ですら危険視されるような特殊で強烈な力を持つ神佑地での会話とは思えない。ましてやその土地を守る正統継承者(14歳・♂)がケーキ作りが趣味で、妖が頻繁に現れるような所でケーキ食べながらお茶してるなんて、あまり人には知られたくないなと思った。何となく。
そんな事をぼんやり考えていた閃の耳に、空恐ろしい言葉が飛び込んできた。

「そういえばさ、ここには他の諜報班の人も来てるんだよな。翡葉さんっていったっけ。あの人とかは食べないかな?」

ぶぶーっ!!と良守の言葉に閃が思わずケーキを噴き出す。

「うわ、きったね!何やってんだよ影宮!」

咽せそうになるのを何とか堪えて口元を拭うと、閃は良守に怒鳴りつけた。

「馬鹿かお前!翡葉さんに『お茶しませんか』とか言うつもりかよ!?」
「何だよ、誘ったらいけないのか?」

憮然とする良守に閃は言葉を失う。何なんだこの恐いもの知らずは。というより無知すぎるのか。あの翡葉さんを誘うって発想自体が凄すぎる。

「あ〜でもあの人確かに甘いものとか嫌いそうだよな。このチーズケーキなら甘さ控えめなんだけど…。」

残念そうに呟く良守に、秀が慌てたように言う。

「そんな事ないよ良守君!翡葉さん、ああ見えて意外と甘いもの食べるんだ!」
「ほんと?じゃあ呼んでみる。」

すぐに立ち直り、先程と同じように「翡葉さ〜ん、いるんなら出てきてくんな〜い?」と大声で呼びかけている良守を見ながら、閃はガックリと手を付いた。何余計な事を言いやがるんだよと、気の良い仲間の余計な言葉に閃は歯軋りする。別に翡葉が嫌なわけでも恐ろしいわけでもないが、この状況で一緒にお茶して楽しめるかと言われれば答えは否だ。大体あの翡葉が呼ばれたからと言ってノコノコ出てくるとは思えない…という閃の考えはすぐに覆された。

「呼んだ?」

ひょっこりと現れた翡葉の姿に、閃は「げっ」と言いかけるのを辛うじて留めた。結構気紛れな所がある諜報班の大先輩が極自然に近づいてくる。調査の為、ある程度良守に近づく事を許されている自分達とは違い、本来なら何か有事でも起こらない限りは姿を出さないはずの彼にしては珍しい。ましてや呼びつけられたのに機嫌が良いというか楽しげな顔をしていた。訝しがる閃を横目に、3人のすぐ目の前にやってきた翡葉に良守がケーキを指差しながら尋ねる。

「翡葉さん、良かったらこれ食べない?」

良守の言葉に翡葉はケーキを見て、それから3人をぐるりと眺めた。「君が作ったの?」との翡葉の質問に、良守が頷いて答える。
数秒真顔で考えた後ふっと僅かに視線を反らし、それから翡葉はにこやか(閃から見れば多少胡散臭げ)な笑みを浮かべた。

「俺は遠慮しとくよ。」
「え、翡葉さんチーズケーキ嫌いでしたか?」

驚いたように聞いてくる秀に、翡葉は軽く首を振った。

「そうじゃなくて。美味しそうだし食べたいけど、俺も我が身が可愛いからさ。」
「「「???」」」

翡葉の言葉に3人が首を捻る。チーズケーキを食べるのに我が身の心配とは何だろう。

「…別に変な物は使ってないから、腹を壊したりはしないと思うけど。」

不満そうな顔をする良守に、翡葉がほんの一瞬だけニヤリと笑ってすぐにまた元通りの表情に戻る。

「そういう意味じゃないよ。まあ、その内分かるかもね。」

誘ってくれてありがとう、と背中越しに軽く手を上げ、その場をあとにする翡葉に3人はまた首を捻った。

「なあ、さっきのどういう意味?」
「…さあ?」

その時の閃には、本当に翡葉の意味ありげな言葉と笑みの意味が分からなかった。だからあまり考えるのを止めてまたケーキにかぶりつく。取り留めのない話をしながら平和な夜が過ぎていった。ーその人が現れるまでは。





さわ。

風が流れたような気がして閃は振り返った。彼が一番最初に気付いたのは、誰よりも気配に敏感なその能力のせいだろう。これが妖であれば、この烏森にいる以上良守が一番に気付いたのだろうが、その時現れたのは妖ではなかった。幸か不幸か。

暗闇の中から溶け出すように現れた長身の影。閃がその名を呼ぶ前に、後ろから「兄貴」、と少し驚いたような良守の声がした。やがて羽織を翻しながら姿を見せたのは墨村正守ー、閃達が所属する夜行の頭領だった。この烏森を守護する墨村の長男であり、良守の兄でもある。
裏会から烏森のバックアップを任されている夜行から閃達をここに派遣したのは正守であり、また実家でもある事から彼が烏森に現れる事はここ最近では珍しい事ではない。

ほとんど消された気配と足音。月明かりと暗闇の間から跳ね上がる正守の相棒、黒姫。これほど気配を抑えているというのに、そこにいるだけで辺りの空気を支配してしまうような圧倒的な存在感。それはいつもと変わらないのだが、閃は僅かな違和感を感じた。

「頭領、お疲れさまです!」

一瞬の間を置いて秀が挨拶するのに、閃もハッと気付いて頭を下げる。

「やあ、2人とも元気そうだな。」

手をひらひらと振りながら答えると、正守はさり気なく良守と手元のケーキに視線を移した。

「ーピクニック?」

口元に手を当て、苦笑しながら言う正守に良守が口を尖らせる。

「なんだよ。別に良いだろケーキくらい。」
「誰も悪いとは言ってないけどね。」
「いーや、その顔が言ってる。お前も食え!そしたら俺達と同レベルだ!」

その言葉に、おいいつの間に俺達まで一緒くたにしてるんだ、俺達お前と同レベル?とは思ったが、さすがに頭領の前でその実弟を貶めるような事も言えなくて閃は開きかけた口を慌てて手で塞ぐ。その正守の方はいつものポーカーフェイスで弟を見ていたが、ケーキを切り分けた良守に紙製の皿ごと突きつけられると素直に受け取った。良守の期待に満ちた眼差しを一身に受けてケーキを口にする。

「ーうん、うまい。」

兄の飾り気のない純粋な賛辞に、良守の顔が綻んだ。嬉しそうに正守に話しかける。

「なあなあ兄貴、今までのヤツとどっちがうまい?」
「そうだなぁ。どっちってのはタイプが違いすぎて比べようがないけど。まあ、時音ちゃんに食べさせるならこっちの方が良いんじゃないか?食感が軽いから、この時間に食べても胃凭れしなさそうだ。」
「…何で時音に食べさせようって思ってるの分かるんだよ。」

さては隠れて俺達の会話聞いてたのか、と不機嫌になる弟に正守が苦笑する。

「聞いてなくたって大体分かるよ。チーズケーキは昔から時音ちゃんの好物だし。」

正守の言葉に、良守が更に不機嫌になった。完全に見透かされている事と、幼馴染みの好物を兄が知っている事への不満からだろう。そんな弟に正守が笑いかける。

「こういうフワフワしたのって女の子は好むから、きっと時音ちゃん喜ぶよ。」
「ーほんとにそう思う?」
「思う思う。」

途端に良守が笑顔になり、今回のは卵白を増やしてたっぷり泡立てたんだ、などと嬉しそうに説明している。相手が相手だけに仕方ないのかもしれないけど、簡単に手玉に取られてる辺り何て単純なんだろうと閃は思わず溜息をついた。すると一瞬だけ、視線を感じて顔を上げる。微かに感じたのは正守からの視線で、何となく見たという感じのものだったが妙に気に掛かった。喉の奥に何かが詰まったようなモヤモヤした気分になり、閃は眉を顰めそうになるのを何とか堪える。感情を簡単に外に出すな、そう教わったのはそう昔のことじゃない。

その間も正守は良守の話を楽しげに聞きながらケーキを食べていた。甘いもの好きだから意外とそういう話に興味があるのか、それとも弟の話を聞くのが楽しいのかは…まああまり考えないようにしようと、閃はペットボトルのミネラルウォーターを飲みながら秀と取り留めのない話をする。やがてケーキを食べ終えた正守は「さて、そろそろお仕事に戻るかな」と立ち上がった。

「もう戻るのか?」

心なしか残念そうな良守の言葉に、正守が微笑む。

「翡葉と打ち合わせときたい事があるんだよね。それ終わったら、ちょっと家にも寄るから。」

また後でな、ケーキうまかったと言われれば良守も頷くしかない。

「そっか。じゃあまた後で。」
「ああ。閃と秀も頑張って。でもあんまり無理はしないようにな。」
「はい!ありがとうございます!」
「頭領もお気をつけて。」

嬉しそうに大きく返事をする秀とお辞儀する閃を見て、正守がそうそう、と思い出したように顎を撫でながら言う。

「思ってたより、お前達が仲良くなってくれたみたいで嬉しいよ。」

にっこり。笑顔としか言いようのない顔で言うと正守はまた闇の中に姿を消した。残された僅かな気配にどこか寒気を感じるのは…多分気のせいじゃないだろう。
これか、と閃は自分の中の何かがはまったような気がした。
いつもと同じ様でいて、どことなく違う正守。

『俺も我が身が可愛いからさ』

ふいに先程の翡葉の言葉が脳内に甦る。その内分かると言っていたのは、恐らく今夜正守が烏森に来る事を知っていたに違いない。

(それならそうと言ってくださいよ、翡葉さん…)

自分ばかり逃げるなんてズルい、とこの場にいない上司的な仲間に心の中で愚痴る。きっと彼の事だ。この状況をどこかで見ながら面白がってるに違いない。そう思うと後でたっぷり文句を言うくらいは許されるはずだ、と閃は考えた。
珍しいものを見れたからといって、それを面白がれるほどまだ自分は大人じゃないのだ。ましてや相手はあの墨村正守。裏会最高幹部十二人会に最年少で名を連ねる程の人物で、閃達夜行の仲間には厳しくも優しい頭領といえども反面恐い存在である事は間違いない。
そんな彼だって一人の男。確かにそう思うと有り得ない話じゃないのだが…。今までの冷静沈着な姿しか知らない閃には意外だった。

嫉妬、だなんて。誰だって持ち合わせている当たり前の感情なのだけど。それは分かるのだけど。

(相手がよりによってコイツだから、余計に腑に落ちないのかな〜)

横目でちらりと良守を見ながら、閃は存外失礼な事を考えた。だがだからといって、どんな相手ならば嫉妬する正守というのを納得できるかと言われても困ってしまう。例えば副長であり正守の補佐役である刃鳥。例えば最近夜行に正式に入った鬼使いの春日夜未。夜行には女性が少ないけど、一般的に言って魅力的だろうと思われる人はいる。短パン女だって、黙っていれば正守の横に並んでも絵になるだろう。
だけどいくら魅力的な美女相手だろうとも、正守が嫉妬したりする姿は想像できない。冷静に、スマートに。どこか一線を置いた態度をとる彼しか思いつかないのだ。
そういう意味では今日のように、良守に関する事で嫉妬する正守というのは腑に落ちないようでいて変に納得は出来てしまう気がする。これも2人が抱える複雑な感情と関係からの事だろうか。まあどちらにせよややこしい2人の間でいらん嫉妬を買ってしまった事は間違いない。

(こんな厄介で手間のかかる相手、その気になるのなんて頭領か人外しかいないですよー)

そう心の中で呟くと、閃はもう一度ちらりと良守を見て。嬉しそうにケーキを食べる姿を見ると大きな溜息をついた。






良守が家に帰ると兄が部屋で待っていた。

「お帰り。」
「ただいま兄貴。もう打ち合わせは終わったのか?」
「ああ。打ち合わせっていうよりちょっとした確認だったからさ。すぐ終わったよ。」
「ふ〜ん。だったら横にでもなってたら良かったのに。」

普段忙しく、睡眠時間も少ないだろう兄を気遣って言うと、正守が肩を竦めて何故かバツの悪そうな顔をする。
不思議に思っていると手招きされたので良守がディバックを降ろしながら近づくと、腕を引かれて兄の胸元に倒れ込み、あっという間にその懐に閉じ込められた。そのいきなりの行動に危ないだろうと文句を言おうとした良守だったが、ぎゅーっと強い力で抱き締められて面食らう。肩口に寄せられる正守の頭。それが抱き締められているというより縋り付かれているように感じて、良守は思わずその頭をポンポンと軽く叩いた。

「兄貴?」
「んー?」

呼んでみてもどこか上の空のような生返事。何だか様子がおかしいな、と良守は思った。

「おい、どっか具合でも悪いんじゃねーの。」
「いいや?体調ならすこぶる良好だよ。」
「じゃあ何かトラブルでも。」
「至って平穏。取り敢えず差し迫った問題はないね。」

そう言いながらも正守は良守を抱き締める腕にぎゅうぎゅうと力をこめる。ちょっと苦しいくらい拘束するその腕に、良守は自分の手を添えた。

「ー夜行とか関係なしに、何かあったのか?」

いつもよりも優しげに尋ねてくる声に、正守が顔を上げた。すると腕の中から良守が正守を見上げている。曇りのない黒曜石の目が、真っ直ぐ静かに見つめてくる。
こんな風に大人の顔が出来るようになったのかと、正守は変に感慨深い気持ちになった。
フッと正守が微笑する。それはからかうようなはぐらかすようなものではなく、自嘲するような笑みだったから良守は眉をよせた。こんな顔をする正守は珍しい。するとまた正守が顔を伏せて良守の首筋に顔を埋めた。

「大した事じゃないよ。少し落ち込んでるだけ。」

小さな、呟くような声。だがその唇が言葉を紡ぐだけで吐息が皮膚をなぞり、良守は微かに身を震わせる。

「落ち込むってどう、…っ!」

『どうしたんだ』。そう尋ねようとした良守の言葉を封じるかのように、正守は埋めていた首筋に舌を這わせた。それだけの動きで良守の中の官能の炎に種火が灯される。軽く身動ぎする弟の肩を押さえた。

何かという程の事は起こっていない。弟と、家族のようにも思う夜行の仲間である閃と秀が3人でケーキを食べる姿を見ただけだ。
特殊な家業ゆえあまり親しい友人を持たない弟と、異能ゆえに早くから親から捨てられたり捨てたりで家を出るしかなかった子供達。それが仕事を通しての繋がりとはいえ仲良くなれたのなら本来は喜ぶべきだ。限の時もそうだったが、能力的に適任という理由以外に、普段は縁のない学校生活を体験させてやりたくて。それを願ってあの子達をここに寄こしたのは他ならぬ正守だった。実際それがうまくいったというのに。
とても些細で微笑ましいとも思えるような光景を見て、喜びと共に正守の中に渦巻いた感情。
それが何と呼ばれるものなのかくらいは流石に知っている。あれは「嫉妬」だ。
自分が育てたのも同然の子供達相手に嫉妬するなんて。しかも抑えきれずそれを滲ませる言動をしてしまった。閃は能力的にもそうだが、人の心の機微に聡い子だ。自分に向けられた感情にも気付いただろう。
悪い事をした、と一応は反省してみるものの、同じ様な場面に遭遇した時同じような態度を取らないとは断言出来ないのが辛いところだ。何しろ良守に関する事だと性格が変わる自覚はある。そもそも誰かに嫉妬するなんて事自体が弟絡み以外では考えられない事だった。

我ながら情けないし格好悪いと思う。だがそれも俺だ。良守にしか引き出せない真実の姿。
そんなのも悪くないと思えるのは、相手が良守だからだろう。
良守の首筋を辿り耳朶を嬲り、こめかみにちゅっとキスをする。すでに潤みはじめた瞳が愛おしい。

「まだまだ俺も若造だよねぇ。」

僅かに頬を染めて見上げてくる良守に笑いながらそう言うと、「はあ?」と訝しげな顔をされた。
弟に負けてるのなんかいつもの事だけど、それをそうそう明かしてやるのも癪だ。気付かれるまでは教えてやらないでおこうか、それともいつかは話してやろうか。

お前を取り巻く全てに嫉妬してる。そんな事を打ち明けたらお前はどんな顔をするのかな。

それはちょっと見てみたい気もするけど、やっぱりもう少し先の楽しみに取って置いても良いだろう。
正守はもう一度腕の中の存在を強く抱き締めて、それから「嫉妬」という感情を教えてくれた弟が自分のものである事を再確認する為に、意図を持って頬から耳に指を這わせた。ピクリと反応する良守ににっこりと微笑むと、「訳あって、今夜は寝かすつもりはないから」と宣言する。「どういう意味だっ」と真っ赤になりつつ慌てて逃げようとする細い体を難なく押さえ込むと、そのまま思う通りにその躰を味わった。それはもう一晩かけて念入りに。






翌朝。ようやく解放された良守が、引きずり込まれそうになる睡魔と戦いつつ「訳ってなんだったんだ」と正守に聞いた。
散々好きにしたんだからそれくらい教えろと言われて、「俺はまだいけるんだけど。もっと散々させてくれるなら教えてあげるよ?」とにやりと笑って言うと、良守が大きくブンブンと首を振る。その慌てっぷりが面白く、でも流石に無理をさせたなと苦笑いして正守は良守の髪を梳いてやる。

今教えなくても、いつかお前は知る日がくるよ。どれほど俺がお前に執着してるか。

そんな想いを隠したまま何度も何度も髪を梳いていると、ついに睡魔に負けたのだろう。良守の目がうつらうつらと閉じられて、やがて完全に眠ってしまった。
眠ってしまうと、先程までの情事の最中みせていた艶が消え去って、残るのはまだ子供らしいあどけなさばかりだ。昔、正守の後を必死に着いてきたあの頃とちっとも変わらない。

それが愛しくてどこか切なくて。正守は屈み込むと眠る弟にそっと口付けた。














25万打企画その6&平成20年初アップ・元旦

リクエストは尚花さんで

「部下(限でも閃でも、その他の方でもオッケーです。複数でも可)と仲良しな良守にやきもちを
焼いて意地悪をしてしまう正守。何で正守の機嫌が悪いのかわからず、戸惑う良守」

だったのですが…。

すみません!リクから大きく脱線しまして、意地悪は閃にしちゃってます!
何かうちのまっさんではよっしに意地悪出来なかった…。猛省。大猛省。
軌道修正しようと途中四苦八苦したのですが、どうにもならず…。
このままだとただお待たせする期間が長くなるだけだ、と踏ん切りをつけさせていただきました。
尚花さん、お待たせした上にこんなんでほんとーにごめんなさい〜;;
返品というより叩き返してくださっても結構ですので!

本当は限を出したかったのですが、うちの正良は限が生きてる頃はまだ告白しあってないので
ちょっと残念でしたが諦めました。その内限も書きたいなー。



2008.1.1

Novel