今日はなにが食べたい?
「う〜ん。」 冷蔵庫の中をチェックしながら、良守は小さく唸った。 普段の食事は交代制だが今日は祝日で時間がたっぷりある。昼食は簡単にパスタでも作るにしても、夕食はちょっとくらい手をかけて作りたい。 だがいざとなると何を作ろうか考えつかないものだ。世の主婦の苦労が分かる気がした。そして改めて、毎日バランスの良い献立で食事を作ってくれていた父を尊敬する。 チラシでもチェックしてみるかと、良守はいったん部屋に戻った。新聞を広げている正守の横からガサガサとチラシを物色する。 「なあ兄貴、今夜何か食べたい物ある?」 めぼしいチラシを抜き取りながら、良守は正守に聞いてみた。すると正守が意外そうに新聞から目を離す。 「なに、もう夕飯の話?」 朝食を食べてくつろいでいた所への唐突な質問に、正守は笑いながら新聞を折り畳んだ。 「うん。今日はする事ないから時間もあるし、手の込んだのも作れるしさ。」 何がいっかな〜と近所のスーパーのチラシを見る良守の姿を見て、正守はちょっと考える。 外は晴天で今日は休日。二人とも特に用事もないから、確かに時間はたっぷりある。 「良守。たまにはいつもと違う所に買い物行ってみないか。」 「いつもと違う所?」 顔を上げた良守の手元を探り、正守は一枚のチラシを広げてみせた。 「ココ。ちょっと離れてるけど、散歩がてら歩いて行ってみない?」 正守が示したのは、いつも行くスーパーよりも少し離れた大型スーパーだった。普段は行かないけど品揃えは文句なしに良いし歩けない距離じゃない。 「いつもと違う食品みたら、夕飯のメニューも浮かぶかもしれないし。昼食もあっちで食べればいいだろ。」 正守の提案に良守も肯く。 「それも良いかもな。じゃあ、軽く掃除してから出かけるか。」 そうして二人は家から徒歩2〜30分程のスーパーに行く事になった。 空は晴天、気温は麗らかな休日。可愛い可愛い弟兼最愛の奥さんと一緒に買い物に出かける。正守はそんな今の自分の状況に思わず顔がにやけそうになった。 幸せってこういう事を言うんだろうな〜。 今なら誰に何を言われても笑って許せそうな気がする。あくまで気がするだけだけど。 横を歩く良守の顔も心なしか楽しげに見える。 ああ可愛い。ちゅーしたいけど流石にこんな人通りの多い所でやったら怒られそうだ。前に我慢できなくて道ばたでやったら凄い剣幕だったしな。ホッペだったのに。照れからきてるのは分かるし、怒ったところも可愛いからついこっちもからかってしまってますます怒らせたっけ。その後2日間口きいてもらえなかったのは辛かった。それだけに仲直りした夜は燃えまくったし、良守も寂しかったらしく縋るように甘えてくれてそれはそれは可愛いかったけど、それまでが地獄だったからあれはもう勘弁してもらいたい。 徒然そんな事を考えながら、良守と道ばたの店のあれこれを話す。あのパン屋のメロンパンがうまいって聞いただの、八百屋の店頭で売られていたトマトが真っ赤だの、そんな他愛もない会話を交わしながら歩く内に、目当てのスーパーにはあっと言う間に着いてしまった。 歩いたせいか小腹も空いていたのでフードコートでクレープを食べて軽い昼食をすませ、夕食の材料を買うべく店内を物色する。 鮮魚コーナーで普段見かけないような魚を見てはしゃぐ良守に、今日はここに来て本当に良かったと正守は思った。 結局、新鮮な鯵が売っていたので、それを刺身にする事にした。捌くのは正守の役目だ。その間に良守は他の副菜や味噌汁を担当する。 買い込んだ材料を手に持ち歩く帰り道。正守は隣を歩く良守に声をかけた。 「なあ良守。また時間ある時は、こうして一緒に買い物行こうな。」 微笑みながらそう言う正守の言葉に、良守は一瞬目をぱちくりさせてー。それから頬を染め、「うん」と嬉しそうに肯いた。その可愛らしい表情に我慢できなくなった正守が、身を屈めて良守の髪にキスをする。 驚いた良守に肘鉄されながら、これも幸せな痛みだよな、とニヤケるのを抑えられない正守だった。 |
2009.8.22
バックミュージックはきっとチャーミーグリーンのあれ