待ち受け画面は奥さんです





「頭領、なにを熱心に見てるの?」

書類仕事で部屋にこもっている正守にお茶を運んできた亜十羅は、携帯電話の画面をじっと見る正守に声をかけた。

「ん?あ〜、そういえば亜十羅にはまだ見せてなかったなぁ。」

これこれ、と携帯を差し出されて亜十羅は覗き込む。そこに映っていたのは白いエプロンを身につけた良守の姿だった。そのエプロンには覚えがある。

「あら!これって・・・。」
「そう。亜十羅達がくれたあれだよ。似合ってるだろう?」
「やだほんと!良守君ったらかっわいい〜!!ちょっと表情が硬いけど。」

そのエプロンは亜十羅と戦闘班3人から、正守、良守への結婚祝いに贈った品だった。とはいっても、新婚といったらこれ、とばかりに決めた白くてフリフリとしたいかにも若奥様風の可愛らしいエプロンを、男の良守が着てくれる可能性は低いと考えていたのだが・・・。硬い表情からいっても喜んでいる様子ではない。

「よく説得できたのね。絶対嫌がると思ったのに。」

亜十羅の言葉に正守は苦笑しながら言った。

「まあね〜。そこは粘り勝ちというか、情に訴えたというか。伊達に長年あいつの兄をやってるわけじゃないよ。」

弱い所は把握済みです、とニヤリと笑うその姿に、エプロンを贈った張本人とはいえ少しだけ良守に同情する。世間慣れしていなくて擦れた所のないあの少年が、そういう面でこの頭領に敵うはずがない。何しろ目の前のこの男は、裏会でもトップクラスの厄介な化け物達と長年渡り合ってきたのだ。
でもまあ、そのおかげでこうして良守の可愛い姿をみれたのだからよしとするか。
自分には害のない事なので、亜十羅はあえてスルーする事にする。

「それで頭領、良守くんが着てくれたのはこの時だけ?」
「いや、それがさ。一度着ちゃったら吹っ切れたみたいでその後も使ってるんだよ。勿体ないから洗い替え用にって。でも普段使ってるのがデニム地のだから、白いのは汚れやすいって言ってた。」
「ああそうかも。良守くんお菓子作るし。チョコとか飛んだら最悪なんじゃない?」

あれってやっぱり観賞用なのね、と言うアトラの言葉に正守も肯く。

「でも亜十羅達のおかげで可愛い良守を見れたよ。ありがとう。次は春日さんからチャイナ服もらう予定だから、写メったら見せたげるね。」
「チャイナ服!?ねぇねぇ、それって丈はロングなの?ミニなの?」
「確か膝丈だって言ってたなぁ。でも良守が着たらミニになるかもね。」
「や〜ん、楽しみ〜!いっそお化粧もしちゃえば良いのに!私やったげるわよ?」
「う〜ん、でも良守はそのまんまで可愛いからなぁ。」
「やだ、ご馳走さまだわ、頭領ったら。」

うふふあははと笑いあう二人。その頃、学校にいた良守は盛大なクシャミを連発していた。同時に悪寒に襲われて、風邪でもひいただろうかと鼻をすすりながら訝しむ。
その理由がまさか兄にあろうなどとは露ほども思わない良守だった。



2009.5.7


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